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青年団リンク やしゃご「アリはフリスクを食べない」雑感➀  真の理解者編

「週末にさ、舞台見に行くんだよね。それがね?『アリはフリスクを食べない』って舞台でさ。ね!変な名前でしょ?」

 このとき僕はまだこのタイトルをここまで反芻して考えるとは夢にも思っていませんでした。

 最近観劇を趣味にすることにしたので、見た舞台のことでもちょこちょこと書いていこうという、そういうことなのです。実はためしに書いてみたところ、書きたいことが多すぎて一つの記事では終わらなそうなので分けることにしました。今回はその一回目です。

 今回は、青年団リンク やしゃごの「アリはフリスクを食べない」。好きな俳優の辻響平さんと岡野康弘さんが出演されているのでその演技を見るだけでも価値があると思って、事前情報は全く入れずに行きました。作品のあらすじは以下の通り。

兄弟2人暮らし。両親は既に亡くなっている。
知的障害者の兄と、兄の世話を理由に法律家への夢を断念した弟。
2人は、同じ工場でアルバイトをして生計を立てている。
兄の誕生日。友人たちが集まるパーティーの場。
そこで兄を施設に入れることが知らされる。
「彼は、かわいそうな人ですか?」      (パンフレットから引用)

理解者とはなにか

 智幸と歩の兄弟はアパートに二人暮らし。智幸は軽度の知的障害者であり、弟の歩と同じ工場で働いている。歩には舞子という婚約者がいるが、舞子の両親からは歩との結婚を智幸との同居を理由に許されずにいる。

 歩も舞子も智幸の世話ができない時には、兄弟の幼馴染であるゆかりが面倒をみている。兄弟の働く工場では、何人かの障害者を雇用しており、社長のかおるをはじめ、社員を家族同然と考える温かい人々に囲まれながら智幸は日々の生活を送っていた。

 というと、すごくいい話のようなのだけれど、実はそうでもない。もちろん智幸の周りを取り巻く人々に悪意などこれっぽっちものない。全てが善意でできているかのように物分かりの良い人間ばかりで、気持ち悪いくらいだ。だが、誰が智幸の真の理解者であるのかを考えると少し話がちがってくる。

 この物語には、一人だけ悪意を抱えた人間が登場する。同じアパートに住む三上だ。三上は、歩の働く工場の社員である寺田と共に歩の部屋を訪れる。歩の部屋に飲みに呼ばれたはいいが、持ち前の方向音痴のせいで迷った寺田が間違えて訪ねた部屋の住人が三上だったのだ。寺田に誘われた三上は歩の部屋で智幸が寝ている中(奥の部屋が智幸の寝室)工場の社員たちと晩酌をする。

 ふとした時、部屋に三上だけしかいなくなると、彼は冷蔵庫から氷をとり出し、本棚の中の段ボールに隠してあるウィスキーをいとも簡単に探し出してしまう。そう、三上がこの部屋に来るのは初めてのことではなかった。起きてきた智幸と親しげに話す様子はまるで友達のようだが、三上は智幸の飲む薬をくすねて幾度となく闇で売買していた。

 理解者の話に戻ろう。僕は智幸の真の理解者は三上ではないかと思っている。くすねる薬は智幸の健康に直接関係ない睡眠薬(夜寝かしつけるために処方されていたと思われる)などであったし、智幸に対してごまかさない、一人の人間として真摯に接していた。

 歩をはじめ智幸を取り巻く自称いい人達は、智幸の話をするときに本人に聞かれないよう、智幸の部屋にあるラジカセでテープを再生する。ラジカセからは槇原敬之やKANなどのJPOPが流れるが、何度もダビングされたそのテープの初めは智幸の母親が録音したものであった。智幸はこのテープが流れるとき、自分の話をしていることをすでに知っている。子供のころからずっとだ。もちろん、歩と舞子が智幸が理由で結婚できないという話をしているときもだろう。

 三上は智幸に、弟と婚約者は自分のことをどう思っているのか聞く。智幸は一言「邪魔みたい」と答える。そして、困ったようなそれでいて悔しいような声で「なんで邪魔しちゃうのかなぁ」というのだ。三上は答える

「お前が障害者だからだよ」

と。

 このあと三上は姿を消すが、それは三上が住んでいた部屋は実は三上のものではなく、実家に帰っていた本当の住人が帰ってきたことによるものだった。

 自分ではどうにもならないことを押し付けられる。考えてもわからない。でも言われなくても理由はわかっている。「なんで邪魔しちゃうのかな」という智幸のセリフにはいろいろな歯がゆい感情が詰まっていて、とても心を動かされた。自分は邪魔者であるという認識も、それを肯定することも拒否することも、決して歩にも舞子にも伝えられない。言えるわけがない。なぜならこのことは自分が知らないことになっているのだから。

 音楽がやめば、ニコニコした弟と婚約者は、きっと智幸に優しい言葉をたくさんかけてくれるだろう。だが、こんなにもつらいことがあるだろうか。智幸だけがこの辛さに物心ついたときからずっとさいなまれていた。その痛みを彼だけは、三上だけは知っていたのだ。三上は智幸に言う。「消えちゃいたい?死んじゃいたい?」まるで彼の悲鳴を代弁しているようだった。

 智幸はドラえもんとテレビゲームにドハマりしているが、これもおそらく三上の影響であると思われる。三上は最後の夜、智幸の誕生パーティの誘いをごまかして姿を消す。彼が送ったであろう送り主不明のドラえもんのぬいぐるみを抱く智幸の姿が印象的だった。

智幸は笑っていた。この後またつらいことが起きるというのに。

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脚下照顧 行牛游蛙

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