雷鳥ダービーの話。松本山雅vsカターレ富山
「松本山雅の応援を敵として見たい」
君は見たか、緑が覆いかぶさってくる森を。緑の大津波を。僕はここ最近のほぼ毎月1回、あれをアルウィンのゴール裏で眺めている。あれは大迫力だ。
あれをアウェイから観れないだろうか。と言ったのが6月のこと。6月11日にアルウィンで行われた、藤枝FCとの試合中だった。あの日はハーフタイムに入ってからの大雨で、1時間も試合が中断した。シャトルバスも予定を繰り上げて運行されるようになり、幾らかのサポーターがスタジアムを離れていくのを見送った。しかし、
「どんな時でも、俺たちはここにいる」
とチャントの中の一節にあるように、多くのサポーターたちは本当に雷と大雨に耐え抜き、試合再開を待ち続けた。雨が止んで試合が再開されたとき、「俺たちはあの雨の中客席で待ち続けたんだよって自慢できるね」と周囲のサポーターたちと話し、喜んだ。あれ、一人だと絶対耐えられないけどみんなといるから耐えれたようなもんなので、サッカー観に行くときはみんなで行こうぜ。楽しいから。サッカーに限らずスポーツ観戦はみんなで行くと楽しいんだ。
さて、ここからが雷鳥ダービーの話。
当日は夕方から雨予報で、アルウィンに着いた時からすぐそこに雨の柱が見えていた。それでも、雨はまだ降ってないから、とスタジアムグルメを見て回り、山雅ティーパーティーに立ち寄る。上のカバー画像はそこでもらったイラストカードだ。かわいいよね。
こういうのをサポーターが有志で配布しているらしく、山雅のサッカーにかける情熱が伝わってくる。
家で軽くご飯を食べたため、到着がいつもより少し遅めの時間になったので、スタグルもあまり見ることなく、富山から来たブラック焼きそばとブラック唐揚げ、氷見牛コロッケだけを買って観客席へと急いだ。
僕はアウェイ側、彼女は山雅側で。初めてのスタジアム内別居だ。僕はよく知らないが、意外とよくあることらしい。聞いたところでは松本山雅と長野パルセイロのカップルもいたりするとか。家庭内戦争じゃん。
さて、結論から言うと、雷鳥ダービーは松本山雅の勝利に終わった。悔しい。真の雷鳥はガンズくんだとでも言うのか。ライカくんもかわいいのに。雷鳥とカモシカを融合したキャラがかわいくないわけないのに。立山連峰は知らんけどアルプスには雨が降っているのに
しかし、カターレ富山だって負けてはいなかった。上位の松本山雅に対して果敢に攻め続けていた。誰もがいい試合だったと認めるほどの、雨は冷たいけど試合と応援は熱いダービーだった。
しかし、何より熱かったのは応援じゃなかろうか。いや、そうに違いない。なぜなら、カターレサポの応援は、山雅サポを驚かすほどの圧があったからだ。満員のアウェイ自由席。波打つ青赤の旗。全員が旗を振って応援している動画を、この記事を読んでいる人は見たのではないか?あの中に僕もいた。あのツイートした人、僕の彼女なんですよ。バズれ。
試合前に降ってきた大粒の雨は旗を重くし、雨は冷たく、雨ガッパは蒸し暑い。30倍ちかい数の緑の軍勢に囲まれた青色が、集まってまるで1頭の大きな生物であるかのように見せる。強大な敵に飲み込まれてたまるかと、全員が旗をもらった瞬間から、大きく振って奮い立つ。しかし、まだ統一感がない。各々が自分のタイミングで振るから崩れてしまうのだ。
いくら楽しいとはいえ、常に旗を振り続けるのは非常に疲れる。特に水を吸って重くなっているのだからなおさらだ。僕は初観戦ということで、旗を振るタイミングなどのレクチャーを、サポーターの代表みたいな若いお兄さんから受けた。雨に耐えつつ、旗振りの休憩がてら、残しておいたブラック唐揚げを頬張りつつ、試合開始を待っていた。
一方その頃、彼女もブラック焼きそばを食べていたらしい。ハーフタイムに合流した時、「焼きそばなのにラーメンの味がした」と言っていた。難しい味だな。
雨が止んで、選手が入場してきた。今こそレクチャーされた旗振りテクニックを披露する時!
