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映画感想『シチリア・サマー』

原題「伊 STRANIZZA D'AMURI / 英 FIREWORKS」

◆あらすじ◆
1982年のイタリア・シチリア島を舞台に、実際に起きた悲劇の事件を基に描いた実話ドラマ。偏見と差別が根強かった時代背景の中で、悲しい結末を迎えた2人の少年の出会いと瑞々しい初恋の行方を、シチリアの美しい風景とともに描き出していく。


ジュゼッペ・フィオレッロ監督の初長編作なだけに荒削りな部分はあるが監督が”理解を見せないあまりに不寛容なこの世界”にぶつけたいメッセージは強く伝わった。

80年代のシチリア、2人の青年が出会い、惹かれ合い、幸福な時を過ごせば過ごす程…それが親密になればなる程彼等の運命は過酷な方向へ向かう。
身近に潜むフォビアの存在は命の危機をも招くのだ。

しかし物語は世間には予測しない援護や救済もある事を描く。

彼等が波乱を経てお互いの不可欠を自覚し、想いを交わし合うシーンはとても美しかった。
若さ故の未熟な行動もあるが幸福に満たされた時間を過ごせたのがせめてもの救いだろう。

ニーノを演じたガブリエーレ・ピッツーロもジャンニを演じたサムエーレ・セグレートも『出会った瞬間から何処か惹かれる要素があった』設定に全く疑問を持たずに鑑賞出来たのが最高だった。
ちょっと森崎ウィン君似のサムエーレ君は長編3作目という事もあってちょっと余裕なお兄さんな感じが素で出てた気がするしガブリエーレ君はとにかくクルクルの巻き毛が最高に可愛いし登場してジャンニと過ごす辺りと終盤或る決意をした後での顔つきの違いがなんとも素晴らしくてちょっと目を見張るものがあった。


しかし、これが実話かと思うと80年代とは言えあまりのフォビア描写に憤りしか湧かなかった。
同性愛は病気でも矯正できるものでも無いという事は今の時代なら周知されて来ているがまだまだ親側には自分の子供が同性愛者かもしれないと言う意識の自覚は全くと言っていいほど無いだろう。

たとえ宗教や慣習が背景にあったとしても両親や兄弟の理解が得られない程悲しい事は無いと改めてこの作品を観て感じた。
ニーノの家族もジャンニの母親も息子たちへの仕打ちが酷過ぎた。
とても楽しく幸せそうだったニーノの家族が彼とジャンニの噂を聞いて一変する様子が恐ろしい。

このニーノの母親の顔つきがホラー・・・


そして最悪の結末を迎えるラストの伏線が冒頭に在ったとは・・・本当に「まさか!」なのだ。

ただ前述した様に思わぬ理解者や人としての善悪で行動する人達は少なからず存在するという事。
あのジャンニが住む町の住民達や義父の描写はこの映画の最終的な良心でもあったのが救いだ。
あれが無ければ彼らは本当に苦しさだけを抱えてしまう事になっただろう。

シチリアの美しい風景と彼らの純粋さが美しければ美しいほど彼らが置かれた立場が切なく苦しい。


いつもこの手の感想では書くのだが家族だけは理解者で居て欲しい。
『怪物』の時にも書いた一文をもう一度記しておく。

子にとって親は唯一の味方と言えるが裏を返せば最優先の要警戒人物なのだ。


原題の『STRANIZZA D'AMURI』はシチリア語で「愛の奇妙」「愛の不思議」と言う意味だそうだが個人的には英題の『FIREWORKS』の方がその夏花火が打ち上がる様に徐々に二人の軌跡を描き開花し儚く散る様子になぞらえていて好きだ。



彼らの恋愛は【奇跡】でも【不思議】でもなくただただ純粋に育まれたものだから。


こういう痛ましい事件が二度と起こらないことを祈るばかりだ。



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