トラックドライバー怪談6『消えた人影』
何度も書くが、俺には霊感なんて大したものはない。
そんな俺は、無自覚のまま、飛んでもない奴に憑かれていた…らしい。
それが後に、色んな現象を起こしていたようだが、多分あれは、そのとんでもないモノとの遭遇だったのかもしれない。
それは、2年半ぐらい前のことだ。
俺は大阪で荷物を積み、横浜に向かっていた。
その日の荷物がまた嫌な荷物で、午後3時に積込に入ったのに、積み上がったのは午後10時。
休憩も取れずに7時間積みっぱなし。
疲労困憊なのに、横浜着は午前7時。
大阪から横浜までは高速を使っても約8時間。
まともに寝ることもできない、まさにデス走行だった。
プライベートでも悩みがあり、精神的にも疲労していたところに肉体的にも疲労困憊。
しかも寝れないときたら、精神状態が良いはずもない。
俺は怒りを通りこして、まるでうつ状態のような精神状態でトラックを走らせていた。
俺の人生、一体何なんだ…
もういっそ、事故って死んだほうが幸せなのかもしれない…
そんなことをぼんやりと考えながら、ハンドルを握っていた。
トラックの仕事は時間厳守。
迂闊に寝て延着なんて許されない。
眠気を覚ますのに、コンビニのあるサービスエリアでコーヒーを買い、再びトラックを走らせる。
時間は、深夜3時。
俺が運転するトラックは、とある県のトンネル付近を走行していた。
トンネルの入口の手前。
おそらく2~3kmの場所だろう。
左側の路側帯に、工事車両や工事用のカラーコーンがある。
工事自体はやっていなかったが、夜が明けてから工事を再開するための道具が、そこに置いてあった。
俺は、ハンドルを握ったまま、ぼんやりとその光景をフロントガラスごしに眺めていた。
トンネルの入口が近付いてくる。
すると…俺の視界の前方左側。
カラーコーンが整然と並んだその先の路側帯に、オレンジ色の作業服を着た人影が見えたのだ。
オレンジ色の作業服は、高速道路を工事する作業員が身につけるものだ。
工事関係者が残っているのかな?
そう思ったが、どう見ても工事はまだ再開されていない。
じゃあ、工事機材の存在を伝えるための人形かな?
とも思ってみる。
作業員の姿はどんどん近付いてくる
人形じゃない…やはり人間だ…
フロントガラスごしにみたその人影は、確実に人間だった。
いや…正確には、人間のような姿をしていた…のだ。
こんな時間に一人で突っ立ってなにしてんだろ?
そう思って、トラックの左側ミラーを確認する。
しかし…
ミラーの中に映るカラーコーンの向こう側には、既に、人影はなくなっていた。
「え!?」
俺は、驚いてバッグモニターを見る。
バッグモニターの中にも、先程見た作業員の姿はなかった。
おかしいな?
見間違い?
疲れて幻覚でも見た?
俺はそう思って気にしないことにした。だけど、おそらくこの時見たこの人影が、後に恐ろしい現象を引き起こす張本人だったのだと思う。
この話は、またそのうち書こうと思う。
【END】
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