「松本山雅サポに人数では負けても熱意で負けるな!」
どこかからそんな声が聞こえた。そうだ、いつもは松本山雅のホームにいるからわからなかったけど、アウェイで来るサポの人たちはみんなこの気持ちで応援しているんだ。
聞くところによると、アルウィンにくるアウェイサポは、お祭りのようになる風景を楽しんでいるらしい。実際、アウェイユニを着て、フラフラ歩き回っていると、山雅サポの人はよく話しかけてくれる。お菓子までくれる。漬物もくれる。ピクニックか?多分アウェイサポは孫かなんかだと思われてるのかもしれない。くれた人は同年代だと思うけど。
ここは普段、僕にとってのサッカーホーム。だが、今は敵地だ。アウェイサポに優しくしても、試合まで優しくしてもらえるわけではない。ホームチームであるという強さ。
選手が入場し、ホーム側の大きなスクリーンに
ONE SOUL
というスローガンが映し出された。
試合開始。相手が魂を一つにするなら、こちらは富山が一丸になったONE TOYAMAだ。
前半から試合は白熱していた。ボールが地平を走り回り、それを白と緑の選手たちが追いかける。よく見ていた、冗長的なフライパスが連続する試合ではない。
これだ。これこそが見たかったサッカーだ。今までは応援に感動していたが、今回は試合にも感動した。戦術的なものもあるのかもしれないが、どうしてもフライパスばかりの試合は面白くないのだ。松本山雅の試合は、言ってしまうと失礼だが、フライパスが多いように感じていた。なのに今日はどうだ。贔屓チームの試合であることもある。しかし、ボールが空高く舞い上がらない。これだけでかなり面白い。
カターレが攻めに攻める。ひたすら前に行こうとしている。オフサイドだったが、一瞬ゴールが決まったと思ってアウェイ席が沸き立った瞬間もあった。声出し禁止なのに、うっかり声が出そうなほどに熱い。(静かにしよう)雨に降られた冷たさなんて、もうすっかり忘れていた。
前半で1点取られてしまったが、切り替えていこうとばかりにまた攻める。結局点を決めることはできず、敗戦を喫した。前節の福島戦の引き分けに続いて2戦連続の白星なしとなってしまった。
試合が終わってから、選手達の健闘を讃える時、みんな立ち上がって、いい試合だったと口にしながら拍手を送っていたのが印象的だった。そして、写真に撮ることはできなかったが、山雅ホーム席がペンライトを青く発光させて振る姿。これもまたいい試合だったということなんだろうな、と感じた。ホーム席が緑なのはいつもなのでともかく、青く光っているのは初めてみた気がする。
スタジアムの外に出て、彼女と合流し、何人かの山雅サポーターと話す機会があった。
「カターレすごかったね」
「いい試合だった」
「みんな旗持ってたのが印象的」
「久しぶりに満席のアウェイを見た」
とまあ、勝てたこともあるだろうけど、みんな喜んでいた。
アウェイサポーターは、ホーム戦で見るサポーターよりもコアな人が多いという。だから選手の一挙手一投足に注目し、それに一気一憂する。多分それはどのチームのサポーターもそうで、ホームに行くのとは訳が違うから、確かにそうなのかもしれない。
山雅のサポーターは「この選手は我々山雅の息子だから」みたいな見方をしているので、なんというか、親みたいな目線で優しい。今のJ3にいてはダメだという気持ちがありながらも、「俺たちがあいつらを引っ張ってやらないと」的な何かを感じる。実際、サポーターはJ1にいるべきと言われたとかなんとか。主役である選手たちを差し置いて。これもまた山雅のサッカーが面白いと感じる由縁なんだと思う。
しかし、カターレのサポーターは、何かが違った。一緒にJ2へ戻ろう、J1に上ろう、という気迫のようなものを感じる。これはアウェイに来ているサポーターに囲まれているからかもしれない。ヤジを飛ばすことはなくても、皆の顔や仕草に出るのだ。すぐ立ち上がるし、すぐ顔に出る。あと声も出る。まだ声出し許可されてないからこれは良くないと思ったけど、熱狂的だと思った。
同じ熱狂具合でも、ベクトルが全然違う。
この違いが、めちゃくちゃ面白い。
Twitterを見ていても、カターレサポのツイートは異様に熱い。老若男女問わず熱いし、それでいて冷静な分析をしている人も多い。多分山雅サポにもそんな人はいるんだろうけど。サポーターの目線が違うだけで、これほど面白いのか。
前に書いた記事でも話していたが、サッカーがこんなに面白いなんて知らなかったし、チームを応援するサポーターの気概の違いも様々で、本当になんでもっと早く教えてくれなかったんだ、という気持ちになる。
これからも山雅やカターレに限らず、いろんなチームを見ていきたいし、J3だけでなく、J2・J1、JFLや社会人、地域リーグなども面白いだろう。
書いた記事を読んでくれた人と会うこともあるかもしれない。いや実際会ったけど。
そんなこんなで、7月には大阪ダービー、9月・10月には社会人サッカーを観に行くことが決定した。
これらの記事を書くかはわからないが、7月にあった大阪ダービーはかなり面白かったので、そのうち書くのも面白いかもしれない。この記事が好評であれば。
また何か書きたいと思ったら書くので、よろしくお願いします。
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