5月21日 天皇杯1回戦 奈良クラブ 0-1 HondaFC 感想



二兎追う者は一兎も得ず

la avaricia rompe el saco (スペイン語)


意味:うさぎを二兎同時に追いかけても、結局両方とも捕らえることはできない。 二つのことを同時に成し遂げようとしても、結局どちらも失敗に終わるということ。(Wiktionary参照)


スターティングメンバーの発表から、HondaFCの安部監督と奈良クラブのフリアン監督の天皇杯への思いの違いが如実に表れたこの試合。HondaFCのスタメンは前節の鈴鹿戦と同じメンバーで、控えは8番と25番の2名の選手が2番と26番の2名の選手と替わってベンチ入りという構成。一方奈良クラブのスタメンは前節の高知戦からアルナウ、加藤、平松、寺村、山本、森田、可児、森、浅川、嫁阪選手の10名の選手が金子優、小谷、都並、寺島、金子雄、片岡、桑島、長島、浜田、片山選手の10名の選手と替わり、控えは國領選手が新たにベンチ入りし、アルナウ、加藤、寺村、山本、森田、森、金子昌選手の7選手はベンチ外という構成だった。それは奈良クラブの最優先事項にJFL優勝とJリーグ昇格をまずは第1として考えているからだろう。フリアン監督は試合後に、「今日を含むここ数週間で25人全ての選手が戦える事、残りのシーズンで欠かすことの出来ない選手である事を証明してくれました」( @jmb_ekkonocoach 一部参照)とTweetしている。濱田社長も、「J3昇格を成し遂げるにはチーム内に競走が必要で、全選手が100%の力で戦える状態を保つことが大切だと考えています」(@hamada_naraclub 一部参照)とTweetしている。それは頷ける。ましてや今はコロナ禍だ。しかし、純粋にロートフィールド奈良でHondaFCに勝つ試合を見たいと楽しみに期待していたファンサポーターからしてみれば、このスタメン発表に不満を抱く意見があっても何ら不思議ではない。いやむしろ正しい。無論天皇杯を軽視していないということは選手達のパフォーマンスをみればすぐ分かる。この不満はJFLの今後の結果次第でどうにでも変わるだろう。ある意味この悔しい敗戦で得たものは、今期に奈良クラブが本気でJ昇格へ腹をくくったということだ。

それではこの試合についてだが、終わってみれば120分間終始HondaFCのペースだったと言っても、おそらく誰も否定することはできないだろう。それを証拠に、公式記録のシュート数がHondaFCは22本に対して奈良クラブは4本と圧倒的な差となっている。HondaFCは鈴鹿戦に次いでこの試合でも試合開始のホイッスルが鳴るや否や、VTECエンジン全開フルスロットルなお家芸ともいえる攻撃を仕掛けてきた。しかし、迎え撃つ奈良クラブもスタメンの発表を払拭するかのような積極的なプレッシングと速攻を果敢にみせてくれた。


0分、両ボランチ17番7番に右CB3番の3ラインに対して、CFの浜田選手とSTの桑島選手が積極的にプレスをかける 7番→17番から右後方の左CB11番へ CFの浜田選手が11番へ強くプレスもCF13番へ浮き球パス 13番が飛んで収めようとするも先に右CBの小谷選手が頭で前方へ 浮き球に7番とレイオフしたSTの桑島選手が競り空う 空いたスペースへボランチの金子雄選手がボールを奪い左斜めに運ぶ センターサークル内で左SBの寺島選手へパス 右ワイドスペースを狙っていた右WG長島選手へロングパスも通らず11番が頭で右タッチラインへクリア

3分、GK金子優選手のロングキックに相手陣内右サイド深くで左CB11番が取る 左WG4番11番中CB15番ボランチ17番のプレス回避に対して右WGの長島選手とCFの浜田選手とボランチの金子雄選手とSTの桑島選手も加わってボールを奪いに人数をかけて囲む ボランチ7番へパスが出る前に左WGの片山選手が自ポジションを抜け駆け出す そこに7番のワンタッチを積極的にスライディングで狙うもファールを取られる

4分、相手陣内でリスタートから3CBの15番と11番の間にボランチ7番が降りる 7番⇔15番リターン時に左SHの桑島選手とCFの浜田選手がプレス 右サイドで7番→11番へ渡ると右WGの長島選手が速度を上げプレス 11番→前方の左WB4番へ渡ると右SBの都並選手がプレス 4番→前方の空いたスペースへ割って入ってきた7番が浮き球のパスを頭で繋ぐ 7番→レイオフした13番へ渡ると右CBの小谷選手が少し後方でカバー  13番がワンタッチで右前方の左ST10番へ渡る 10番にはボランチの金子雄選手が後方からマークも13番へワンタッチでパスを出す しかし後方で右CBの小谷選手がカバーに入り13番へのリターンは渡らずタッチラインを割る

