ある『ペルソナ』ファンが25周年記念の公式ボードゲーム『ペルソナVS』をつくった話
ボードゲーム『ペルソナVS』を出版することになりました。RPG『ペルソナ』シリーズが今年で25周年を迎えることを記念して制作した、完全オリジナルのゲームです。
『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』の好きな主人公キャラクターを選択して、とある『祭典』に参加し、自身のペルソナや仲間たちと共に勝利を目指す…というストーリーの2人用対戦カードゲームになっています。
主人公たちが召喚するペルソナカードは、相手を攻撃するスキルや常時発動するアビリティを持ち、多彩なバトルを楽しめます。またここぞという時には仲間のペルソナ使いが、自分のターンで使えるサポートカード(下記画像の青いカード)・相手のターンに反撃するリアクトカード(下記画像の黄色いカード)として助けてくれます。
基本的に1人用ゲームである原作『ペルソナ』シリーズでは実現しなかった、主人公 VS 主人公の読み合い・駆け引きアリのペルソナバトルが楽しめます。最初から主人公ごとに構築済みデッキを用意していますが、慣れてきたら自由にペルソナや仲間を組み合わせても遊べます。
ゲーム始まりのプロローグと、主人公ごとに用意されている勝者のエピローグはアトラスさん監修のもと、完全オリジナルで制作。このゲームのためだけの、本物のシナリオ作りをしていただきました。
ただ『ペルソナ』といえば、全世界でシリーズ累計1500万本超のセールスの大ヒット作品。すでにアニメや舞台など、様々なメディア展開もされており、なんで今更ボードゲームなんだと思った人も発表後にたくさんいらっしゃいました。
そこで本noteでは、なぜ『ペルソナVS』の企画がスタートし、実現していったのか、そしてどのように『ペルソナ』のボードゲームとして仕上げていったのかについてをお話ししたいと思います。
企画の始まり:『ペルソナ5』から離れたくなかった、欲望まみれのプレイヤー
こんな企画を仕掛けておきながら、実は僕が初めてプレイした『ペルソナ』は、ナンバリングタイトル最新作の『ペルソナ5』でした。
しかも、2016年の発売後すぐにプレイしたわけではありません。ご縁があって開発元の株式会社アトラスの方とお話する機会があり、「今だ!」と思って2020年の頭ごろにやっと遊び始めました。
そしてひとたび始めると、面白すぎて全然やめられませんでした。
タイトルになっている"ペルソナ"は、主人公たちが敵と戦うための能力の総称。そして心理学用語の通り、人格を指す言葉でもあります。ペルソナは通常では1人1体なのですが、主人公だけは特別な才能をもっていて複数のペルソナを扱えます。主人公は試練に立ち向かうたびに成長し、新しいペルソナを手に入れていきます。
つまりゲームシステムと物語構造がガッチリとはまっていて、圧倒的な納得感&リアリティで楽しめるゲームなのです。人間の脳が面白いと思うに決まってる作品ですね。
他にもカッコイイ操作画面、緊張感あるレベルデザイン、本当にどこかにいそうな魅力あるキャラクター、何回リピートしても飽きない音楽…どこを切り取っても素晴らしい尽くし。世間が外出自粛ムードだったのをいいことに、睡眠時間を削ってはいけないところまで削って遊び続けました。
そして、これが約5年前の作品だということに驚きました。人並みにゲームを遊んでいるつもりでいましたが、よくここまでスルーしてこれたものです。
僕は優れた文学作品は、読者がいつ読んでも「今の自分のために書かれた作品だ」と思えるものだと考えていて、『こころ』や平野啓一郎さんの作品を読むとそう感じるのですが、『ペルソナ5』にもそういう普遍性を感じました。何年前にリリースされていようが、今の自分がプレイできて本当によかった、人生に確実ないいものをもたらしてくれるゲームでした。
でもツラいことが一つありました。100時間近くにも渡る大ボリュームを通じてあまりにも物語に入り込みすぎて、エンディングが近づいてくると終わらせたくなくて、プレイの手が鈍ってしまうのです。よって『ペルソナ5』クリア後はまんまと続編の『ペルソナ5スクランブル ザ ファントム ストライカーズ』を購入してプレイすることになりました。
しかし、こちらのクリア後も当然、また同じペルソナロスに襲われてしまいました。この世界から離れたくなさすぎるという中毒症状…。攻略情報やファンブックも読み漁って、世界にしがみつき続けました。
