長所に振り回される人


 むかし読んだ本に、こんなセリフがあった。

「あの男は、強い。強すぎるほどだ。それがおのれの拠り所となっている。単に強いだけだと思えるようになればいいのだが」

 強いと言うことは、もちろん素晴らしいことなのだが、それに囚われることで短所となってしまうのである。強いと言うことを意識しすぎて、自分を見失ってしまうのだ。

 短所に振り回され、長所にも振り回される。人間というものは、なんともやっかいな生き物だ。

 例えば、元プロ野球選手の清原和博である。

「自分は、単にボールを遠くに飛ばせるだけの男だ」

 現役時代からそう自分を評価していれば、彼は覚醒剤などに手を出さなかったのではないか。ヒーローだ有名人だたいしたもんだと、彼は、長所に囚われ、長所に振り回され、長所によって地に落ちたのである。

 自戒しようと思う。

 将棋の羽生名人は、単に将棋が強いだけである。錦織圭は、単にテニスがうまいだけである。アントニオ猪木は、単にアゴが長いだけである。

 そして、私は……私は……。

 私は、自分を振り回すほどの長所など、なにひとつ持っていなかったことに気が付いた。

 短所なら優柔不断、注意力散漫、怠け者、臆病者、虚言癖、腰痛持ち、ハゲ、運動音痴、無計画、飽きっぽい、セコい、根性なし、不細工、短足、ポンポコピーと山ほど出てくるのに、長所はひとつも出てこないのである。

 何かあるはずだ。何もないのか。

 いや、待てよ。

 私は、パンツを脱いだ。私の長所がひとつあった。長所というか、長い箇所が。私は、股間のものをしっかりとつかみ、ブンブンと振り回した。

 単に長いだけだな、と私はその長所を見つめながら思った。

 かつては自慢に思っていたそれも、今では、ただの器官にしか見えなかった。これは、平均より少し長いだけの、ただの人間の器官だ。そう思えたことで、私は決して身を持ち崩すことはないだろうと確信した。

 まあ、もっと長くなるけどな。




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