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【磐田vs大分】松尾勇佑のゴールに学ぶサッカー観戦のコツ

どうも、ゼロファジ(@Zerofagi)です。

今年ちょくちょく『日本一やさしいサッカーの見かた講座』というシリーズでゼロファジ式のサッカーの見かたをお伝えしております。第4回までお披露目を兼ねて無料公開する予定です。

来年、YouTubeメンバーシップにてゼロファジ式のサッカー観戦講座を立ち上げて本格的に始動していこうと考えているんですが、今回はその講座の内容を使いながら「こんな風に考えるとサッカーもっとおもしろくなるかもよ!?」というお話をしていきたいと思います。

今回取り上げるゴールシーンはこちら!
大分トリニータの松尾勇佑選手の素晴らしいゴールです。


磐田はどういう守り方をしていて、大分はどのように突破したのか?両チームの気持ちを考えながらお話していきたいと思います。では、いつもどおりまずは最初のシーンから見ていきましょう。

シーンの始まりは、大分のコートで大分がボールを持っているところからです。サッカーチームのアクションは、「運ぶ」「防ぐ」「奪う」と3つあります。このうち大分はボールを前に「運ぶ」ことをやりたい!という気持ちでいます。

「運ぶ」の中身をさらに具体的に言うと、
攻撃のSTEP1.相手コートに入る
攻撃のSTEP2.チャンスを作る(シュート・クロス・ラストパス)
攻撃のSTEP3.シュートを決める

大分はこの3STEPをクリアしてゴールを決めたい。

一方の磐田はその逆です。大分の「運ぶ」を邪魔して「防ぐ」ことをやりたいと思っています。

「防ぐ」の中身をさらに具体的に言うと、
守備のSTEP1.自コートに入らせない
守備のSTEP2.チャンスを作らせない
守備のSTEP3.シュートを決めさせない

なるべくピンチの度合いが高くならないように自ゴールから離れたところで守備をしていきたい!そしてチャンスを見つけたら「奪う」をやりたい!磐田の方はそういう気持ちでいるんだと思っておいてください。

ボールはチームに攻撃する権利を与えてくれます。ですから、磐田の「奪う」が成功すれば大分の攻撃は即座に終了し、磐田の攻撃がはじまります。その攻守の切り替えを起こしたいってわけです。

では、次に同じ映像を使って磐田の守り方をチェックしていきましょう。

センターサークルの相手コートの頂点とタッチラインを結んでみました。(角度ちがうかもだけどその辺てきとー)こうしてみると、磐田の前線の選手は黒線よりも前に出て大分の組み立てを邪魔しようとしていますよね。

このように、センターサークルよりも前に出て結構高い位置から相手のボール回しに次々とプレッシャーを与えていく守り方のことを前プレと呼びます。これは通称だと思うんですけども、多分「前からプレス」の略じゃないでしょうかね。他には「ハイプレス」という呼び方もします。どっちもよく聞く言葉なので、覚えておいて損はないです。あ、「プレス」は「プレッシャー」と思っておいてOK。

黄線:ボールの動き 水色線:磐田の動き

前プレはその名の通り、相手のボール保持者や次に保持しそうな選手に対して前線から厳しくプレッシャーをかけることでミスを誘ったり、ボールをつなぐことを諦めさせて、ボールを奪う守り方です。特にボールをつないでくるスタイルのチームに効果が見込めるやり方ですね。

いま、大分のボランチ?から右にパスが出ましたが、そのパス交換に対して磐田の選手がそれぞれプレスに走っていることがわかりますよね。じゃあ、この次にパスが出たらどうなるのか?というと・・・

大分の選手に対して、磐田の選手がプレッシャーをかけてきて水色の矢印で突き刺すように追い立てているのがわかります。このように、次から次へとプレッシャーをかけて相手のボール回しを乱れさせてミスを誘いたいってわけです。

では次に、前プレのメリットとは何か?について。一番覚えておきたいことは、高い位置でボールが奪える可能性があるということです。

もし磐田の狙い通り黄色丸のエリアのような高い位置でボールを奪うことができたとします。さっきも言ったとおり、ボールを「奪う」ことができると攻守交替しますから、即座に磐田の攻撃がこの位置からはじまります。

