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ー「機能不全なヒーロー家族」ー『アンブレラ・アカデミー』シーズン1の話

 今回は初のレビュー記事となる。

取り扱うのはNetflixのオリジナルドラマ『アンブレラ・アカデミー』シーズン1。

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あらすじ

 1989年10月、43人の女性が同時に妊娠、出産するという出来事が発生。世界的な大富豪であるハーグリーブス卿は生まれた子供達のうち、7人を引き取り養子にした。

彼は特殊な能力を持つ彼らを鍛え上げ、「アンブレラ・アカデミー」というヒーロー集団を結成する。
しかし、結果として「アンブレラ・アカデミー」は解散。成長した子供達の大半は家を去り、彼らは自分の人生を歩む。
そこから十数年の時が経ち、彼らはもう一度家に帰ることになる。ハーグリーブス卿の突然の死によって…


主要人物

・1号(ルーサー)・・・唯一、他の子どもたちが去った後もアカデミーに残った人物。ハーグリーブス卿の命によって月に5年間ほど滞在し、調査を行っていたが彼の死によって地球に帰還する。190㎝以上の大男で、ウルヴァリン並みの耐久力、運動能力を誇る。ちなみにチェリー君。

・2号(ディエゴ)・・・アカデミーを去った後は、非合法のクライムファイターとして活動。警察官のふりをして調査に繰り出すこともしばしば。ナイフ投げの名手であり、格闘の達人。少年時代は吃音症を患っていた。一匹狼気質のためか、他のメンバー(特にルーサー)とは相容れない。

・3号(アリソン)・・・アフリカ系の女性で女優として活躍中。本編開始前に離婚をし、一人娘の親権も夫にとられてしまう。発言内容を現実化させる能力の持ち主。子供時代はルーサーと恋人関係にあった。

・4号(クラウス)・・・同性愛者(もしくはバイセクシャル?)の薬中。ドラッグ購入資金の調達のためか、商店から物を盗んだり、ハーグリーブス卿の遺物を質に入れたりする等、完全なトラブルメーカー的役割を担う。

霊と会話する能力を持ち、後述する6号(ベン)と唯一会話ができる。薬中ゆえ、能力が完全には覚醒していない。

・5号・・・ぶっちゃけ、このドラマの主人公。彼だけ子供時代に失踪していたが、ハーグリーブス卿の葬式の日に突如として帰還する。タイムトラベルを行った結果、約40年間、滅亡後の世界から戻れなくなっていた。葬式の10日後に世界が滅ぶという未来を知っており、その阻止を目的に活動する。タイムトラベルの影響で「中身は58歳、見た目は子供」という合法ショタ。能力は瞬間移動とそれを応用させたタイムトラベル。設定盛り込みすぎだわ。なろう系主人公か、お前は。

・6号(ベン)・・・アジア系の青年。本編開始前にある出来事によって死亡しており、クラウスとの会話内でのみ姿を現す。薬中のクラウスに忠告や助言をしたり、軽口を叩きあうなどのコンビっぷりを見せる。能力はお腹から触手を放出し攻撃するというもの、メンバーの中でも攻撃力は高め。

・7号(ヴァーニャ)・・・合奏団でヴァイオリニストとして所属している女性。アカデミーメンバーの中で唯一能力が発現しておらず、幼い頃から疎外感と劣等感を抱えており、成長後はメンバーの暴露本を出版したことも手伝って、他メンバー達とは距離がある。


前書き

 いわゆるヒーローチーム物の映像化作品は、MCUの「アベンジャーズ」シリーズ、DCの「ジャスティスリーグ」などの映画作品からとしてAmazon Prime「ザ・ボーイズ」「タイタンズ」などのドラマ作品まで幅広く制作されてきた。

 そのようなアメコミ戦国時代の中でも今作『アンブレラ・アカデミー』少々奇抜な設定とプロットから一見に値するドラマとなっている。このドラマは善人と悪人の格闘劇よりも、過去に苦しめられ、機能不全に陥っている「元家族」が再度団結するという「家族再生」を描いたドラマなのである。

しかし、人に勧められるかと問われれば、実際のところは気持ちよく頷けないのが本音である。

その原因はおそらく「家族」や「ヒーロー物」「時空改変」などの多くのテーマを扱うがゆえに、すべてが中途半端な代物に出来上がってしまっているところに起因すると思われる。


オリジナリティ溢れる設定

 前述したように物語の題材、設定自体はかなり面白い。

よくあるヒーローの誕生譚とは真逆で「かつてヒーローだった」者たちが抱える苦悩や問題。それらが互いが大人になったころに噴出し、バラバラになった家族同士がぶつかり合うなど、ヒーロー物の華々しさとはかけ離れた作りになっている。

それに加え、世界の終末のトリガー要因は何か。といった「時空改変」的なSFミステリー要素や彼ら(特に5号)を狙う組織の存在など、アメコミ心くすぐる要素も盛り込まれている。

