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エッセイ:大ちゃんは○○である⑩

おそらく外見の変化であり、変化したことで生まれる自信みたいなものが
人生には3度訪れると言われる『モテ期』なるものの1回目を呼び寄せたんではないだろうか。
今はあまり派手な色の髪をした大学生っていないなあというのが僕の印象だが、
僕の大学生時代といったら日本人は一体どこにいるんだと探してしまうぐらい黒髪の生徒は少なかった。
ご多分に漏れず僕もその1人で、入学してすぐに髪の毛をまっ金金にした。
美容院で染めるなんて洒落たことはせず、ドラッグストアで購入したメガブリーチを髪全体にべったりとムラなく伸ばし、染め上げた。
1回では納得した色にならずに2回、3回と繰り返した覚えがある。自然乾燥している間中、頭皮の毛穴が痛くて痛くて、このまま全部抜け落ちて禿げてしまうんじゃないかと心配になるぐらい痛かったが
なんとかかんとか僕の髪の毛達は耐え忍んでくれて、黒色から金色へと華麗なる変身を遂げたのだ。
髪の色を変えただけで、なんだか自信が湧いてきた。
自信が湧いてくると振る舞いも変わっていくような気がした。
振る舞いが変わってくると顔つきまで変わってきたんじゃないかと錯覚し始め、
顔つきが変わってくるとやっぱり自信が湧いてくるような気がした。

そんな根拠のない自信が異性を魅了するぐらいの立ち振舞いに表れていたかどうかは不明だが
1年の間で8人の女性から想いを打ち明けられた。
この人数が多いか少ないかは別として、僕の人生で女性からこんなに多くの告白を受けたことはないし、これからもないだろう。
今回はその内の1人から受けた印象的な告白を記してみようと思う。
その子は同じ焼き肉店でバイトをしており、当時僕が大学1年生。彼女が高校2年生だった。
名前を仮に、『さやか』としておく。さやかはどちらかというと大人しいタイプの女の子で
初めてのバイトということもあってか、あまりテキパキと動ける方ではなかったし、仕事の覚えも良い方ではなかった。
そんな彼女に僕は色々と指導をしたり、フォローをしていたわけだが
月日が流れるにつれ、徐々にさやかの僕に対する態度が変わってきたのが分かった。
いわゆる好意のようなものを感じ始めたのだ。
僕にはさやかに対する気持ちというのは全くなかったし、そんなさやかの好意に気づいていないふりをしていた。
仮に想いを打ち明けられても、応えるつもりはなかった。お付き合いしている彼女もいたので、きっぱりとお断りをするつもりでいた。
僕の勘違いであれば、『自意識過剰すぎるんじゃないの?』ということになるのだが
こういった勘というのは、わりかし当たる方なのだ。
ある日、バイト先の焼き肉店にパンチパーマをあて、派手な柄シャツに身をお包みになられた
それはそれは雰囲気のあるおじさまがお一人で来店された。
その日はさやかも出勤していたのだが、さやかはそのおじさまが店に入ってくるなり
「お父さん!」と驚いたような表情を見せた。
おじさまは「おう、さやか。頑張ってんのか?」と言った。
さやかは厨房に入ってきて、店長に
「あれ、私の父なんです。1人なんですけどいいですか?」と聞いていた。
店長は「もちろんもちろん。10番の席に案内してあげて」と答えていた。
僕は皿を洗いながら『お、お父様、ちょっと見た目怖すぎやしないかい。』と心の中で呟いていた。
さやかがお父様を席に案内し戻ってきたところで、僕は聞いてみた。
「お父さん?」
さやかは少しうつむきながら
「はい。前々から1度行ってみないとななんて言ってて、私は恥ずかしいから絶対に来ないでねって言ってたんですけど。すみません。」
と答えた。
「いやいやいや、別に謝ることないでしょ。カッコいいお父さんじゃない。」と僕が言うと
「やめてください。ホントに恥ずかしい。」と言ってうつむき加減でフロアに戻っていった。
1時間ちょっとが経った頃だろうか。
さやかのお父様がレジまで来てお会計をしていた。
僕は厨房の中からその様子を見ていたのだが、会計が終わるや否や唐突に
「大門くんっていうのはどの子なの?」と厨房に向かってお父様は聞いてきたのだ。

つづく

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