2022年3月13日 MIOびわこ滋賀 0vs1 奈良クラブ 感想

この試合のポイントを挙げるとすれば、前半と後半とで全く次元の異なるミッションを遂行することになってしまったことだろう。しかし、異なるミッションとはいっても、勝ちにこだわる強い姿勢を90分間持ち続けたからこそ、この難しい異なるミッションを見事にクリアし、勝ち点+3を獲得出来たに違いない。開幕戦から本当に誇らしく思う。

奈良クラブのビルドアップは、昨年まで数多く見られたCHが最終ラインに加わるダウン3を、この試合ではほとんど見られなかった。2CBは開きすぎず狭まりすぎずほどよい距離感を保ち、CHや左SBが滋賀のプレスの状況により最終ラインのフォローへ入って前進していた。立ち上がりこそは、滋賀の前線から中盤、最終ラインにかけて連動した素早いプレスによって自陣で奪われるシーンもあった。しかし、10分過ぎてくると奈良クラブをリスペクトし過ぎたのか、滋賀の前線のプレスも、中盤や最終ラインも下がり気味に変更されたために、自陣では奪われることはなくなった。滋賀としてはホームの開幕戦であることを考えると、リスクを追ってでも、立ち上がりで見せたアグレッシブなプレスを続けていれば、先制点は滋賀に入っていたかもしれない。なぜなら、奈良クラブのオープンスペースへのロングボールの運び出しがあまり効果的ではなかったからだ。

昨年のシーズン前半までは、奈良クラブのビルドアップは全くと言っていいほど前進出来ずにいた。先程記述したようにCHが最終ラインに入ってダウン3を形成するのだが、前線やIH、両SBの選手との距離感があり中盤に大きなスペースが生まれ、パスコースを見いだせずにバックパスを余儀なくされ、そのまま後退を繰り返していた。だが、今回の試合ではそんな奈良クラブとはもはや過去のものとなった。今期の奈良クラブのビルドアップは、非常にロジカルで多種多様にデザインされていることがこの試合では多数確認できた。ここでその一部を挙げてみる。


14分、CHから斜め気味の縦パスが入り、右4レーンを経由して左サイドからクロスが入りチャンスを演出。

15分、自陣右側ペナ外付近でポジトラ後に中盤経由して左WGがサイドを突破。

18 分、CHから左WGへ渡りIHを経由してサイドを突破してクロス。 

20 分、右CBから縦へ入り中盤ボールを繋げて左サイドでWGが一旦中央へ折り返し、そこからワンツーで左SBが左サイドからクロス。その後中盤でポジトラ後にループパスを受けショートで終わる。 

33分、 左CBが高く張っている左SBへ送りSB→IH→WG→SBと繋いでサイドを攻略。

そして、34分には、中盤でCHのポジトラからIHへ経由して左サイドからクロスに頭で合わせゴールを奪い先制点。

35分、左WGがレイオフで中盤で保持に加わり右サイドからIHを経由して最後はショートを放つ。

40分、左SBが立ち位置低めに取りスペースを空け、左CBがそこを通しそこから中盤で左WGがフリックでIHへ経由して突破し、リターン後ショートを放つ。


といったように、この試合で見せた奈良クラブのビルドアップの数々に、昨年を照らし合わせると私は感動のあまり涙が溢れ出た。しかも、さらに心強いのはまだバックアップメンバーがいるということだ。選手全員の戦術の理解度が高いのは少数精鋭の最大の強みであろう。長いシーズンを戦う上でこのことは非常に心強い。おそらく奈良クラブと対戦する相手クラブは、相当に対抗手段を講じなくてはこの奈良クラブのビルドアップを防ぐ手立てはないのではないか。フリアン監督やコーチやクラブスタッフを含め、本気でJFLの優勝を目指してチーム作りをしていることがよく分かるそんな見事なビルドアップだった。

奈良クラブのプレスについては、序盤滋賀がみせたアグレッシブなプレスとは対象的に、IHが上がり前線2人が少し下がり気味に、滋賀のアンカーをカバーしつつパスコースを消すポジショニングをかけていた。私の当初の予想とは異なり、滋賀が後方からしっかりとビルドアップして前進する場面が多くあり、最終ラインから中盤、そして両サイドへ突破されるシーンも少なくなかった。これはもう少し中盤のところで奪い取る積極性が足りなかったのが原因かと思われる。もう一つは、相手の最終ラインにアグレッシブに前線及び中盤や最終ラインがハイプレスをかけて、相手陣内付近でボールを奪いゴールを狙うシーンも、時間帯によっては使い分けれればより分厚い攻撃が出来きたのではないかと考える。そんななか、34、38分の森田凜選手のボールを奪い取るシーンや、滋賀のハイボール対応に対して、ハイプレスとまではいかないまでも、最終ラインでオフサイドを取れていたことは好材料といえる。

そして、後半についてだが、55分頃まで奈良クラブの前線のプレスが1人であったために、中盤を簡単に突破されて、両サイドや自陣奥深くまで突破される場面が多くあったので、これは追いつかれて離されるのは時間の問題だなと覚悟していた。だが、55分の交代を機に、前線のプレスを2人に変更する積極的なオーガナイズをフリアン監督は打って出た。これは私が思うにフリアン監督の大博打を打ったのだと最初は考えた。しかし、この一見大博打ともいえる大胆な采配には、今期の奈良クラブの本当の強さが如実に垣間見れることになった。両サイドにスペースこそ生まれ滋賀にサイドを突かれるが、60分には奈良クラブの最終ラインは決して下がらず、中盤でインテンシティの高いプレスを仕掛け、それでもサイドを崩され再三のピンチを迎えるも、最終ラインを含めた選手全員で体を張ったプレーが随所に現れていた。そんな、選手達の、監督の、スタッフの、奈良クラブサポ必勝祈願部の、奈良クラブに関わる全員の情熱が実を結び、76分滋賀の放ったシュートが、ゴールバーに当たって失点を防ぐという奇跡を生み出す結果となったのだと思う。この時に私は、フリアン監督が55分に打って出た采配は決して大博打を打って出たのではなく、奈良クラブを信頼してJFLを優勝するための当然の采配だったのだと確信した。

今にして思えば、滋賀は終盤パワープレーを敢行しなくても、前半に見せていたしっかりと後方から繋ぐビルドアップを後半でも落ち着いて実行してさえいれば、数的優位から自ずと勝利を収めていただろう。ここが選手達の勝ちにこだわる本気度の差なのかもしれない。さて次はホームでロートフィールド奈良での開幕戦である。相手は門番のHonda FC。最高の舞台を迎える。アグレッシブなハイプレスをどこの時間帯で発揮するのか。攻撃はもちろんだが守備が重要になってくる。数少ないかもしれないチャンスをものに出来る、奈良クラブの今期の真のゴールゲッターは果たして誰なのか?期待を込めてその出現を見守ろうではないか。

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