見出し画像

城山文庫の書棚から034『力と交換様式』柄谷行人 岩波書店 2022

哲学のノーベル賞と言われるバーグルエン賞を受賞し、今春の朝日賞にも選ばれた柄谷行人さんの集大成。マルクスの『資本論』を「交換様式」を通じて読み解き、資本主義の構造と力を明らかにする。

標準的なマルクス理論では「生産様式」を経済的なベースとみる。柄谷氏は「交換様式」に着目することで、そこから生じる観念的な力(物神)をあぶり出してみせる。

人類史を交換様式で捉えると、互酬(A)から国家への服従と保護(B)の段階を経て貨幣を通じた商品交換(C)の段階へ至っている。それが一巡してAの高次元での回復となるのがDと呼ばれる未到の段階だ。この転回は「物神」とでも呼ぶ他ない力がもたらす。

その力の起源を巡り、柄谷氏はイオニアや古代ギリシアまで遡って人智の変遷を検証してみせる。Aの互酬は『贈与論』を書いたマルセル・モース、Bの国家の力はホッブズの『リヴァイアサン』にその萌芽をみる。これらを通じてCの貨幣の力を見出したのがマルクスだという。見事と言うほかない。

我々が今日迎えている環境危機は、それまで人間にとっての“他者”であった自然が単なる物的対象に化したことに起因するという。それは資本=ネーション=国家の間の対立をもたらす。つまり、戦争の危機が迫りつつある。現にウクライナで戦争が進行中だ。絶望の中に希望を見出したい。