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限界長距離ツーリングとSSTRの話

「二度と走らんからな」

長距離をバイクで走って家に帰ってきたとき、大体こんなことを口走ってしまう。まぁそれでも乗るし、降りた瞬間から次のツーリング構想を練るけど。

ツーリングから帰ったあと、大体こんな感じ。

まあ、楽しいから仕方ないね。面白い出会いもあるし。

初めて書いた記事でも書いたが、初めての長距離ツーリングは納車後の慣らしで富山まで走った通算600kmほどのツーリングだった。今思えばアレが1番楽しかったかもしれない。

僕は基本的に同じ道を往復するのが苦手だ。夜ならいざ知らず、日中だと特に往復同じ道なんてできない。景色が同じなのはつまらないのだ。道を覚えてしまうから。なので、普段の通勤でさえ、行きと帰りで道を変えないと気が済まない。

通勤の時に使っていた自転車。ほぼ毎日20km弱走ってアップダウンも激しかったため、ガタが来るのも早かった。

そんな僕が、趣味のツーリングともなればその度合いはさらに強くなる。同じ道を通らないためなら、200kmくらいの遠回りは朝飯前。日程が1日増える程度なら屁でもないし、時にはフェリーだって使う。

お陰様でというか、なんというか、とある界隈ではちょっと知られた距離ガバツーリングオタクになってしまった。あまり嬉しくない名前の知られ方だなぁ。

しかし、いくら距離ガバでも何日も走るような時間や体力、資金はそう簡単に噛み合わない。悔しいがこれが現実だ。

だが、時間が経つほどに行きたい場所は増えるし、それが限界に達したとき、長距離ツーリングを衝動的にしてしまうのだ。行きたいところに行けるとは限らないが、本能の赴くままに、バイクを走らせる。これが楽しいんだ。泊まりがけの長距離だと尚更。

本能の赴くままに、半島の先端を目指すなんてよくあること。初タンデムツーリングで特に理由もなく、知多半島の先端を目指した

長距離ツーリングをするために、必要なことはなんだろうか?知らない街を訪れる興味。新しい出会いへの好奇心。食べたいものを味わう喜び。自分とバイクの限界のその先。他にも色々あるが、それら全てをひっくるめた好奇心なんじゃないだろうか、と僕は思う。好奇心は猫を殺すかもしれないが、用法容量を守って正しく扱えば、好奇心は良質かつ最強のスパイスになるのだ。

例えば散歩中に見つけた独特な雰囲気の路地裏。男の子なら、誰だって一度は入ってみたくなるはず。僕は入りたい。そこに知る人ぞ知る雰囲気の食堂なんかがあったら、絶対おいしい定食が食べられる気がする。そう考えるだけで路地裏を探したくなってしまう。そんな好奇心。

路地裏ではないけど、休憩所で牛乳を手に入れたりできたら最高

そこに、僕的に一番大切なものを付け足したい。それは、肉体的にも精神的にもしんどいことだ。

これが限界を限界たらしめるのだろう。しかし、この良質な限界ツーリングでしか得られない栄養素は、確かにある。断言してもいい。身体は正直なので限界ツーリングを求めていないが、精神はもっと正直なので限界ツーリングを求めている。つまりただのドMだ。夏の暑さにも冬の寒さにも負けぬ丈夫な体と精神力が必要なのだ。

この時の気温は38度。長距離を走る暑さではない
この時は-5度で、トンネルを抜けたら半分凍りついた雪と、濡れたアスファルトが待っていた

しかし、バイク乗りというのは皆総じて限界であり、ドMである(個人調べ)。つまり、限界の上には更なる限界がいるのだ。どこかで見たネパールだかインドだかの舗装されていない山岳地帯を走るスズキのハヤブサを見た時はこれが限界の頂点だと思ったが、多分これ以上に純度の高い限界は存在するはずなのだ。例えば、スーパーカブやベスパで、パリ=ダカールラリーに出場する剛の者とか。自分ではまだそんな純度の高い限界ツーリングを実施するには、経験も技術も足りないが、いつかはその一端にだけでも触れて見たいものである。

