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エッセイ:大ちゃんは○○である⑱

誰かを待ってる時のドキドキって普通は嬉しいものであるはずだし、そうであってほしい。
どんな顔して来るんだろうな?スキップしてきたりするのかな?はちきれんばかりの笑顔で駆け寄ってきてくれたら嬉しいな。
そんなことを考えながら到着を待ちたいものだが、今回ばかりはそんなことを考える余裕なんて微塵もない。
もしも、社長がスキップしながら現れたり、はちきれんばかりの笑顔で駆け寄ってきたとしたら……
いやいやいや、バカバカバカ。
何考えてんだ。あるわけないだろうそんなこと。
ってかあり得ないだろうそんなこと。
思考回路ぐちゃぐちゃのまま、社長の到着を待った。
店長もマコさんも一言も喋らなかった。
その時。
「お疲れさまです。すみません、社長。夜分に申し訳ありません。」
店長が社長の到着に気づき、呼び立てたことに対して頭を下げ謝罪をした。
この社長、焼き肉店『どんと』が2号店としたら1号店、つまり本店を仕切っている人物で
外見はスキンヘッドで筋骨粒々、一見するとヤ○ザなんじゃないかと疑いたくなるほどの強面をしている。
怒りだすと確かに怖いし、迫力満点なのだが
アルバイトの子達に声を荒げるといったことは一度もなかったし
皆に自分のことを『タケちゃん』と呼ばせるほど愛くるしく、ひょうきんな一面もあった。
お酒が切れてくると両の手がプルプルと震えだし、ややご機嫌がななめになりだすのが短所の1つではあったものの
ハートフルな人柄で本当に皆から慕われていた。
そんなタケちゃんが、事の顛末を一通り耳に入れた後、ゆっくりと3人が待つテーブルに向かった。
そして、そのまま頭を下げ
「お客様、この度はうちの者がご迷惑をおかけしたようで、大変申し訳ございませんでした。」
と紳士、夜の蝶、カズに向かって謝罪の言葉を口にした。
90度に身体を折り曲げたタケちゃんを見つめる3人。
何秒か経って、ゆっくり頭を上げたタケちゃんが言葉を続けようとした時
タケちゃんの顔をはっきりと確認した紳士の顔つきが変わった。
「えっ…?」「た、、タケちゃん。。?」

つづく

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