生成AIパブコメは世紀末だけどあれで良かったのではないかという話
事前告知事項
不毛な争いを避けるために、私自身と生成 AI に関する状況をあらかじめ告知しておきます。
私の職業はソフトウェアエンジニアであり、イラストレーターではありません。
業務、趣味の分野でイラスト生成 AI 以外の生成 AI を利用しています。
GitHub Copilot (プログラミング補助)
DeepL (翻訳)
OpenAI ChatGPT (AI アシスタント)
イラスト生成など、クリエイティブ分野における生成 AI の利用にはどちらかといえば否定的見解を持っています。
これはあくまで文化的理由からであり、法的・技術的観点だけであれば現行法上は特に問題ない認識です。
一般投書内容が公開された
先日、文化庁により行われていた「AI と著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集 (以下: 生成 AI パブコメ) の結果の一部が公表され、個人から寄せられたコメントの内容が公開されました。
生成 AI 、特にイラストライクな画像を生成するものの是非についてはかねてから議論の的になっています。生成 AI を取り巻く議論が実際にどのような状況なのかについては、先日書いたこちらの記事をご一読ください。
両陣営どちらもムチャクチャ
文化庁が生成 AI パブコメの受付を開始した時点で画像生成 AI に対する議論はだいぶ加熱しており、主に規制派側から積極的に生成 AI パブコメに投書しようというムーブメントが発生していました。
本来、パブリックコメントは定められた様式に従い問われた内容について意見・見解を述べるためのものです。
しかし前述のようなムーブメントが発生した結果、双方 (推進派含む) の感情のはけ口になってしまいました。受付が始まった時点よりそのようになる懸念は示されていましたが、案の定です。
もちろん中には適切な投書も存在していますが、大半の内容は書式にすら従っておらず、ただひたすらに自分の感情を書き連ねた見るに絶えない内容になっています。
投書ムーブメントの発起人が規制派側であったこともありそのような投書は規制派側で目立つのは事実ですが、推進派からもパブコメの体をなしていない投書が多数行われていることがわかります。
百聞は一見に如かずとも言うので、規制派・推進派問わず一度は自分の目で確認することをおすすめします。
担当者はかわいそうだが、結果として良かったのでは?
見ていただければわかる通り、一般投書の内容はもはや便所の落書きレベルであり、見るに絶えないと言えます。
しかし、個人的にはむしろ次に繋がる良い結果になったのではないかとも思いました。
前日の記事でも書いた通り、私はクリエイティブ分野における生成 AI 問題を法だけではなく文化レベルの問題だと認識しています。本来論理的かつ法を大前提とした議論が行われるはずのパブリックコメントでこのような誹謗中傷合戦のような状況になったことは、それを目にした人が生成 AI 問題の文化的根深さに気づくきっかけになる可能性が高いのではないかと思うのです。
実際、文化庁はパブリックコメントの終了後、生成 AI を利用して著作権を侵害された例の収集を初めました。これは問題の根深さを認識したから以外の何物でもないでしょう。 (逆に言えば、これを "生成 AI 推進派の政府がタテマエとして初めただけだ" と考える人とはもはやまともに話ができないだろうと思います)
不適切なパブコメをした人達に思うこと
上述のように、今回のパブリックコメントの一件はあくまで個人的にですが得るものはあったと考えています。
しかし、書式を無視して感情だけの文章を投書した方々には猛省してもらいたいとも思います。
そもそもパブリックコメントは投書数を競うものではありません。仮に政府が生成 AI 促進を最優先に考えているのなら、このような行為はパブリックコメントを悪用するような人々の利益を保護しない根拠にされてしまうでしょう。この件を例に活動が実を結んだと考えている方も散見されますが、はっきり言って規制派にとってとんでもないお荷物です。
また、パブリックコメントの内容があまりにも酷すぎたからか、X (旧: Twitter) 上では規制派を装った推進派のなりすましコメントだ、という意見もチラホラ見受けられました。政府が生成 AI 推進派でクリエイターの権利を侵害しようとしている、という見解もだいぶグレーですが、なりすまし認定まで行くともう完全にただの陰謀論者です。
また推進派においても数としては少ないものの、規制派に対するカウンターのような一言だけのコメントもありました。そういう行動のせいで議論がまともに進まず生成 AI の活用が遅れる要因になっている認識を持つべきでしょう。
おわりに
生成 AI 関連でまともに議論できる人が居なすぎて絶望を感じています。私は既にイラスト生成以外の用途で生成 AI を利用していますが、このような状況下では生成 AI を利用していることを口に出すことすら憚られます。
推進派は文化を理解し、規制派は法律を理解し、水掛け論ではない建設的な議論が行われることを説に望んでいます。
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