さて、その中でも僕が特に限界だと感じた長距離ツーリングの話をしよう。

SSTR」という単語をご存知だろうか。SunSet Touring Rarryの頭文字を取ってSSTRだ。

これは「Chasing the Sun」(太陽を追いかけろ)というテーマのもと、東の海、太平洋沿岸の日本各地から、日の出と共にスタートし、太陽と共に西を目指す。指定された道の駅やポイントを経由しつつ、その日の日没までに、石川県羽咋市の千里浜を目指す。自らのバイクを所有し、走らせることができる人間であれば誰でも参加できる、面白いイベントである。しかし、一般人が参加できる中で、おそらく日本一過酷なツーリングラリーとも呼ばれている。

何故面白いのか?

スタート地点は各自バラバラだが、皆のゴールは同じだからだ。完走できれば達成感も得られるし、記念品も貰える。途中のチェックポイントや、ゴール地点で他のライダーたちと出会い、話すのも楽しい。好きなところで休憩し、ご飯を食べるのを楽しみにするのもいいものだ。1日の間に海から山へ、山から海へ走るなんて、なかなかできない体験だ。こんなに楽しいことづくめなのだ。面白くないわけがない。

面白くないわけがないのだ。めっっっちゃくちゃしんどいことを除けば。

何故しんどいのか?

大まかに分けて3つの理由があると思う。それは距離時間、そして体力だ。

とりあえずみんな日本地図を開いてみよう。手元に日本地図がないって人は地図アプリでもいいよ。世界地図と地球儀じゃないならそれでいいから開いてみて。

地図が開けたらまずは石川県羽咋市にある、千里浜なぎさドライブウェイを探して欲しい。地名から引くなら今浜ね。......あったかな?世界地図と地球儀しかないって人は石川県っぽいところでいいよ。

なぎさドライブウェイでは、砂浜にマイカーを持ち込める。楽しいのでSSTRじゃなくても行ってみてほしい

次は日本列島の離島を除いた太平洋側を見てほしい。大体、北海道根室市の納沙布岬から、鹿児島県南大隅市の佐多岬くらいまででいいと思う。大体普通に車で走る道を選ぶなら、3000kmほどだ。海岸線でいうなら、多分8000kmくらいあるんじゃなかろうか。測ったことないから知らんけど。有料記事でもないので、その辺はアバウトだが、無料なので許してもらいたい。ただ、日本の海岸線は一本の線にすると、めちゃくちゃ長い。リアス式海岸とかあるからね。人間の全ての骨を1本に並べると20mくらいあるみたいな感じだと思って欲しいし、嘘だと思うなら自分で調べてみよう。夏休みの自由研究まだ全然終わってないよ!って夏休みキッズがいる親御さん、このテーマ使っていいよ。調べるの多分1日で終わるから。

佐多岬。植生が南国チックでとても面白い

多分、千里浜までの最短距離にある太平洋側の沿岸は名古屋港水族館あたりじゃないかな。どこやねんってなる人は愛知県をカンガルーに見立てて、顎か喉あたりだと思ってほしい。大体そこから千里浜まで直線距離で200kmほどだと思う。直線距離で。道路を走れば、高速を使うと250kmほどだ。普通にまっすぐ走るならね。

最短でも250km。そこからさらに指定されたポイントなどを経由することを考えると、最低でも300kmは超えてくる。これが最初のしんどいポイントだ。

次に時間。スタート地点の日の出から、千里浜の日没時間までというフレキシブルな制限時間。夏なら朝4時ごろから夕方19時くらいまで日が出ているが、SSTRの開催時期はこれまた絶妙な5月や10月。よく持って12時間である。

代わりにとてもきれいな夕焼けをゴール地点で見やすい。千里浜は夕焼けスポットとして有名だ。

つまり、12時間で最低でも250km、長い人だと1000km近い距離を走ることになるのだ。高速道路をひたすら走り続けるわけにもいかないし、給油や食事などの休憩をこめるなら大体10時間走るかどうかとなる。道の駅を巡るのだから、食事やお土産選びは欠かせないのである。つまりさらに時間が削られるようになってくる。如何に時間を効率的に活用するかが鍵なのだ。

