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少年トムの怪奇事件簿3『山の中の墓六つ』


何十年もずっと忘れてた…
何故、突然思い出したのかは謎だ…
ガキの頃の遊び場は、母方の実家周辺にある山だった。
沢が流れ、虫の声と鳥の声と、風に木々が揺れる音しかしない、山深い集落。
それは俺が小学校3〜4年ぐらいの頃、確か季節は春先だったような気がする。
今は亡き祖母は、休日で祖母宅を訪問していた俺に向かって 

「西の山にはあんまり入らないようにしな、あそこにはお墓があるからね」

急にそう言った。
春の彼岸のシーズンだったからかもしれない。
たが、当時の俺は子供で、なんならやんちゃなワルガキだ、そんなこと言われたら…行くしかない!

俺は、友達と3人で連れ立って、西の山に分け入った。

下草も刈られていない雑木林は足場が悪いが、常にそんな場所で遊んでいた俺等には大した問題ではなかった。

緩やかに傾斜した山を降りていくと、次第に沢の音が大きくなっていく。
罰当たりなワルガキどもが、沢に向かって歩いていくと、木々が少しだけ開けた場所があり、草をかき分けてみたら、そこに…本当に墓があった。

集落の墓地からは、だいぶ遠い場所にある墓。

路上でよく見るお地蔵様ぐらいの大きさの石が、横並びに大小六つ、ほんとにそこにあったのだ。

苔生(こけむ)して古く、そして小さな墓。

一体誰がそこに葬られているのかもわからない。
何か文字が書かれているが、風化していてまったく読めない。
だけど、なんとなくそこにいてはいけない雰囲気がしてきて、流石のワルガキども早々に退散した。

その日の夜、俺は変な夢を見た。

夢の中で俺は、西の山の中にいた。
ふと、振り返ると…そこにあの六つの墓がある。
いや、正確に言うと、それは墓ではなかった。
六つのお地蔵様だった。
あれ?これ?お地蔵様だっけ?

そう思った瞬間。 

6体のお地蔵様がガタガタと揺れ始め…
突然、俺に向かって歩いて来たのだ。
俺は、石のお地蔵様が歩くとかいうポルターガイストに恐怖し、驚き、慌ててその場を逃げ出した。
だが、どんなに走ろうと、その6体のお地蔵様は凄まじい速さで追いかけてくる。  

逃げる俺、追いかけてくるお地蔵様。

わー!!助けて!!
なんで追いかけて来るんだよ!!

夢の中で俺はそう叫んだ。

その瞬間、ハッと目を覚ます。

そこには、見慣れた祖母宅の天井があった。
古く小さな台所からは、祖母が朝飯の支度をしている音がする。
時計を見ると、朝6時だった。

「あら?今日は起きるの早いんだね?」

祖母にそう言われながら、俺は、寝ぼけたまま黙って学校にいく支度をした。
変な夢を見たことは祖母には言えない。
何故なら、行くなと言われた場所に遊びに行ったことがバレてしまうからだ。
学校に着くと、昨日、西の山に行った友達が神妙な顔で近寄ってきて、開口一番、こう言った。

「昨夜、お地蔵様に追いかけられる夢を見たんだけど…
昨日行った山の中で…」

まさか、友達まで同じ夢を見たなんて思ってなかった。

「俺も同じ夢みたよ!!」

まさかと思って、登校してきたもう一人に聞くと、その友達も6体のお地蔵様に追いかけられる夢を見ていたそうだ。
ワルガキ三人組は、その場で震え上り、もう2度と西の山には入らないことにした。

だが、そこから毎年春の彼岸の頃になると、あの山の中で、6体のお地蔵様に追いかけられる夢を見ることになる。

最初は恐怖におののいていたのだが、そのうち慣れてきて、春休みになると必ず一度は見る夢…と認識するようになった。

それは、最初にその夢を見て、それこそ調度6年目の春休み。

俺が中学3年になる頃。

その年はまだ、地蔵に追いかけてられる夢は見ていなかった。

午前中に部活が終わり、祖母の家に帰ると、見知らぬ高級車が祖母宅の前に停まっていた。 

誰だろ?

そう思って玄関を入ると、そこに、これまた見知らぬ恰幅の良い中年男性(以下オッサンと呼ぶ)が座っていた。
きょとんしつつ、その男性に挨拶をすると、祖母が

「ちょっとトムちゃん、この人を西の山に連れて行ってあげな
墓参りがしたいんだって」

と言った。

祖母自身が「行くな」と言った場所に、あえて「行け」と言われたので、一瞬戸惑い、なんとなく怖いなとは思ったが、仕方なくそのオッサンを西の山に案内することにした。

オッサンは気さくでニコニコしていた。
手には線香と花を持っている。

「学校帰りに悪いね、中学生?」

とかなんとか俺に聞いてくるオッサンに「あー…はい」とか、思春期らしく無愛想に答えていた気がする。

西の山へは歩きで行った。

雑木林をかき分け、足場の悪い斜面を下っていくと沢の音がしてくる。


懐かしい音だ。
人なんか滅多に入らない場所。
小学生の頃に足を踏み入れた時から、まるで時が止まったかのように、まったく風景は変わっていなかった。
鳥の声と沢の音が響く中、少しだけ木々が開けた場所に、あの苔むした6つの墓石はあった。
その風景も6年前となんら変わりはしなかった。

オッサンが、「あっ…!これか!」と声をあげて墓石に駆け寄った。

何やらルーペらしきものをポケットから取り出し、注意深く墓石を確認していく。
すると、うっすら読み取れる文字を発見したらしく、オッサンは俺に振り返り

「ありがとう…
やっぱりこの墓だ…」

と確信したように言った。
オッサンの次の言葉で、祖母が何故、入るな、と行ったこの西の山に俺を行かせたか謎が解ける。

「この墓…
おじさんのご先祖様の墓で間違いない…
ずっと探してたんだよ…
この集落が…
おじさんのルーツだったんだよ…
ありがとう…」

オッサンは感慨深そうに墓を眺めやると、線香に火をつけて、花と共にその6つの墓石に供えていた。

何故、このオッサンが、自身のルーツを探していたのか、それは俺が知るところではないし、興味もなかった。
ただ、その年を境に、俺は6体の地蔵に追いかけられる夢をまったく見なくなった。
これが、ガキの頃に経験した、なんとも不思議な数字に纏わる話。
以上、久々に話す、少年トムの怪奇事件簿。

おわり

※不思議の館にて紹介していただきました

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