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読書完走#218『分解の哲学』藤原辰史 2019

副題に釣られ、今流行りの発酵食品に関する科学本だと思い手に取った読者は壮大な肩透かしを喰らうだろう。農業史を専門とする著者の視線は屑拾いから葬儀、積木から建築へと飛び回り、分解・発酵というキーワードで結びつける。下の一文など、科学的どころかとても文学的だ。

"「時」は進むものではなく、崩れていくもの、という見方は現代社会に慣れきった人間には受け入れがたいものかもしれない。だが、夜に男が逢瀬に訪れた、という、繰り返し和歌に詠まれている情景には、ぴったりあう。逢っているあいだは、時間は進行しない。ただの夜であり、永遠である。その夜の暗い凝固が無情にも解体し始める夜明けに、ようやく時間が生まれる。“

「ほどき」や「むすび」といったやまとことばの語源にまでさかのぼり、分解という現象を掘り下げる本書は読むほどに味わい深い。時間の経過と共に発酵していく感じ。