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城山文庫の書棚から056『スマート・イナフ・シティ』ベン・グリーン 人文書院 2022

国の施策に「スマートシティ」が掲げられて久しい。しかし実際のところ、本当のスマートシティはどれくらい実現しているのだろうか。その定義すら一義的に定まっていないのが実態であるように思えてならない。

本書はGDX=デジタル・ガバメントに詳しい米国の学者が国内外の様々な事例を通じて都市におけるDXの可能性と限界について考察を試みたもの。テクノロジーを過信する物の見方を「テック・ゴーグル」と名付け、安易な技術への依存に警鐘を鳴らす。

実際、Google傘下のテック企業が鳴物入りで構想したトロントのスマートシティ計画はコロナ禍が流行しだした途端に白紙撤回された。不動産市況の激変がその理由として挙げられたが、背景には監視によるプライバシー侵害に対する市民の不安と反発があったようだ。

興味深いのはコルビュジエが描いた近代の「輝ける都市」と現代のスマートシティの共通点に関する鋭い指摘。どちらも科学技術に基づく調和の取れた合理的な都市を目指すが、そこには人間性の欠落が生じる。都市には隙間やノイズが必要であり、それはジェイコブスが1960年代に看破した通り、高度に発達した複雑な秩序なのだ。