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俺と僕 ①

 この世のだれにとっても、時間というものは有限である。

 普通の社会人は週七日のうち、五、六日を仕事に費やしている。自分が好きな仕事ならいいが、別に好きでもないなら自分はいったい何のために生きているのかと思ってしまう。自分は週一日の休日のために六日を費やしているのかと考えたとき、この男も同じようなことを考えていた。

 しかし、男はもうそんなことを感がなくてもよいのだ。なぜなら、男には「もう一人の自分」がいるからだ。この「もう一人の自分」と出会ったのは、とある休日の朝のことだった。

 布団の中でぬくぬくと過ごしていた男を玄関のチャイムが布団からはい出させた。よろよろと玄関まで行き、ドアについている覗き穴を眠い目をこすりながら見てみると、眠気は一気に吹き飛んだ。自分そっくりの人間が扉を隔てたその先に立っている。朝、鏡で見るあの顔が目の前にいるのだ。もしかしたら自分はまだ夢を見ているのかもしれない。そう思ったが、頬を叩く手も、叩かれた頬も、男が見ているこの状況が現実であることを教えていた。

 恐る恐るドアを開けてみると、やはり自分とうり二つの人間がいる。ただ、ドアの前にいる人間は、身だしなみを整えて、こぎれいなスーツを着ているのに対して、ドアの中の人間は寝ぐせの爆発した寝間着姿の人間という違いはあったが。

「初めまして、もうご存じかと思いますが、〇〇と申します。」

 目の前の人間はさわやかに微笑みながら言った。男の名前をだ。あっけにとられて何を言っていいものかとまごまごしている男をみて、もう一人の男は少し困った顔をしていった。

「そうですよね、びっくりしますよね。同じ顔ですものね。僕もいまちょっとびっくりしました。本当に同じ顔だーっておもって。」

「え・・・だれ・・・」

「だから、僕はあなたですよ。ちょっとややこしいんですけど、僕は上の世界から来たのです。」

「なんで・・・」

 男の理解が全く追いついていかなかったが、もう一人の男は自分はなぜこの容姿で、なぜ男を訪ねてきたのかを、丁寧に話し始めた。

つづく

チョコ棒を買うのに使わせてもらいます('ω')