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高強度~「筋肥大」を最大化するために~

はじめに


今回は筋肥大におけるメカニカルテンション(機械的張力)の重要性について説明し、筋肥大を誘発するメカニカルテンションを得るには、高強度(高重量低回数)トレーニングが効率的であることについて、生理学的、科学的観点から説明する。この記事を読むことで、「なぜ5~8RM低度の高強度トレーニングが筋肥大に有効か」が理解できる。


筋肉の増加には、筋肥大(hypertrophy)と筋形成(hyperplasia)の2つの様式が存在する。


我々は筋力トレーニングを通じて骨格筋が大きくなることを望んでいる。筋力トレーニングでは、骨格筋増加の可能性を最大化させる必要がある。

ところで、「筋肉の増加」という結果を得るには、大きく分けて2つの過程、方法が存在することを知っているだろうか。それは筋肥大(hypertrophy)と筋形成(hyperplasia)である。

筋肥大とは、「既存の筋繊維の大きさが大きくなることで発生する筋肉量の増加」である。一方で、筋形成とは、「新しい細胞、筋繊維を発現、成長させることで発生する筋肉量の増加」である。筋肥大も筋形成も、筋肉量の増加という結果は起こっているが、その過程が異なることが分かる。


筋肥大と筋形成、どちらも筋肉量の増加という結果は生じているが、結果に到るまでの過程が異なることが分かる。


筋肥大は、筋力トレーニングにより細胞へ直接的、機械的な負荷が与えられた際に発生する。筋形成は、筋力トレーニングや休養により成長ホルモンやIGF-1といった内分泌系ホルモンが活発になることで発生する。

筋肥大と筋形成の過程を簡略化すると、筋肥大はメカニカルテンションによる骨格筋への機械的負荷により発生する。筋形成はメタボリックストレスや生活の質の向上で、内分泌系ホルモンが分泌されることで発生する。

我々のトレーニングは、筋肉の増加の可能性を最大化する作業であるため、筋肥大と筋形成両方のアプローチを行うことが大切である。筋形成を得るための理論についても、のちに記事にするつもりである。今回の記事では、「筋肉の増加」の要素のうち筋肥大に焦点を絞り、筋力トレーニングを通じて筋肥大を得るための理論を紹介する。

メカニカルテンション~筋肥大実現最大の要素~


メカニカルテンションとは


[i]メカニカルテンション(機械的張力)とは、骨格筋が引っ張られる際に発生する機械的刺激である。機械的張力は筋肥大に効果的であり、[ii]メカニカルテンションこそが、筋肥大を誘発する最大の要素であると示唆されている。


[iii]またメタアナリシスでは、メカニカルテンションによって筋形成も発生することが示唆されている。以上のことから、筋肉の増加のためにメカニカルテンションがいかに大切であることか理解できるだろう。


真のエキセントリック収縮とは


メカニカルテンションは真のエキセントリック収縮(ネガティブ)が骨格筋にかかる際に増大する。真のエキセントリック収縮とは、「コンセントリック収縮が不可能か可能かわからないギリギリな負荷を使用した際に骨格筋にかかるエキセントリック収縮」である。


真のエキセントリック収縮時はセットの最後の数レップの際に発生する。例えば8回ギリギリできる重量でのベンチプレスを行う際、最後の2~3レップ目は、素早く挙上しようとしても、負荷が強いため挙上速度が低下し、あたかもゆっくりと重りを挙上しているようになる。もしくは重りに全力で抵抗するもむなしく、重りを挙上することができないかもしれない。


このように、高負荷の重りを全力で挙上しようとする際に発生する真のエキセントリック収縮こそが、機械的張力の増加に寄与する。[iv]エキセントリック収縮を得ようと、コンセントリック収縮を容易に行えるにもかかわらず挙上速度を遅くしても、またエキセントリック収縮の時間を意図的に多くしても機械的張力の増加は見込めない。それもそのはずである。本来、エキセントリック収縮は不可が筋出力よりも大きい時に発生する収縮様式であり、コンセントリック収取が可能な負荷をエキセントリック収取のように扱っても、筋肥大を誘発するメカニカルテンションは十分に得られないだろう。


骨格筋の収縮様式の詳細についてはこちら


筋肥大誘発レップとは何か。


上記の説明で、メカニカルテンションの発生には真のエキセントリック収縮が必要で、真のエキセントリック収縮は挙上の限界の数レップ前から発生することが分かった。


筋肥大誘発レップとは、メカニカルテンションが筋肥大に重要であること、メカニカルテンションは挙上の限界の数レップ前に増加する、ということを踏まえた考えであり、「挙上の限界前の5レップ」と定義される。そして筋肥大誘発レップに基づけば、「追い込み前の5レップこそが筋肥大を誘発するレップ」であり、「筋肥大誘発レップ内でのトレーニングボリュームの増加が筋肥大につながる」と仮定できる。


最大挙上回数(RM)と筋肥大誘発レップの関係を表した図。高強度であるほど、筋肥大誘発レップに到達するまでの回数が少ない。


例えば、1RMの場合、筋肥大誘発レップは1レップ、3RMの場合の筋肥大誘発レップは3レップとなる。15RMの場合、理論上は15回反復することができるため、最後の5レップ前の10レップは筋肥大誘発レップではないことになる。