4分、奈良陣内右サイドのリスタートから右WGの長島選手が最終ラインまで大きくレイオフしてボールを受ける ボランチ17番がマークにつくもツータッチ目で切り替えしてタッチライン際で抜き去る CFの浜田選手へ速い浮き球のクロスもオフサイド

5分、相手陣内で3CBに対してCFの浜田選手とSTの桑島選手がプレス 左CB11番→中CB15番が後方に下がりながら11番へリターン 11番に右WGの長島選手がプレス 11番→左WB4番へ渡ると右SBの都並選手が積極的にプレス 4番→CF13番がレイオフして渡ると右CBの小谷選手も積極的にプレスしタッチラインを割る

5分、相手陣内右サイドでリスタート後にボランチの片岡選手がワンタッチで左ST10番をかわす ライン際でボランチ17番と左WB4番に寄せられるも前へ蹴り出す 右WGの長島選手が降りていたため合わず 右サイド深く入ってきたボールを左CB11番がキープ 11番にそのままボランチの片岡選手がプレス 11番→2CBの中へ降りてきたボランチの7番へ渡るとSTの桑島選手がプレス 7番がワンタッチで左WBの4番へ渡すと右WGの長島選手がプレス 4番→後方の11番へ渡すとボランチの片岡選手がプレス 11番→センターラインのCF13番へ浮き球のミドルパスを出す 13番に右CBの小谷選手が競り合いワンバンのボールを先に頭でクリア 右SBの都並選手が収める

6分、GK1番のロングボール→奈良陣内の右サイドで左WB4番に右SBの都並選手が競り勝ちタッチラインへ出す


このように、この試合でスタメン入した選手達が、先述した不満を払拭するかのようなプレッシングを立ち上がりから積極的にかけ、ボールを奪ったら素早くゴールへ向って果敢にチャレンジしていることがよく分かるだろう。これはベンチ外のメンバーと全く引けを取らないし、引けを取らないどころか、おそらくはこのメンバーでなければHondaFCに対して、このような素晴らしい立ち上がりの展開を見せてくれることはなかっただろう。しかし、HondaFCの右サイドからの崩しで2度程決定的なシーンを作られていくと、8分、奈良陣内左サイドでリスタートの際に、フリアン監督が選手達に何やらサインを出しているのが確認できた。それがどういうサインなのかは不明ではあるが、その後、奈良クラブの最終ラインは上がりすぎずブロックを固めるようになっていたことを考えると、負けたら終わりのノックアウトステージに対応した、引いて守る堅実的な戦術へシフトしたと推測される。そんななかでも…


28分、奈良陣内の右サイドでお互い競り合いから出た拭き球を5番がペナ外中央で収めようとしたところに、左CBの伊勢選手がボランチの金子雄選手と前後で挟み込んでボールを奪取。左CBの伊勢選手から見て左前にいた左WGの片山選手へ7番が寄せる前にパス そこから3番をワンタッチでかわしてセンターサークルから相手陣内まで運ぶ ペナ左側へ走り込んでくるCFの浜田選手へパス ワンタッチして15番をかわしてシュートも相手GKに弾かれる そのこぼれ球に左WGの片山選手が詰め寄るも11番にクリアされ左サイドのタッチラインを割る 相手陣内左サイドでリスタート後フリーの右SBの都並選手が浮き球のクロスを上げる 左ポケットで左WGの片山選手が頭で合わせるもゴールラインを割る

36分、GKの金子優選手から最終ラインの中央に降りてきたボランチの片岡選手へ渡ると左ST10番がプレス 片岡選手→右CBの小谷選手へ渡るとさらに10番がプレス 小谷選手→片岡選手へリターンが返されると素早く前へターンして運び10番をかわしてCFの浜田選手へミドルパス 浜田選手に中CB15番と後方からボランチの7番に挟まれ競り合う しかし競り勝つと浜田選手→後方のフリーのSTの桑島選手へ渡ると7番が寄せてくる 桑島選手→左斜め前方にいるフリーの左WGの片山選手へ渡ると7番と左CB3番がプレス 片山選手がキックフェイントで競り勝ち右サイドへ大きく浮き球のミドルパスを右WGの長島選手へ しかしパスが通らずタッチラインへ割る

54分、奈良陣内でボランチ17番と左CB11番がパス交換の際にHTから左WGへ替わった片山選手とボランチの金子優選手が競り合う そこへ11番→右ST5番が降りて渡ると金子優選手が執拗にボールを奪いにいく そこへボランチの片岡選手が5番のボールが離れたところを奪う 11番も詰め寄るがクロスして右WGの片山選手が前へ運ぶ 7番がパスコースを消しに行くも片山選手が上手くかわしてCFの浜田選手へロングパス 浜田選手一旦後方からのボールを上手く収める 中CB15番が詰め寄るなか浜田選手がシュートを打つ しかしGK1番にパンチングで弾かれる