するとどうでしょうか?青い線で結んだのが大分の最終ラインと中盤です。大分は攻撃に出ようとしていましたから、人数を前に送っています。守備に即応できる人数も限られ、人数が少ないがゆえにスペースも豊富にあります。ボールを奪われ、虚を突かれたようになだれ込まれると失点してしまう可能性は十分にある。このように、前プレで高い位置でボールを奪うことができると、守備が整ってない相手を急襲することができる、というわけですね。

ところが、メリットがあればデメリットもあるのがサッカー。大分にタテパスをスペースに流されたシーンまで早送りしてみます。

水色の線は磐田のDFライン、MFライン、FWラインをてきとーに結んでみました。前プレに出ているので、磐田の選手は全体的に前目に位置していますよね。そうすると、黄色のエリアのように背後には広大なスペースができることになります。サッカーのスペースは守備者がどこに立つか?何人立つか?で大きさが決まります。大分の選手を捕まえようと前プレで人を前に前に送れば、その分背後のスペースも大きくなる。前プレはこのようなリスクを抱えるわけです。

え、じゃあDFラインがもうちょい下がったらいいんじゃない?と考えるとどうなるか。水色丸がその場合、磐田の選手が立ってる位置です。

そうすると今度は、前プレにいった前線・中盤の選手と最終ラインの間にぽっかりスペースができてしまいました。いわゆる「間延び」の状態です。こうすれば裏は取られないかもしれないですが、逆に中盤を好き勝手にされてしまう可能性が出てきます。サッカーってのはほんとにいじわるなゲームですよ。まあ、でも、そこがすきなんですけどね。

さて、ここでもう一度磐田の気持ちを考えてみます。前プレで大分のボールに連続してプレッシャーを与えたい。そうして、大分のボール回しを邪魔しつつボールを奪ったらなだれ込むように襲い掛かかれたらいいな!!というところでしょうか。

逆にマズイことは何か?

それは大分のボール回しを止められずに、スペースを使って前にボールを「運ぶ」ことを許してしまうことです。磐田は「防ぐ」、大分は「運ぶ」ですもんね。運ばれちゃったらダメじゃん!というシンプルな話です。先ほども言ったように、前プレに出ている背後には広大なスペースがありますから、そこに侵入されると厄介です。ですから、磐田はそこに蹴らせたくない!繋がせたくない!とも思っている。こう考えてみてください。

そのために磐田がやりたかったこと。そこが最大の注目ポイントです。それは「ボールを持っている選手に前向きにプレーさせない」ということです。これはめちゃくちゃ大事なことです。なぜなら前向きにプレーできる状態になると、相手はタテパスやドリブルを繰り出してボールを前に「運ぶ」体勢に入る可能性があるからです。

再び、シーンを巻き戻して大分の組み立てをみていきましょう。まずは攻撃のSTEP1.相手コートに入る をどうやってクリアするのか?

中央からやや右に位置していた弓場選手?がボールを受けました。磐田は前プレに出ているので、ボールを受ける選手に厳しく寄せて自由を奪いたい。それを継続的にやることで大分の組み立てを不安定にしたい。しかし、弓場選手と距離があったので物理的に詰められず、やむを得ず「前向きにプレーできる余裕」を与えてしまいます。ここの弓場選手はめっちゃうまい・・・

3本線を引いたので、ひとつずついきましょう。まず黄色線ですが、前向きにプレーできた弓場選手からタテパスが入り、FWの位置から落ちてきた中川選手へとボールが転がっていきます。

次に、青線。これは弓場選手の体の向きです。こちらからみて弓場選手の胸がしっかり見えるので弓場選手は手前のタッチライン方面に体を向けています。ところが、パスは黄色線へ向かうんですよ。体の向きとパスの向きが違うんですね。それはどういう効果を生むのか?がよくわかるのが、水色の線です。

磐田の左サイドの選手が矢印の先にいる大分のサイドの選手を警戒しているのがわかると思います。弓場選手の体の向きだと、そのままタッチライン側にパスを蹴っても不思議じゃないように見えるんですよね。だから、サイドにボールが出るのかな?と予想して、磐田の左サイドの選手はプレスに出る準備をしているのでしょう。

