2年ぶりに大学に行った

モノレールの車窓から望む多摩丘陵には居心地の悪い懐かしさがあった。
大学に着いてから法学部棟までの道すがら、俺の知らない建物が二つ建っている。
俺がいない間にこんなものが。まったく意味がわからない。


景色は変わりすれ違う学生はみな楽しそうで俺だけが置いてかれていた。2年ぶりの大学である。
浦島太郎は俺だった。

ゼミを終えて同期の方々とご飯を食べに行くことに。半年間オンライン上でやり取りしていた人と対面で喋るのは妙に気恥ずかしい。
サークルの話とか就活の話をたくさんふられたけど、俺にはよくわからないことなのでずっとくねくねしてやり過ごした。
その後女性陣とは解散し、男だけでキャンパスを散歩。
意外に会話は盛り上がり、帰る頃にはすっかり陽が落ちていた。
ゴキブリの俺にとってはみんなもったいないくらい良い人たちで、ほんとありがとうという気持ちしかありません。
帰りの電車で方向が一緒だったT君と本の話になった。今なんの本を読んでいるかと訊かれたので、チャンドラーの大いなる眠りと答えたら、T君はおもむろにカバンから本を取り出した。チャンドラーのロンググッドバイだった。
T君はチャンドラーを読んでいる人に初めて会ったと言ったので、僕もだと答えた。
読書傾向だけで人の性質を判断することはできないけれど、一つの指標になると思っていて、永沢さんよろしく、T君とは仲良くしたいと思った。

そんなこんなで電車を降りふわふわと帰宅しながら着地して、そこでようやく俺は虫になる。人間包茎。いつまでも宙に浮いてはいられないし、法哲学のレポートは提出しなければいけないし、約束を果たさないままのかつての友人に連絡を取らなければいけない。謝らなければいけない女性もいる。自分のことしか考えられない、エゴの塊に手足が生えたまま、今ものそのそとあたりを徘徊している。
こうして文章にするまでもなく、すべきことを、俺はすべてわかっているのに、部屋に帰ればそんなことは忘れてしこりたくなってしまう。参ってしまいます。

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