もちろん、王道の能力バトル的な要素も欠かしてはいない。

また、大まかな展開は大体予想できるものの、思わぬところでそっちに転ぶのか!と驚くような捻りを加える展開もあるため、意外と全部を予想するのは難しく見ている側もつい引き込まれる。

以上のように王道から少し外れたような展開によって、今作は近年のヒーローを題材にした映像作品との差別化に成功しているように思える。

描き分けに偏りがあるキャラクター

 各キャラクターも個性に溢れており、その出自は様々である。

特に5号に関する設定は魅力的。見た目は子供、頭脳大人。しかし、コナンよりも凄まじい経験を積み重ねてきたが故のハードボイルドなキャラクター。

能力も瞬間移動というだけあって、アクションシーンも映える。彼だけでも話が成立しそうなほどの個性。制作陣も彼を気に入っているのが

また、クラウスとヴァ―ニャの描写も光っている。

クラウスは明らかに薬物中毒者のメタファーだし、霊との交信もまるで中毒者が見る幻覚っぽく扱われていたり、薬物中毒のせいで能力が不完全であるという設定から、眠っている能力は何なのかと少しワクワクさせられる要素もある。
また、中盤のある出来事(これも中々ブッ飛んでいる)において出会った愛する人のため、薬絶ちを目指して苦悶する姿は魅力的だ。

ヴァ―ニャもアカデミーで疎外された経験から、常に鬱屈としているが、終盤の展開での自信と戸惑いが両立したような描写もあり、視聴者側にとっては一番親しみやすいキャラクターとなっている。

演じている女優もアカデミー主演女優賞にノミネートされた「エレン・ペイジ」とだけあって、ヴァ―ニャの不安な表情や立ち振る舞いに実在感がある。

しかし、それ以外の4名は少し薄まってしまっている。

例えばディエゴに関しては、吃音症を患い、それを母に支えてしまったという過去がある。
もちろん、その回想も挿入されるのであるが、あくまでも母とのつながりを表すシーンに留まり、彼の苦悩や挫折は明示されない。

また、ルーサーについては長男でまとめ役であったはずなのに、作中ではリーダーシップを発揮する場面がほとんどなく、逆に戦犯役なったりしてしまい、かなりのポンコツっぷりを見せつける。

アリソンは「母親」で「女優」という兄弟の中でも、最も社会に溶け込んでいるキャラクターなのだが、彼女についての言及が少なく、堂々と町を出歩き危険な出来事に首を突っ込むことに多少の違和感がある。

序盤からすでに死亡しているベンの死についても特に言及されることがない。

このように「描写が足りない」と感じる場面が多々あるため、どうしても感情移入しやすいキャラと、しにくいキャラに二分されてしまっているのだ。

これは主要人物が多い話だとどうしても浮上する問題なため仕方ないとも思えるが、どうしても気になってしまった。


バラバラすぎる家族

 兄弟たちは元々一つのチームを結成していたこともあって、作中の「敵対者」や「世界滅亡阻止」に関する話し合いが描かれることが多々ある。

しかし彼らは一向にまともな話し合いをすることがない。

時折「お、建設的な方向に行くのかな?」と思いきや、やれ俺は一人でケリをつけるなど、やれアイツは信用できないだの、お前が来ても無駄だのといった発言が飛び交い結局はなあなあな雰囲気で話し合いが終結する。

これが4、5回ほど繰り返されるため、本当に一度でも家族だったのかお前ら?とツッコミたくなってしまう。

もしかすると「ハーグリーブス卿」という一家の大黒柱が喪失したために機能不全に陥っているということを表現したいのかと考えたが、
別に彼がチームのまとめ役や作戦の立役者だった、という描写もないため、終始グダグダ感が強く、キチンと互いに話し合えば5話ぐらいで全部まとまったんじゃないかと感じてしまった。

 過去に起こった決定的な遺恨や喧嘩別れなどの描写があれば、このいがみ合いも納得がいくのだが、直接的な原因やアカデミーの解散時の状況なども描かれないため、どうにも彼らが事あるごとに衝突する様子に説得力がないのである。



総評

『アンブレラ・アカデミー』は「機能不全に陥った家族」を題材にしていおり、それぞれのキャラクターや「時空改変」に関するSFミステリー的な側面など、一つ一つの要素は魅力的である。

しかし、それら個々の要素を上手く扱うことができずに多少の機能不全を抱えてしまっていることには言及しなければならない。最終的な物語上の問題はシーズン1で解消されず、消化不良のままシーズン2に持ち込まれることになる。

幸いにもシーズン2はかなり好評のようで、私もまだ1話しか見てないが、シーズン1よりもかなりワクワクさせられた。

必見!と胸を張って言うことは出来ないものの、一味違ったチーム物を楽しみたい方にはとっては一見の価値があるだろう。


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