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ユスターシュ、ロジエ、『キラーコンドーム』、ファスビンダー

 毎日noteを書くつもりだったのに、やる気がなくなってしまい、筆を取るのもご無沙汰になってしまった。これは良くない。俺は書く。書く書く書く!このところ毎日映画館に行っているので観た映画の話でもしよう。

 ヒューマントラストではジャン・ユスターシュの『わるい仲間』、『サンタクロースの眼は青い』を観た。どちらもボンクラ映画である。印象としてはゴダール直系だなという感じだ。詩的な、それでいてどこまでも自分本位な登場人物たちを使って、ユスターシュの内心が吐露されていく。彼は言葉の力を使う事に長けていて、雄弁に語る。素晴らしい才能の持ち主である事に間違いは無い。
 俺はユスターシュに倫理観が欠けているとか、そういう事を話したい訳ではないけど、何というか、この人は本当の意味で孤高というか、他者に心が開ききってないような気がする。彼同様、師匠のゴダールも最後は自死を選んだ。結局のところ、彼らはナイーブすぎると思う。映画という一方的なコミュニケーションに長けすぎてしまうのも考えものだ。
 『ママと娼婦』も観たが、半分くらいで寝てしまった。長すぎる。尺もゴダールを見習って90分にしてくれ。まあこれは後でまた観に行きます。

 ユーロスペースではジャック・ロジエの『トルテュ島の遭難者たち』を観た。これは面白い。話がどんどん転がっていく。最初のカットと最後のカットで見えている風景が全く違う。これはとんでもない才能と言わざるを得ない。彼は映画が上手すぎる。
 飾らなくてどこまでも自然で、それなのに、いや、だからというべきか全く見劣りがしない。ロジエは、堂々としてゆったりとした時間の扱い方を知っている。それでいてあの画の上手さだ。彼は色で遊ぶ事も知っている。画面の中の人や物が生き生きとそこにあるかのように見えてしまう。
 あれは一体何が上手くてああなっているのだろう。脚本だろうか。演出だろうか。撮影だろうか。編集だろうか。多分全てが上手いんだと思う。でないとああいう風な映画は出来上がらないと思う。全てがどこまでも小洒落ている。今回の特集のサイトに書いてあった事だが、トリュフォーはロジエに嫉妬したという。そらそうだ。

 新宿のシネマートでは、『キラーコンドーム』を観た。これは凄い!これ以外には代表作(?)も無い無名の監督だが、面白い。劇映画として無駄な要素が一切無い。全ての要素がきちんと絡み合って行き最後には着地する。下らないB級映画を観に来たつもりが、思いの外良く出来ていたのでメチャクチャ感動してしまった。
 小ネタの数々も良い。巨匠H・R・ギーガーのコンドームのクリーチャーも目を引くが、まずニューヨークが舞台なのに全員ドイツ語を話す。バカ映画としても保証されている。
 ギーガーと言えば、『エイリアン』を始め性的なモチーフを得意とした作家だ。これもまたそうだが、エイリアンが男性器を模して女性を襲う怪物なのに対し、これはある意味女性器を模して作られたコンドームが男性を襲うという意味で、両者は対になっているのかも知れない。
 ここまで読むと単なるバカ映画の様だが、そうでもない。主人公を始めとしたLGBTの登場人物の描き方には全くふざけた所はない。これは男性器ひいては男性性をオモチャにしたバカ映画だが、決してゲイであることをオモチャにしている訳ではないと思う。

 新しいBunkamuraのル・シネマではライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『不安は魂を食いつくす/不安と魂』を観た。これも安っぽい言葉にはなるが、それはもう凄い映画だった。
 初めてファスビンダーを観たのだけど、劇映画でありながら、それに乗せられている観客を突き放してくるような、俺は今映画を観ているんだと思い出させるようなショットや演出が度々現れる。ショットが始まってから示し合わせた様に(当たり前だが)動き出す登場人物や、あの冷たささえ感じる過剰なズームアウトなんかはその典型例だと思う。
 初老の女性と外国人労働者の男性が主人公だが、大事なのは、ファスビンダーの弱者に対する眼差しが、単に哀れみだけではないということだと思う。可哀想な守られるべき存在ではなく、1人の人間として、弱者は悩み、不道徳を働く。人間に対する見方がフラットというか、多分彼はそうあろうと努めているのだと思う。ナチ野郎の国の出である事に彼は自覚的だ。

 映画館に行っていると金が飛ぶ様に無くなっていく。今日も俺の懐は寂しい。でも1500円で学べるにしては安すぎる勉強代だ。
 カズレーザーが司会をしているほんまでっか的な番組で言っていたが、見る画面が大きいほど脳が活性化するらしい。それほんまでっかという様な話だが、やはり映画は映画館で観ないことには始まらないし…まあ良いんじゃないでしょうか。ほなまた。

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