そして、その果てに僕は、だったらもっと『ペルソナ』の世界を拡張してしまえばいいんだと考えました。
幸い自分はボードゲームデザイナー。『ペルソナ』のボードゲームを作ればいいのです。『ペルソナ』のボードゲームはなかったから(当時)、まさに世界の拡張だし、しかも手軽なゲームにできれば、いきなりの100時間プレイには抵抗がある人にも『ペルソナ』の魅力を伝えるきっかけになるんじゃないか?と思いました。
実際に、タイトルを知ってはいるけどプレイしたことがないという友人は周囲にたくさんいました。そういう人が遊ぶきっかけになれば、もっと僕の想像を超えて世界が広がるきっかけにもなるかもしれません。
このアイデアが思い浮かんだ時、僕はプレイのきっかけをいただいた方に連絡を取っていました。そして『ペルソナ5』のボードゲームの企画書をつくり、送付。冷静に考えるとヤバイ奴なので、計150時間超のプレイを終えた直後の熱量で提案できたのは運がよかったと思います。シラフだったら恐れ多くて言えなかったでしょう。
というわけで実は『ペルソナVS』の始まりにはシリーズお馴染みのスタイリッシュさは欠片もなく、もっと『ペルソナ』の世界にいたかった一人のファンの欲望しかなかったことをここで白状しておきます。
ゲームデザイン開始:ゲーム体験が完成しているという誤算
幸い、その後無事に企画書をアトラス社内での検討に上げていただけることになりました。もちろんひとまず「検討」ということで、GOサインが出たわけではなかったのですが、テンションが上がった僕はその直後からプロトタイプ作りをはじめました。
ただ、勢いで持ち込んだ企画ではありましたが、ゲーム作りに関しては勝算がありました。普段から法人様向けのボードゲーム制作ではテーマを起点にゲームを作っていますし、チョコレイトさんとご一緒させていただいたマンガ原作の『DEATH NOTE人狼』や『七つの大罪 フルカウンターポーカー』の経験があったからです。面白いものを作り上げられる自信がありました。
あと、『ペルソナ』はもともとデジタルゲームなので、むしろスムーズにできるのではないかという見込みもあったのです。
しかしその見込みが大間違いだと、最初のテストプレイでわかりました。
ひとまず作ったのは、『ペルソナ5』の戦闘シーンをそのままアナログに落とし込んだようなゲームでした。主人公と仲間で4人のユニットを作って戦う、2人用のカードゲームです。『ペルソナ5』の世界を舞台に、主人公が戦闘訓練のためにヴァーチャルシミュレーターで自分自身と戦うというストーリーを想定していました。題して『ペルソナ5VS』。
しかしテストプレイをしてみたところ、とても遊ぶに耐えるものではありませんでした。とにかくプレイのテンポが悪かった。やりたいことはわかるし、処理自体は可能である。しかしこれで『ペルソナ』のボードゲームを名乗ることは絶対にあり得ないと開始1分でわかりました。
この苦々しい経験を通じて(今更ながら)よくわかったのは、自分が遊んできた『ペルソナ』シリーズを『ペルソナ』たらしめているのは、戦闘システムのようなソフト面だけではなく、デジタルゲームというメディアであり、これを前提としたUXデザインであり、それを実現するUIなのだということ。デジタルゲームだからこそ成立していることを、そのままアナログでやろうとしたら当然破綻します。
つまりデジタルゲームの『ペルソナ』と違うことをして、それでいて『ペルソナ』っぽさを表現しなければならないのです。アナログゲームも広い意味では同じ"ゲーム"というジャンルになるだけに、これは難問でした。先のプロトタイプに調整を加えていっても、一向に解決されそうな気配は現れません。なんか違うな〜と思いながらも手探りをするためにテスト用のカードを作っては破っていました。
なのでこの問いにぶち当たっていた時期、開発は実質ストップしていたと言えます。自分の力量を超えた仕事をはじめてしまったな…とちょっと後悔することもありました。もっと力をつけてからお声かけするべきだったんじゃないかとも思いました(まだ正式な許可も出ていない段階でのプロトタイプ作りで、思い詰めすぎていた感はありますが…)。
課題解決の糸口:スマブラ開発者、ソラの桜井さんの言葉
そんな暗黒を解決する糸口になったのは、ソラの桜井さんの言葉でした。
