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映画感想2023

78
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#LGBTQプラス

映画感想『Winter boy』

原題「仏 LE LYCEEN / 英 WINTER BOY」 クリストフ・オノレ監督の実体験を元に作られた作品らしいが思春期の恋愛や父の死による喪失と再生が不安定な年代の心情に寄り添うように描かれていた。 劇中では一度だけリュカの口から触れられたがこの作品のカギは主人公のリュカだけが父親の死の真相に疑問を持つ体験をしていると言う事。 そのシーンをプロローグに持って来たのが素晴らしいしその体験の有無にこそ彼と家族との【父(夫)の死】への感情や向き合い方の違いが見て取れる。

映画感想『シチリア・サマー』

原題「伊 STRANIZZA D'AMURI / 英 FIREWORKS」 ジュゼッペ・フィオレッロ監督の初長編作なだけに荒削りな部分はあるが監督が”理解を見せないあまりに不寛容なこの世界”にぶつけたいメッセージは強く伝わった。 80年代のシチリア、2人の青年が出会い、惹かれ合い、幸福な時を過ごせば過ごす程…それが親密になればなる程彼等の運命は過酷な方向へ向かう。 身近に潜むフォビアの存在は命の危機をも招くのだ。 しかし物語は世間には予測しない援護や救済もある事を描く。

映画感想『Summer of 85』

原題「仏ETE 85 / 英SUMMER OF 85」 新聞で目にした或る記事から着想を得て執筆されたエイダン・チェンバーズの小説『Dance on My Grave(おれの墓で踊れ)』が原作。 まさかあのシーンが映像で観られるとは! そして私の中ではかなり名シーンの中に入るものだった。 ロッド・スチュアートの『セイリング』があれ程熱を帯びるなんて想像出来るか? 中盤のディスコ(今ならクラブだね)で流れるのと同じ曲なのに全く違う風に聴こえるのは主人公アレックスの心情の異

映画感想『インスペクション ここで生きる』

原題「THE INSPECTION」 ※今作が長編デビューとなるエレガンス・ブラットン監督の実体験を基に描いた自伝ドラマ。 『怪物』の感想で「子にとって親は唯一の味方と言えるが裏を返せば最優先の要警戒人物なのだ」と記したのだがまさしく今作『THE INSPECTION』はゲイである事で母子関係が破綻した青年フレンチの物語だ。 2005年イラク戦争が長期化する中、フレンチはホームレス生活に見切りを付け生きる為に海兵隊志願と言う道を選ぶ。 厳しい訓練と過酷な差別の中

映画感想『青いカフタンの仕立て屋』

原題「仏LE BLEU DU CAFTAN / 英THE BLUE CAFTAN」 叙情的で美しい作品だった。 主人公3人が織りなす感情の交錯を飾り立てず純朴さを携えながら描く手法がとても好み。 モロッコと言う国の背景と夫婦間の暗黙の秘密を軸に古びた戒律、不寛容の上に成り立つ不条理な常識、想いの表現に映る世代の差、セクシャリティへの言及などを過多な台詞に頼らず描いていく研磨ぶりが良い。 制約された日常に映し出される人間の感情のぶつかり合いが丁寧に仕立てられるカフタンの

映画感想『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

原題「WOMEN TALKING」 ワンカット目の威力が凄かった! このシーンでベッドに横たわる彼女に何があったのか? この異様な空気が意味するもの、この世界がどんな場所なのか… 観客の想像力を一気に搔き立てるファーストカットだ。 そして喋る成人男性が1人しか出て来ない潔さ! その1人もベン・ウィショー起用でなんか個人的にとっても納得しちゃった(笑) しかし描かれるこの世界が2010年の実話とは! この時代に未だこんな不条理な世界が存在するなんて誰が思うだろうか?

映画感想『怪物』

英題「MONSTER」 是枝監督の新作『怪物』がカンヌ映画祭のクィア・パルムを受賞した時点でめちゃくちゃ楽しみだったけどこれは間違い無く【傑作】だと思う。 カンヌ脚本賞も納得の坂元裕二の描写構成! 或る時点から何故か涙が溢れて1人で鼻グスグスしてた(笑) * 大人と子供の住む世界の次元が違い過ぎた。 どんなにニュートラルで在るつもりでも大人には“経験”と言う価値観が備わる。 そこから来る先入観や偏見は少なからず言

映画感想『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

原題「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE」 ◆あらすじ◆ アメリカで頼りない夫とコインランドリーを営む中国移民のエヴリン。仕事ではただでさえ経営が厳しいのに、国税局から納税申告の不備を指摘され、家では頑固な父親の介護に追われる中、反抗的な一人娘ジョイが女性の恋人というやっかいな問題を持ち込もうとしていて、すっかり疲れ果てていた。そんな中、突然夫に“別の宇宙の夫”が乗り移り、強大な悪の存在によって危機に直面した全宇宙を救ってほしいと語り、いきな

映画感想『エゴイスト』

◆あらすじ◆ 14歳で母を亡くし、田舎町でゲイであることを隠して思春期を過ごしてきた浩輔。大人になり、東京で自由気ままな日々を送る彼は、女手一つで育ててくれた母を支えながらパーソナルトレーナーとして働く青年・龍太と出会う。やがて2人は惹かれ合うようになり、時には龍太の母も交えながら、親密な時間を過ごしていくのだったが…。 原作未読。 映像の造りがドキュメンタリータッチで観てるうちになんだか錯覚に陥りそうになった。 それ程役者達が入り込んで演じたとも言えるだろう。 接写多

映画感想『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』

原題「I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」 事実、彼女の晩年は「これがあのホイットニーの人生?」と苦しさしか無かった。 有名な国家斉唱は米国人じゃないけど涙が出る程素晴らしかったのを覚えてる。 その歌声の衰えも正直「もう歌わないで」と思ってしまう程で、圧巻の歌唱力で共演のM.キャリーを凌駕したあの圧倒的な歌声はもう聴けないのかと残念な思いでいっぱいだった。 映画のラストはやはり彼女の悲惨な最期を避けていたが彼女の才能に愛を注いだ者とその才能の"産物