そして、時間と共に刻一刻と変化するものがある。天気だ。スタート地点とゴールの千里浜が晴れていたとしても、道中が晴れるとは限らない。「今は晴れていても10分後には雨」なんてこともよくある。125cc以上のバイクであれば高速道路を使うことでうまく雨雲を抜けられるかもしれないが、バイパスに乗れないどころか、時速30km\hまでの速度でしか走れない原付だと、ずっと雨の中を走る可能性だってある。雨に打たれながら長距離をひたすら走り続けるなんて地獄以外のなんでもない。まあ、僕のバイクは、日中は雨を知らないと言っても過言ではないくらい、雨とは無縁なのだけれども。夜は走らないし。

ルート上でトンデモ土砂崩れがあったりもした。おかげで2時間のロスもあった

最後に体力。体力がないともう全てダメだ。バイクでなくてもなんでもそうだ。基礎体力がないことには長距離ツーリングなんてできるものではない。しかし、どれだけ鍛えたところで一度も休まず100km以上も走り切るというのはだいぶ難しい。一度挑戦したことがあるが、350kmが限界だった。むしろ長距離ほど適度に休んだほうがいいのだ。後半まで来て事故を起こしてしまっては、元も子もないのだから。

休憩する時は装備も外して、日陰でしっかり休もう。最悪バイクの影でも多少休める

とにかく体力は大切だ。うまく消費と回復のサイクルを作ることで、どれほど長距離でも万全の状態で走ることができる。と思う。体力がないと余力が生まれない。余力がないと体力を回復できない。体力が回復できないとトラブルに対処できない。もう最悪だ。みんな体力をつけような。お兄さんとの約束だ。あとしっかり食べてよく眠ること。最低でも前日のうちから心がけるだけでかなり違うのだが、現代人は忙しいので難しい。なので、とりあえず朝ごはんだけでもちゃんと食べよう。

朝からこんな魚を食べれたら仕事でもツーリングでも頑張れるし楽しめるような気はする。調理コストはともかくとして。

しかし、体力だけはいくらあっても足りないのだ。奴らすぐどっか行きよる。雨でも降ろうものなら2倍近いペースで浪費されてしまう。ツーリングするときはほぼ全身に風を浴びながらなので、ただでさえ体力は奪われやすい。夏は暑いし冬は寒いので尚更奪われる。それがSSTR期間中はないとはいえ、雨が降ったらもう......。考えるだけで脳汁が採れたて新鮮フレッシュジュースのイメージ動画のように溢れ出そうだ。ドMなので。

とにかく、これら全てをクリアして、ようやくSSTRを完走できるのだ。

ゴール地点での1枚。偶然にも400Xが4台、しかも同じ年式で同じカラーが3台も揃った。一番手前のサメを載せているものが、僕のバイク。

しんどい、しんどいと言ってはいるが、ただつらいだけなら誰も参加しないと思う。それでも数千人が参加して、今年で10年目になったSSTR。5年に1度、premium SSTRというのも開催されるらしい。めちゃくちゃ楽しそうだ。

朝早く起きて、ひたすら走り、時間に追われ、最後の最後でたくさんのライダーと砂浜を走る。楽しいことばかりだが、この砂浜を走るというのが問題で、隙間という隙間に、砂が入り込んでいる。しかも潮風に当てられて、めちゃくちゃ錆びる。なので、洗浄が大切だ。水をかけるだけでもいいが、帰ってからちゃんと洗車をするのを忘れないようにしたいところ。

走ったあとはしっかり洗おう。めちゃくちゃ砂が落ちてくる。

さて、色々つらつらと書いたが、長距離ツーリングは楽しいのだ。ということを知ってもらいたい。初めてノートを書いた時にも出したが、せっかく二輪免許を手に入れた人が多いのだから、日常のアシとしてだけではなく、ツーリングを楽しんでもらいたい。

もちろん、バイクは車と違ってエアコンもないし、転倒する危険性だってある。荷物も積めないし、屋根がないから雨に降られたら濡れるしかない。しかしそれでも楽しいのだ。楽しさだけでその辺の全てを帳消しにできる。と思っている。

なのでみんなもせっかく免許があるのならバイクで走って旅行しようぜ。50ccの原付でも1300ccのリッターバイクでも、とても楽しいから。

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