また筋肥大誘発レップでは、反復の限界の手前でセットを終了した場合についても考察される。なぜなら、毎セット限界まで行うセット数を増やすと、疲労の過度な蓄積を招き、長期的に見た際の筋肥大効率が低下する可能性が高いからだ。反復の限界の1レップ手前で終了し、セット数を少し増やすことで、過度な疲労の蓄積を軽減しつつ、筋肥大誘発レップを増加させることができるかもしれない。例えば、限界の1レップ前で1セットを終了し4セット行った場合と、限界まで反復し3セット行った場合では、前者の筋肥大誘発レップは16レップ、後者は15レップとなる。前者の方が、疲労の蓄積を軽減しつつ、筋肥大誘発レップを増加できるかもしれない。


最大挙上回数(RM)と筋肥大誘発レップ-1レップの関係を図に表したもの。


※これは私の私見だが、私は各セット限界までしっかり追い込んで、セット数を少なくすることが、疲労の蓄積を軽減することだと思っている。なぜなら、オーバートレーニングの原因は高強度(高重量低回数)ではなく高ボリュームである可能性が高く、追い込みを回避してセット数を増加させれば、ボリュームが増加してしまうからだ。


以上、筋肥大誘発レップというモデルについて説明してきたが、この理論に基づけば、5~8RM低度の高強度トレーニングを、毎セットしっかり限界まで反復しようとすることこそ、筋肥大を最大化する方法であるといえる。


ここで反論が予想される。上記の図にもあるように、15RM程度の中重量を扱った場合でも、限界まで反復すれば高重量と同様の筋肥大誘発レップ、メカニカルテンションを得ることができる。さらに、筋肥大誘発レップではないレップには、コンセントリック収縮による内分泌系ホルモン分泌というメリットがあるため、まったくもって無駄というわけではなく、総合的に見れば15RM程度のトレーニングの方が筋肥大には有効と考えることが可能だ。


以下に、筋肥大を誘発するメカニカルテンションを得るために、5RM~8RM低度の高強度トレーニングを行う方が、より効果的、効率的である理由を述べる。


全か無の法則から見る高重量トレーニングの優位性


全か無の法則とは、「ある一定の運動単位内の個々の筋繊維は興奮して最大収縮するか、まったく収縮しないかのどちらか」(Thompson Floyd,2021,p.22)という法則である。特定の筋肉の発揮する力の大きさは、動員される筋繊維数に依存するといえる。そして、動員される筋繊維数は、筋肉の受ける負荷が高いほど多くなる。


例えば、ベンチプレスで本来100㎏の重りを上げることができる人間が20㎏でベンチプレスを行う場合、動員される筋繊維の20%のみが運動に動員され、他の80%の筋繊維は運動に参加していないことになる。筋繊維の力発揮は0か100しかなく、筋繊維すべてが、全体の20%の力を発揮して運動するわけではないのだ。この事実から、低重量のトレーニングは対象筋に機械的張力を与えるという目的を達成するには不向きである。高重量トレーニングの場合は1レップ目から対象筋のほとんどの筋繊維に張力が発生するのに、低重量トレーニングでは少ない筋繊維にしか張力が発生しない。


確かに、低重量トレーニングでも、20%の筋繊維がオールアウトすれば、残りの筋繊維が運動に動員される。しかしオールアウトまでの回数が多く、途中で音を上げてしまえばすべての筋繊維を動員せず運動を終わることになる。現実的には極めて低重量でのトレーニングで高重量のトレーニングと同様の筋肥大を得ることは困難で、効率が悪い。


筋肥大のためには、対象筋にメカニカルテンションを与えることが必要になる。メカニカルテンションを対象筋に与える手段として筋力トレーニングを行う場合、全か無の法則より、高重量トレーニングの方がより早く、より多く対象筋にメカニカルテンションを与えることができ、低重量トレーニングよりも効率的かつ効果的と考えられる。


低強度(低重量高回数)トレーニングはグリコーゲンを多く消費してしまう。


ヒトのエネルギー系、エネルギー供給系に生理学ついては、有料記事であるがこちら記事でかなり詳細に説明している。


簡単に説明すると、中強度、低強度トレーニングでは、ヒトのエネルギー供給系のうち糖質(グリコーゲン、グルコース)をエネルギーとして利用する解糖系が支配的になる。高強度トレーニングでも解糖系によりエネルギーが供給される。低強度トレーニングでは、筋肥大誘発レップに到達するまでに多くの糖質がエネルギーとして利用される。一方で高強度トレーニングでは、最初から糖質を筋肥大誘発レップの際に利用できる。


つまり、高強度トレーニングの方が、低強度トレーニングと比較して、少ないエネルギーの消費量で筋肥大を誘発することが可能である。


まとめ


今回は、筋肥大実現最大の要素であるメカニカルテンションと、メカニカルテンションによる筋肥大を得るために有用な筋肥大誘発レップについて説明した。確かに低強度のトレーニングは、限界まで行えば高強度トレーニングと同様の筋肥大結果を得ることができる。しかし、全か無の法則と、骨格筋収縮時の生理的現象を踏まえると、高強度トレーニングの方が同様の結果を得るには効率的であると言わざるを得ない。


「5~8RM程度の強度でのトレーニングを反復できなくなるまで行う。」結論としては何の面白みもないが、過去の研究や生理学等の知見を勘案すると、この面白みのない行いこそ筋肥大を最大化する方法である。


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参考資料

[i] https://tinyurl.com/27rerw4n

[ii] https://tinyurl.com/2l9g7mhz

[iii] https://tinyurl.com/2j9xkf5a

[iv] https://tinyurl.com/2ng34lvc

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