『ペルソナ5』の主人公・ジョーカーが『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』に参戦した時のインタビューで桜井さんは、『ペルソナ5』を最後までプレイしたとおっしゃっていました。
あのハチャメチャに忙しいはずの桜井さんが、クリアまで100時間程かかるはずの『ペルソナ5』をしっかり遊んでいるという事実。
今回の僕らから提案した企画と『スマブラ』の規模は全然違いますが、他社様のゲームからキャラクターをお借りして別のゲームを作るという点では同じです。その大先輩がやっていることなら、自分の頭を下手にひねり続けるよりも解決に近づくのでは?と思いました。
そうして僕は『ペルソナ5』以外のシリーズもできる限り遊ぶことにしました。ゲームの改良にも繋がりそうだし、そもそもいつかはプレイしたかったので一石二鳥です。
…というわけで一気に遊び始めて睡眠時間はかなり削られましたが、やっぱりどれも面白かったです。10年以上のタイトルでも、そうとは思えない普遍性を備えたコンテンツの力を感じました。そして、企画のためにも完全に正解でした。
なぜならその後、アトラスさんとの話が進んで企画の実施が現実味を帯びてきた頃、2021年は『ペルソナ』シリーズの25周年なので、むしろ『ペルソナ5』だけじゃなく、複数のタイトルをまたぐ作品にするのはどうかと提案いただいたからです。その時に「最高ですね!そうしましょう」と即答できたのは、他シリーズもプレイしていたからに他なりません。
そうして、ヴァーチャルシミュレーターを舞台にしていた『ペルソナ5VS』は、各タイトルをまたぐ精神世界ベルベットスタジアムを舞台とした『ペルソナVS』になったのです。この時、僕の欲望から始まった企画は、25周年に華を添える、絶対に面白くしなければならない企画として再始動したのでした。
こうしてパワーアップした企画アイデアと背景をベースに、数百時間分のプレイを通じてメディアの枠を越える『ペルソナ』の魅力を解釈、それを注ぎ込んだプロトタイプをゼロから開発し直し、テストプレイを重ねに重ねて『ペルソナVS』は完成、発表となりました。
コアとなるゲームシステム:「1more」と「ペルソナ合体」の、ジレンマとカタルシス!
というわけで、ここからは実際のゲーム『ペルソナVS』の中身のお話です。
『ペルソナ』シリーズのプレイを通じて解釈して『ペルソナVS』に組み込んだ魅力はいくつもありますが、特に面白さと『ペルソナ』らしさをアップさせてくれたのは「1more」と「ペルソナ合体」だと思います。
いずれも『ペルソナ』における代表的なシステムであり、シリーズプレイ経験者の方なら誰もが知っている要素だと思います。だからこれらがもつ面白さを上手く落とし込むことができたなら、『ペルソナ』らしいゲームになるはずだという目論見は当初から持っていました。そして、シリーズをプレイしたことがない人も原作が気になってくれるだろうという狙いも。ただ、いずれもアナログゲームで再現するには再解釈が必要でした。
そこでシリーズのプレイを通じて探し当てた面白さの秘密が、ジレンマでした(念の為ですが、アトラスさん公式の見解ではなく僕の解釈です)。
ジレンマとは、あれもやりたい、これも良さそうだ。でもこちらをやったらあちらはできない…そんな悩みのシーンです。悩むからこそ、正しい道を選んで正解できた時のカタルシスが格別になります。そして、プレイヤーが何回も遊んで、もっと上手になりたいと思えるような面白いゲームにはジレンマがあります。これはデジタルゲームでもアナログゲームでも、スポーツなど広い意味のゲーム全般で同じことだと思います。
だから「1more」と「ペルソナ合体」は面白くて、このジレンマを再現できれば、アナログゲームにも『ペルソナ』らしさを移植できるのではないか?という仮説を立てました。
「1more」は、リスクを分かりやすく、でも気持ちよく
それを踏まえて、先に仕様が決まったのは「1more」でした。
「1more」とは、『ペルソナ』の戦闘において弱点属性でダメージを与えた時に発生する追加行動の権利です。連続で攻撃したり回復したりして戦闘を有利に運べるので、強力な敵と戦う時には意識的に狙うことになります。
『ペルソナ』シリーズの面白いところは、この「1more」が敵からプレイヤーへの攻撃時にも発生する点です。ちょっと気を抜くと、なんでもない場所に現れるザコ敵から「1more」で連続攻撃を喰らって、あっさり全滅してゲームオーバーになります。