59分、奈良陣内でポジトラから左WGの長島選手が左CB3番のプレスにボールをキープ 長島選手→フリーのボランチの金子優選手へ渡るとプレスバックする3番 金子優選手→右斜め前にいたフリーのボランチの可児選手へ浮き球のパスを出す 可児選手がボール収めると左ST10番が後方から詰め寄られる 可児選手→右サイドを走り込むフリーの右WGの嫁阪選手へミドルパス 嫁阪選手が右ポケットまで運び左WB4番がシュートコースへ入る とっさにシュートは打たず嫁阪選手→後方から走り込む可児選手へ渡るとボランチの17番がスライディングでボールをかき出す セカンドボールを右SBの都並選手が収めるも10番と競り合いタッチラインを割る

64分、センターライン付近でポジトラからボランチの可児選手⇔ボランチの金子優選手とワンツー 右ST5番が詰め寄るもかわす フリーの可児選手が右サイドを走り込むフリーの右WGの嫁阪選手へミドルパス 嫁阪選手がボールを収められずにゴールラインを割る

71分、GKの金子優選手のハンドスローからフリーの左WGの長島選手へ渡ると右WB16番が戻って詰め寄る 後方へ運びフリーに近い状態でCFの浜田選手へミドルクロスを上げる GK1番の前へボールが入るも浜田選手がオフサイド判定を受ける


このように、HondaFCにほとんど押し込まれている展開のなかでも、幾つかゴールを奪うチャンスはあったことがよく分かるだろう。さらに77分〜79分に至っては、相手陣内でのポジティブトランジションからしばらく押し込む展開が続き、ボールをクリアされても途中でセカンドボールを回収できていた。そして、そこから大きくワイドに右から左へとよい形で攻撃もできていた。そのよい流れのなかで79分に、中盤の混戦状態からSTの國領選手が前方へ運び出し、CFの浅川選手へ素晴らしいスルーパスから決定機を演出した。しかし、浅川選手のシュートはブロックされゴールはならなかった。そして後半最終の89分も、押し込んだ展開から最後は大外の右SBの都並選手がゴール前へロングクロスを上げシュートチャンスを作ったもののシュートには至らなかった。

延長に入っても、HondaFCがロングボードを入れて中盤を省略するようなことは一切せず、ますます一方的に後方からしっかりとショートパスを繋いで押し込む展開を作ってきた。しかし、そんななかでも、奈良クラブは98分に、右SBの都並選手と⇔右WGの田中選手のワンツーからCFの浅川選手へスルーパスを出し、浅川選手→嫁阪選手へ渡り待望のゴールを奪ったかに思えたが、その前の浅川選手のところでオフサイド判定を受けノーゴールとなってしまった。さらに延長後半の106分に、相手陣内ゴール前まで押し込むもシュートは打てずに終わり、とうとう最後にはHondaFCに驚異的な粘りを見せつけられCF13番にゴールを奪われてしまった。

天皇杯は、確かに負けたら終わりのノックアウトステージである。とはいえ私の個人的な感想としては、最終ラインを下げてゴール前にブロックを固めてゴールを死守する戦術はあまり見たくはなかった。しかも前半の早い時間帯からである。それは、格上のJリーグのクラブならともかく相手はいくら強豪とはいえ同じJFLのチームだからである。この試合がベストメンバーと監督が言い切るなら尚の事だ。HondaFC相手でも、後方からしっかりと繋いで仕掛けていく奈良クラブが常に思考しているサッカーを私はこの試合でももっと見たかった。それで負けたら諦める。そのことが私にとって1番悔しい。逆説的に言えば、絶対に負けられないこれからのリーグ戦を考えれば、それよりも、この試合の方がいくらかはリスクが低いとも言い切れないだろうか。チャレンジできる絶交の好機ではなかったのかと嘆くのである。

しかしながら、選手達は本当にもてるパフォーマンスを全身全霊でプレーしてくれた。そのことはアーカイブ配信動画でも十二分に伝わってきた。しかし、それはおそらく現場にいたロートフィールド奈良で実際に観戦したファンサポーターに比べれば手も足も及ばない。延長戦の興奮を体感していない、そのことだけがさらに残念さににじみ出る。しかし、SNSを通じてその熱量のほんの一部分だけではあるが、私にも知ることができたのは本当にありがたかった。

そして、HondaFCが6/1ベガルタ仙台戦に勝って、Jリーグのクラブに取って替わって天皇杯で優勝することを次の楽しみにしたい。がんばれHondaFC!優勝したときにこの奈良クラブ戦が1番苦しかったと、誰かがインタビューで答えてくれれば、こんな嬉しいことはない。





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