エルサレムでの『異常な日常』
この週末(金~土)エルサレムでは連続で2件のテロが発生、イスラエル・メディアが見出しに付けたように、まさに「テロのシャバット(安息日)」となりました。
1度のテロで7人が死亡するという規模は近年見られなかったもので、インティファーダのような大きな波にならないかとも危惧されています。
さて連続テロが起こった(筆者も住んでいる)エルサレムの人口は、100万人弱。そして人口比率的には3分の2のユダヤ人、そして3分の1がアラブ人になります。今回テロを起こした2人も、ア・トゥルとスィルワンというエルサレム市内に住む、アラブ市民になります。
今回はそんな彼らのテロへの反応から、エルサレムという特殊な場所について紹介できればと思います。
現場に急行したのは、
アラブ人救急救命士だった
まず1人目は、(赤十字に相当する)マゲン・ダビッド公社で20年以上働く、ファディ・ダキダックさん。
彼は東エルサレム北部、ベイト・ハニナに住むアラブ人市民で、マゲン・ダビッドからの出動要請を受け、テロ発生の数分後には現場に到着しました。
「最初に手当をした負傷者(後に死亡)を見て、これは普通の現場とは全く違うと理解しました」
とダキダックさん。
このテロでは撃たれた市民が数か所に倒れていたため、チームリーダーだった彼は、それぞれを回り負傷した場所や状況を見ながら、救命士たちに助けられる可能性のある負傷者から救命措置を行うよう、監督したと言います。
(ということは、本人は明言していませんが、医師による死亡確認を待つだけのケースも、7人の中にはあったのでしょう)
そして約12時間後には、旧市街の南「ダビデの街」で起こった現場にも、ダキダックさんは出動要請を受け、真っ先に急行しました。
そこでは親子が意識はあるものの銃撃により負傷したのですが、22歳の息子さんは同じマゲン・ダビッド公社のボランティア。そしてダキダックさんとも面識があったとのことでした。
負傷した知人を手当てしたときの心境については、こう答えられていました。
また救急救命士として、ユダヤ人の命を救おうと格闘している横では、
「アラブ人に死を!!」
などと人種差別的な言葉を耳にしたとのことですが、ダキダックさんは動じなかったとの事でした。
「気持ちは理解できますし、私はそこには関与しません。怪我人が目の前に居る時、耳には入りますが私は意に介しません。
プロの救命士として、マゲン・ダビッドのスタッフたちと共に集中しているのは一転のみ、『どう命を救うのか』なのです」
アラブ人が起こしたテロによる負傷者を、
アラブ人が救急救命士として応急処置をし、
病院でアラブ人医師*による治療を受ける―
(*ユダヤ人にとっては安息日なので病院における、アラブ人スタッフ率は高くなる)
これが筆者も住む、エルサレムの日常だったりもします。
テレビのキー局や大手紙サイトでは、2つのテロで真っ先に人命に当たったダキダックさんが、『英雄』として取り上げられていました。
しかし、もちろんテロを称賛する声も…
ただテロを起こした2人(21歳と13歳)が東エルサレムに住む、アラブ人のエルサレム市民だということからも分かるように、テロを称賛する声も多く上がっています。実際に東エルサレムではテロが起こった夜に、花火を上げて祝賀する様子などもニュースで報じられていました。
またイスラエルメディアのアラブデスクの記者たちは、エルサレムのアラブ人市民たちがどのように「テロを祝っていたのか」についても、自身のSNSで発信していました。
まずはこちら、エルサレム市の清掃員として働くイブラヒームさんが、テロの直後に友人に送ったWhatsapp(海外でのLine)のメッセージがこちら。
写真は恐らく過去のテロまたは事故のものですが、死んだユダヤ人を犬だと揶揄し、嬉し泣きの絵文字が。
このメッセージの内容を受けエルサレム市役所は、イブラヒーム清掃員を呼び出し事実確認をしたところ、「間違って送ったものであり、テロ賞賛の意図はない」との事だったようです。
またこちら。
こちらは先ほど紹介した、ファディ・ダキダックさんと同じベイト・ハニナに住む、マゲン・ダビッド公社のボランティア。
同じような境遇の2人ですが、ダキダックさんが命を救おうと奔走していたなか、こちらの若者はテロが起こった現場近くで笑顔でピースサインをしています。
筆者もエルサレムに住んでいるため、 もしかすると
イブラヒームさんが筆者の家のごみを収集に来るかも知れませんし、
何かが起こった時の救急現場に笑顔でピースの若者が来るかも知れません。
ということで、
アラブ人が起こしたテロで、アラブ人がユダヤ人を助ける
ユダヤ人の死をSNSやネット上で喜ぶアラブ人たちが、次の日には(何もなかったように)ユダヤ人と接し、共存していく
という相反する、そして日本からだとなかなか見えにくいであろう、『エルサレムの現実』を紹介しました。
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