ここで発生するジレンマは、「どうやって相手を攻撃するか?」です。このペルソナで攻撃すれば相手の弱点をつけるけど、次の敵ターンに逆に弱点を突かれてしまうかもしれない…ということがよく起こります。
おそらくですが、敵の登場パターンが弱点を補完し合うような組み合わせ多めになっているのだと思います(いじわる!)。おかげで睡眠不足でフラフラした頭でプレイしていた時、よくピンチに陥ったものです。だから反面、上手に「1more」を利用して鮮やかに敵を倒せた時は、自分のプレイングが誇らしくなります。敵も同じ条件だからこそ、バトルがしっかり頭を使って取り組むべき手応えのある課題になっているのです。
また更なる悩ましさとして、そもそも弱点を突くためには魔法を使わなければなりません。しかし道中のザコ敵全てにそれをしていたらSP(魔法を使うためのリソース)が枯渇してしまいます。そのせいで、出し惜しみをしてやられることもしばしばありました。
これらを踏まえて、『ペルソナVS』における戦闘では「今、1moreを狙うべきか?」のジレンマが発生するようにしました。
メリットは通常は1ターンに1回のみの攻撃が敵の弱点属性を突けたら、もう一度できること。ダイナミックにダメージを与えられるので、ちょっと不利でも一気に戦況をひっくり返せるチャンスです。
ただし、デメリットとして、相手の弱点を突く攻撃をするためには、自分も必ず弱点をさらけ出すようにしました。原作では強力なペルソナには弱点がなかったり、弱点を無効化する能力があったりします。ですが『ペルソナVS』ではどのペルソナにも必ず弱点を設定し、無効化等は無しとしました。だからうまく弱点属性で攻撃できても、次の相手ターンに弱点攻撃を返される可能性が生まれます。
すると1moreで大ダメージを狙うか、安全な態勢で次につなぐか、対策としてリアクトカードを手札に残すか…などと悩むことになります。この瞬間が原作プレイ中のジレンマを再現します。
また、SPは廃止にしました。デジタルゲームでは使った分を自動で計算してくれるので気にならないのですが、アナログゲームにおいて、数値の管理はかなり注意深くおこなう必要のある要素で、ミスの原因になります。
ゲーム内で絶対に外せない数値として勝敗に関わるHP(ヒットポイント)が既にあったので、それ以外に管理すべき数値は少ないほうがいいと考えた結果です。かわりにどんなスキルも使い放題、ただし1ターンにスキルは1回というルールにしました。
ちなみに「ポケモンカード」も同様のデザインです。原作デジタルゲームの『ポケットモンスター』では技ごとに使用回数が定められていますが、「ポケモンカード」では場にいるポケモンは理論上は無限に技を使えます。素晴らしいデザインの先行研究として、参考にさせていただきました。
こうして『ペルソナVS』の1moreは、ジレンマを保ちつつ、気持ちいいところが思いきり楽しめるデザインになりました。
戦闘中でも軽やかにできる「ペルソナ合体」
一方の「ペルソナ合体」は、原作で分かりやすいジレンマをプレイヤーに提示している要素です。
「ペルソナ合体」とは、原作におけるペルソナの強化方法です。異なるペルソナ同士を合体し、新たな強力なペルソナを生み出すことができます。『ペルソナ5』では元のペルソナ2体をギロチン処刑すると新しいペルソナ1体が生まれるというプロセスを踏みます。新しい自分と出会うためには過去の自分を殺す…というメタファーかと思います。
合体すると基本的にペルソナは強くなります。しかし、いいことづくめではありません。
ペルソナには1moreを発生させるためにも必要な魔法や各種スキルを覚えていて、合体すると新たなペルソナに引き継ぐことができます。しかし引き継げる数や相性に制限があり、完全な上位互換のペルソナを生み出すことは実質不可能になっているのです。
また、弱点の属性も変わりますから、うっかりしていると所持しているペルソナがほとんど同じ属性の弱点になっていて、その属性で攻撃してくる敵にボコボコにされるなんてことも。だからあえて合体せずに、既存のペルソナをひたすらレベルアップさせて戦うというプレイスタイルもあります。
実際にやってみると「今、本当に合体させるべきか?」というジレンマに毎回悩まされます。加えてスペック面の変化はもちろん、以前にボスを一緒に倒したペルソナや見た目が好きなペルソナには愛着も沸いていますから、もうちょっと一緒に戦いたいな…などという感情も判断材料に入ってきてしまうのです。
