振り子時計

ジャズのベースの音がソファを伝って心地よく響く喫茶店の片隅で
年輪を重ねたヤニ色の壁にかかった振り子時計
カチカチと音を鳴らす
もはや時を刻まなくなり久しいことを忘れたかのように
来る日も来る日も 一定のリズムで振り子を揺らす

磨りガラスの窓枠の向こう側
冷たい空っ風に揺れる観葉樹がきらめく
切り取られた淡い光が差し込めば コップの中のダンスホールで踊り狂う

壁にかかった振り子時計が カチカチと音を鳴らす
暮れゆく残り陽を探るかのように 
振り子はおぼろげな光と影のすき間を行き来している
もはや時を刻まなくなって久しいことを惜しむように

…あれから何年の時が経っただろう
私は今日も喫茶店の片隅で
あの振り子時計の音が鳴るのを聞いている




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