父さん、ユダヤ人を10人この手で殺したんだ。誇りに思ってくれ!!― イスラエルが『10月7日の虐殺』のビデオを公開
背景
イスラエル軍は現地時間の23日、海外メディアを中心とした約200人の記者をテル・アビブに集め、10月7日のハマスによるテロ攻撃・虐殺に関する、今まで公開されていなかった計47分間のビデオを公開しました。これらの映像はCCTVカメラやハマスのテロリストたちが付けていたボディカメラやスマホ、ハマスや犠牲者たちのSNS(*1)、犠牲者や生存者が撮影した映像や音声などが含まれています。
(*1 ハマスはイスラエル市民のスマホを取り上げ、SNSなどでテロ行為の発信などをしていた)
イスラエルがこれを行った背景には、先週のガザ病院であった爆発に関する報道などに見られる情報戦があります。当初はハマスによる残虐なテロ・殺戮行為についてが報じられ、イスラエルに理解を示す流れだったのですが、メディアやSNS内などで風向きが変わって来ました。そしてガザ空爆が長期化するにつれ、赤ちゃんの首が斬られたや市民が生きたまま焼かれたなど、ハマスが行った残虐な行為について「本当にイスラエルが発表しているようなことがあったのか?」と懐疑的な声が上がり始め、イスラエルによる捏造や否定論なども散見されるまでに…
今回の映像上映はそのような声を受けてのもので、政府スポークスマンは「現在ホロコースト否認に似た現象が起きており、それと戦うためのもの」と会見前にSNSで発信していました。
47分の映像の一部―
ビデオ映像の上映中は撮影禁止、そして遺族全員の了承が得れない限り一般公開はしないということ。ここでは各国大手メディアの記事から、いくつかの映像を紹介したいと思います―
(後ほど確認したところ、毎日や読売はこれに関して報道していました)
例①
ガザ境界部にあるイスラエルの町を、ハマス戦闘員が歩いていると男性と2人の男の子が庭の小屋に隠れているのを発見。すると戦闘員は手榴弾を小屋に投げ込む。その後戦闘員は、子供たちを小屋から引きずり出す。
1人が英語で「I want my mom (お母さんに会いたい)」と叫ぶと、兄弟のもう1人が泣きながらこう言った―「イタイ(兄弟の名前)、多分僕たちは死ぬんだよ…」
例②
首を切られ兵士の遺体が、道路に並べて置かれている様子。
女性の兵士たちが逃げられないよう手足を手榴弾で爆破され、その後至近距離から射殺されていく様子。
庭にあるくわを使い「アラー・アクバル(神は偉大)」と言いながら、住民の首を切り落とそうとするハマス戦闘員。 しかしうまく首が切断できないようだ、住民は動き続けている映像。その前には戦闘員たちが、「誰がやる?」と話し合っている。
例③
ハマス戦闘員が、父親とその息子に向かって手榴弾を投げ父親を殺害。
子供は(自身と父親の血で)血まみれになるが死んでおらず、それを見た戦闘員は彼を引っ張っていき、兄弟の横に座らせた。その兄弟も顔に血が見られる。
戦闘員が父親の遺体の上に立ち、子供たちが「お父さんが死んだ。なぜ僕は生きているの?」と泣きじゃくっているのを、眺めている。
例④
小さな女の子が勉強机の下に隠れていたがハマスの戦闘員に見つかり、震えながら自身の運命(=殺されるか拉致されるか)がどうなるかを待っている。
数秒後、戦闘員たちは射殺することを決め、至近距離から撃たれる。
例⑤
ハマス戦闘員が殺害した市民のスマホを取り、ガザに居る父親に電話。
戦闘員: イスラエルに居る。Whatsapp(メッセージアプリ)を開いて、殺された人間たちを見てくれ。この手でどれだけ殺したか見てくれ、あなたの息子はユダヤ人たちを殺したんだ!
父: アッラー・アクバル
戦闘員: 父さん、今俺は(自身が殺害した)ユダヤ人の女の電話から話してるんだ。彼女と彼女の主人も殺したよ!俺はこの手で、10人殺したんだ!この手で10人も!父さん、Whatsappを開いて、何人殺したか見てくれ!10人も!
彼らの血は、私の手の内にある。母さんに代わってくれ!
(電話に出た母親はむせび泣きながら)
母:神の守りが、私の息子の上にあるように…
戦闘員:母さん、この手で10人も殺したよ!父さん、Whatsappに戻ってくれ。(彼が居る)ミフラスィームからライブ中継したいから。母さん、あなたの息子は英雄だよ。
殺せ、殺せ、彼らを殺せ!