ただ、こうしたジレンマに悩まされる「ペルソナ合体」は『ペルソナ』シリーズにおいて、ベルベットルームと呼ばれる主人公だけが入れる異空間でおこなうステップです。敵から攻撃されたり時間が進むこともなく、じっくり落ち着いて悩みと向き合えるという設定になっています。
しかし『ペルソナVS』は常に戦闘中のゲーム。しかも目の前にはAIではなく、早く自分のターンが来ないかと待ちわびている対戦相手もいます。
そこで『ペルソナVS』における「ペルソナ合体」では悩みの総量を減らしつつジレンマを残すことにしました。戦闘中や他人が待っているプレッシャーのなかで、簡単にできることには限界があるからです。
まず、スキルやアビリティは全て引き継がれるようにしました。合体させればさせるほど、ペルソナが使える能力は増えていきます。どのスキルを残そうか…と悩む必要はありません。ペルソナは直線的に強くなっていきます。
ちなみにデジタルゲーム内では2体のペルソナから全く新しいペルソナが生まれますが、アナログではそういう処理ができないので、手札から新しく出したカードが合体して生まれたペルソナ、という設定になっています。
その一方、原作にはない要素として「相手のペルソナを場から排除する」カードを用意しました。相手のカードによって、自分のペルソナが捨札にされたり、手札に戻されてしまったりします。
するとたくさん合体させたペルソナはあくまで「1体」のカウントになるので、今まで合体させてきた労力が水の泡になります。排除できた方は、してやったりです。原作でも一体だけの強化に集中していると、弱点を突かれて「1more」でピンチになったり、複数の敵に対応できなくてつらかったりします。
よって『ペルソナVS』でも「今、本当に合体すべきか?」という悩みがプレイヤーの頭の中を駆け巡ることになります。合体して強力なペルソナを使うもよし、合体せずに複数のペルソナを横展開してリスク抑えめに多彩な攻めを狙うもよしです。どちらを選んでも、大間違いになることはそんなにありません。
ただ、決着が近づいたギリギリの局面で、「あの時合体していなければ…」あるいは「あそこで合体していたから勝てたな」といった微妙な差は生まれることになります。それが勝った時の嬉しさと、負けた時の悔しさを倍増させてくれるのです。
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こうした「1more」と「ペルソナ合体」のリデザインをはじめ、原典を深く読み込んでつくったことで『ペルソナVS』はしっかりと『ペルソナ』のボードゲームになってます!と言えるものになりました。発売後、遊んでくれた方々からも『ペルソナ』だ!と多くのコメントをいただいています。
そしてアトラスさんの監修、完成へ
ただ、自信はあったものの出来上がったプロトタイプをアトラスのライツ担当者さんに実際にプレイしてもらい、「面白い!!これは『ペルソナ』ですね!」と言っていただけた時が、嬉しさとともに一番安心した瞬間でした。
アトラスさんからは、企画スタート前に、言っておきますがウチの監修は本当に厳しいですよ?と脅されていましたが、始まってみると想像していた以上にすごいやり取りになっていたからです。
ただ、それは厳しさというよりは、『ペルソナ』シリーズの高い強度の世界観があるからこそのこだわりであり、良いものづくりへの妥協のなさからくる、ハイレベルな「当たり前」だったと思います。
フィードバックや提案はいつも、こちらからお出しした案と比較して「圧倒的に世界・キャラクターに対する理解度が違う…!」と見た瞬間にハッキリとわかるもので、いちペルソナファンとしては垂涎モノであると同時に背筋を伸ばさざるを得ないものでした。
だからこそ、ライツ担当者さんに認めていただいてこそ、完全に納得のいく『ペルソナ』のボードゲームとして誇れるようになったのでした。
そして、ほかにもアートワークのアシタさん、印刷会社のタチキタプリントさんなどに大いに助けていただいて『ペルソナVS』は出来上がりました(アシタさんはぜひアートワークのnote書いてほしい…)。ミヤザキとしては『ペルソナ』シリーズのプレイ時間を含めれば、間違いなく今までで最も多くの時間を開発に注ぎ込んだ作品です。
『ペルソナ』シリーズを遊んだことがある人は絶対楽しいはずですし、遊んだことがない人がプレイすればきっと、『ペルソナ』を遊びたくなるようになっているはず。ぜひお手に取ってみてくださいませ!
ナイスプレー!