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梨『6』感想

※めちゃめちゃネタバレします。
今すぐ本屋行って買って読んで。


SCPtail界隈の彗星にして、オモコロや短歌のコンテストなんかにも積極的に参加してらっしゃる梨先生の新作です。(ゆうて数ヶ月前に出た本だけど)
発刊元は玄光社。
写真集なんかを作ってる会社みたいで小説は6が初めてなんだとか。
装丁が凝ってて、なんか布みたいなテクスチャの遊び紙が入ってて表紙もなんか硬い感じの紙で、他の本に比べて本文の紙も白い本だなぁって思いました。

表紙や紙質から得た白いっていう印象は内容に関してもそうで(内容が薄いという意味では無い)、とにかく白い怪談だなと思いました。
湿度がないというか、とにかく明るくて白っぽい話。
怖い話とか怪談というものは往々にして黒っぽい印象を感じるんですが、梨先生の書く文章は白い。
感覚の話ですみません。

で、内容ですが、存在しうるかぎり地獄っていう話でした。(読んですぐに書いてるのであとから多分意見変わったりいっぱい追記したりすると思います。)
表現に気を使わないといけない話なんで、人間だ幽霊だなんだと噛み砕いて表記を変えてみるんですけどなんかしっくりこないのでふわっとした感想になるんですが、この世って5階建てのエレベーターなんですよね。

でもそれって、縦軸の輪廻みたいなもので、その輪から外れても(いわゆるデスリスポン)、行先は1階である地獄なんですよ。
で、地獄は地獄だから、地獄を抜けたかったらまた登るしかないんですよね。で、各階層もまた地獄。
逃れても逃れても地獄なんですよ。

人間界ってのもあるんですが、これは多分、シンプルに今を普通に生きている私を含めたそれら人間ではなくて、まさに畜生と人の間というか。
生に対して何ら疑問を抱いていない我々は恐らく天人なんですよ。

1話の「私」が遊園地で天人のようなお方って呼称されてるのは、死後に思いを馳せていない、知らない子供だからだと思うんですよね。
じゃあ1話の私は1周目の人生なのかって言われたらしっくり来ない気もするんですけども。
何はともあれ、死後の世界や転生に思いを馳せたのが人間。

人間は架空の天人界(実際には地獄だけど)に思いを馳せ、死後幸せになりたいと願った宗教団体?サークル?あるいは個人(故人)なんじゃないかなって思います。
いつしか徳を積む目的が天人界に行って幸せになるじゃなくなって、解脱のために天人に認識してもらうことになって、あげくなにか罰当たりなことをして気を引く、目をかけてもらうに行き着く。
行先に迷って幽霊になるけど、どこにも行けなくて変な脱輪の仕方をした人が餓鬼や畜生(ではないなにか)になるんじゃないかなぁ。



最終話の複数の人の飛び降り。
玄関でのけつまづき。
覗き絡繰の記憶。

上下の円環を地面を埋めつくしかねないほど繰り返してるって表現だよなぁ、匠だ。

正直私はまだ喪服のマネキンや、生きてる遊園地や、アスペクト比が引き伸ばされてる云々だにまだしっくりくる意図を感じとれてなくてせっかく作り込まれてるのに勿体ないなーと己の読解を恨みます。
作りこまれている意図に気付けないのって本当に不幸なことなので学生時代もうちょっと勉強しておけばよかったなぁと思うのです。


地獄しかないし脱輪しても地獄ならどうしたらいいんだよー!絶望!
こんなんもう生まれない方が良くない?!
っていう反出生賛美やな、って結論を出しかけたんですけど、死後の世界の形骸化(意訳)というか、誰かの作った設定(例えば良い行いをすれば天国に行けるとか)を何となく信じてるけど本当は天国は無いし、登れど登れど、なんなら今いる所さえ地獄だって言う考え方もまた、梨先生の創作で。
これも死後に  ひとつの考えとして受け入れて、実際わかんないから今を生きていくしかないんやでってポジティブな捉え方もできるなって思った。
だからなんか明るい印象があるのかも。

いつもの梨先生の作品は投げかけと呪いの媒介による侵食、って感じでいまいちよく分からんけど怖いって感じが多かった気がするんですけど、今回はかなり具体的に答え合わせがあって読みやすかったです。
私怪異の正体とか人の思念が害を成して…みたいな答え合わせがされる小説嫌いなんですけど、これはかなり上品な答え合わせがされた感じがあります。

ホラーなのに読了感が清々しい。
出てくるモチーフも昭和後期から平成中期で、多分梨先生歳近いんやろな…っていうノスタルジーも気持ちいい。

時期的にカンテサンスっぽい雰囲気もあって、最近オモコロに蜘蛛の糸の記事を寄稿されたり、なんか輪廻転生とか、業とか、仏教的モチーフについて調べはった時期なのかもしれんね。

いい作品を読みました、上記を踏まえてもう1回再読したいですね。



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