父:戻ってこい、ガザに戻ってこい。十分だ…
(その後戦闘員は両親にWhatsappを使って、自身が行った殺害の様子を見せた)
映像を見た記者たちの反応―
英大衆紙『デイリー・メール』の記事によると、何人かの記者・ジャーナリストたちは映像を見ながら「もうやめてくれ…」とつぶやき、すすり泣き声が聞こえるなど見るに堪えない内容だったようです。また、ある記者はこう話しています―
「映像の中に、救いの瞬間は1度もありませんでした。
上映の後、取材に必要な機材を受け取るため外に出たのですが、私は立てずに座っていました、そして壁際に向かい、壁に寄りかかって涙を流しました」
また米アトランティック誌の記者はこう語っています。
「あまりにも悪質かつ残酷なシーンへの無意識の反応もあってか、吐き気を催すような音も聞こえていた。
更なる映像(が公開されてそれ)を見ないで済むことを、望んでいる」
雑感―
このニュースに関しては徐々に記事になり始めていますが、やはり「ガザでのイスラエルの空爆による惨状」と比べると、明らかに取り上げられ方に差があるのが分かります。ガザ(=ハマス)側が同様にメディア向けのプレスカンファレンスを行っていたならば、翌日は世界中の主要メディアが例外なく大きく報じていたことでしょう。
まさに、架け橋のFacebookの方でも数日前に紹介した、「様々な偏向・歪んだ報道の中で、最もひどいのがバランス」という、ヤイル・ラピード野党党首の発言通りです。
日本の大手メディアも毎日・読売新聞は取り上げていたのですが、毎日新聞の見出しは
『イスラエル軍がハマスの「残虐」映像公開 自国の占領政策には言及せず』
と、少し気になるものになっていました。
まずガザ地区に関しては、イスラエルの占領は正確な表現ではありません。
「封鎖」という言葉は使えるかも知れませんが、それを言うとエジプトもガザを封鎖していることになります。(例えば欧米はエジプトに対してラファ検問所の封鎖を解き、パレスチナ難民を受け入れるよう働きかけており、その見返りにかなりの経済支援を約束していますが…シシ大統領は断固拒否しています。また先日人道支援がラファ検問所からガザに入りましたが、人に関してはエジプト側はガザ→エジプトへの逃亡・流入を防ぐため、コンクリートのブロックで出入りできないようにしています。)
またプレスカンファレンスのテーマと全く違う/180度反対の占領政策について、イスラエルが一言も言わなかったことを批判の意を込め見出しにしていますが、これが果たして正当・適切な批判かどうかも疑問符が付きます。恐らく、この記者はその場で「ではイスラエルの占領政策については、どう思っているのか?」と、軍のスポークスマンに『場違いな質問』はしていないでしょう。
そして表現の自由として、イスラエルがこのカンファレンスの場で自身にとって都合の悪い占領政策について言及しなかった、という批判をアリとするならば―
公平・客観的な立場を(建前上でも)貫くべきメディアとして、パレスチナ側がイスラエルからの被害について会見する際には、テロリストをシャヒード(天国の約束された殉教者)や英雄と賞賛し、テロリストやその遺族に毎年数億ドルの給与・補助金を支払っているという、『テロ正当化政策』に対して言及しなかったことに対しても批判するべきでは―
とどうしても思ってしまいます。
イスラエルに住んでいる立場とすると、『パレスチナには激甘⇔イスラエルには激辛』にしか見えず、公平な報道や批判が双方にされているとは到底思えません。
また今回の映像公開のプレスカンファレンスの扱いが各メディアで小さかったのに関しては、ハマスの対応の「上手さ」もあるでしょう。
というのも同じ日の夜にハマスは、ヨヘベット・リフシッツ(85)、ノリット・クーペル(80)という2人の高齢女性を、解放したのです。彼女たちは「ガザでの2週間は友好的・丁寧な扱いで、よくしてもらった」と話し、それを各メディアも一斉に報じました。
この大ニュースにより、プレスカンファレンスの内容はスポットライトを浴びることなく、10月7日での蛮行の代わりに、「人質に礼節をもって接する、国際的なスタンダードを守る私たち」というイメージを、ハマスは世界に対して発信することに成功しました。
(ちなみに彼女たちの夫はまだガザで拉致されていることを考えると、彼女たちが表立ってハマスを批判できないのは容易に想像できるため、この友好的・丁寧な扱いを鵜呑みにすべきではありません)
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ということで今回は、そんな拉致被害者解放によって吹き飛んでしまった、イスラエルのプレスカンファレンスについて紹介しました。
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