うーん。もしかしたら、赤丸の磐田の選手も弓場選手のモーションからして「落ちてきた中川選手へのパスはないかもしれない」と思ったかもしれません。中川選手は前線から落ちてきているので本来赤丸の選手がマークする対象ではないのでしょう。一見なんてことはないシーンに見える。ところが・・・

自分に厳しく寄せてこないことを感じていた中川選手は、ターン一発で「前向き」になり、即座に右サイドへとスルーパスを蹴り込んでしまう。いや、この判断クソ早いって。こんなんリアルタイムで見てたら「なんで!?」ってなるところです。なんでそんなに早く次のプレー決めれるの?意味わからんっていう。

さて、磐田は前プレで継続的にボールホルダーにプレッシャーをかけボールを奪いたかったところでしたが、このように「ボールを持ってる選手に前向きにプレー」されてしまい、ボールを大きく前に「運ぶ」タテパスを蹴られてしまいました。磐田の目論見を大分の繋ぎが凌駕したといっていいでしょう。

スペースにボールが出た直後、磐田のGK三浦選手がゴールマウスを飛び出しています。ここの判断はどうなんだ?という話は詳しいひとに任せるとして、GKにはこのように背後に出たスルーパスをクリアするためにゴールから飛び出す役割があることを覚えておくといいでしょう。先ほど説明したように、前からプレスに行くチームは背後に広大なスペースができることがあります。そこをGKがケアすることができれば後方の憂いを緩和することができるというわけです。

ちなみに、松尾選手がサイドでボールをコントロールしたことでこの時点で攻撃のSTEP1相手コートに入る はクリア。次はいかにしてSTEP2.チャンスを作る をクリアするか?です。

ボールを持っている選手がパスやシュートを確実に蹴れる状況になりそうな場合、ボールから目を離してパスの送り先やゴールの状況を確認するクセをつけると良いでしょう。この場合、松尾選手がクロスかシュートを蹴れることは確定しています。問題はどこへ蹴るか?ボールを行き先を予想することで、未来を読むのです。これこそ、サッカーの大きな楽しみのひとつ。

ファーサイド(ボールのないほうのサイド)を見るに、大分の味方選手も数名走り込んでいます。しかし、磐田のDFが前にいて、クロスをあわせてもクリアされる可能性は高いというシーンですね。大分の弓場-中川によるタテパスでの前進が鋭すぎて、味方も追いつけていないってパターン。この場合、サイドでボールをキープして味方の上りを待つこともよくあります。

ところが、松尾選手はシュートを選択。ボールはポストの内側を叩いて磐田ゴールに転がっていきました。いや、思い切りよすぎん??GKが出ていたとはいえ、あの位置からこういうゴールを見るのはなかなかないことです。いや、ほんとお見事としか言いようのない素晴らしいゴールでした。

ということで、磐田の前プレをはがして右サイドを侵略し、驚きのゴラッソで締めくくった大分の先制点についてしゃべってみました。いかがだったでしょうか?

ぜひ、自分の応援するチームが前プレに出ていたら「あ、これ前プレってやつだな?」と発見してみてください。それだけでもチームがやりたいことが伝わってきて楽しいはずです。そこからさらに、「前プレに出てるってことは、背後にスペースができやすいんだよな?」とか「相手のボール回しに食らいつかなきゃ!はがされないでくれよー!?」みたいな気持ちで見ると、一段とゲームに没頭して楽しめるんじゃないか?と思います。

逆にボールをつなぐチームで前プレに出てこられた場合は、「うまく前向きを作って突破したいなあ」とか「相手のプレスに食われないでくれよ!?」といった気持ちで見るといいでしょう。

このゴールにおける中川選手のように、一瞬だけ前向きプレーできる状態になった選手をなるべく見逃さないようにしましょう。どうして前向きにプレーできたのか?なんてリアルタイムではそうそうわかりっこありません。そんなのはあとで見直せばいいのです。ただ、「あの選手空いた!」ってサインを感じ取れるようにしておくとチャンス感ピンチ感が格段に変わり、ゲームを見るのが楽しくなりますのでオススメです。理由はこれまで説明した通りです。

ぜひ、試してみてくださいね!


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