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夜は一家で焼き鳥パ

亀が流れる川を渡るとビルになった大学がある
意外にも住む町には大学が四つもある もしか
したら数え忘れもあるかもしれない しかしその
ビルは近年移転してきた大学かと思う 何となく
気まぐれに入ってみたくなって丁度昼休憩を
終えたと思しき女性の守衛が丁度入り口に出て
きたので一般人も入れますか と尋ねるとどこか
へご用がと返されていや学食でも見て見たくて
と答えると用向きがなければ入れないと断られた
明治大学はトイレを借りられたけど などと思い
つつ軽い思い付きだったのであっさりと引き下が

娘が急遽休講になったので時間に限りがあっ
たけれど時間的に何とかなりそうだと踏んで
国道から丘を登って町の南の方へ走った そこ
は私鉄の自宅最寄りからやはり二つ離れた駅
の近くの商店街で 前から行きたいと思ってい
た店がある ひとつは古くから営業している焼き
鳥屋で もう一つはここニ三年開店の古本屋
だった いずれも息子が仕事帰りに持ってくる
その私鉄の町情報誌で知った店だ 

古い商店街なので車を停めるところがあるかと
思ったが小さなスーパーの屋上に停められた
午前は薄雲って風も涼し気味に吹いていたの
が南中過ぎて油照りの無風 黙々と歩くと妻が
ねえ 焼き鳥先に頼んでおいた方が時間をまた
なくていいんじゃないの というのをいつも時間
ばかり気にする とやや苛立たし気に思いつつ
無言で角を曲がると店が見えた 手前にもう一
つ焼き物の店があって 昔はそこをよく利用した
が今はなくなってしまった 当時からこの店は
あったはずだが一つ角の向こうだったから今回
はじめて買いに来た 私鉄の沿線誌にはちょっ
と飲むスペースもあると載っていた そこで私
より少し若そうで しかしもう若くない男が一人
で酒をのんでいた 炎天下 じりじり陽を受けな
がら ほとんどの串が80円くらいで都合15本
ばかり取り混ぜて買った つくねは50円で上
つくねが60円 妻がつくねと注文するのを上
つくねに訂正し もう一軒 お目当ての古本屋
を一人で探しにその場を離れた

ふた区画先くらいに雑誌で見たのと同じ店構えが
見えた 南東向きか 外棚の本は直射日光に
焼かれている さっと見て好みの古本屋と知れた 
新旧取り混ぜて渋い本が並ぶ 京都の白地社
という小さい版元の 小さくて薄い詩集が消え
入りそうに本棚に挟まっていた 内容はともかく
その体裁に惹かれて手に取る 田中宏輔さん
の昔の詩集が置いてある 読みたかった 店内
は照明を落としてモダンジャズがかかっていた
暗い室内から明るい外を見るのが好きだ 外光
を引き込んで店の奥に連れて影になる 本棚の
使い方は贅沢で 壁一面に本が詰め込まれて
いるのではなく 所々島のように配置され 島に
よって建築 デザイン 美術 詩 サブカル 文学
絵本 などと区分けされていた 今は見なくなった
懐かしい本がいくつもあったが すでに持っている
物ばかりで 前衛映像の松本俊夫の未読の本
を手にしてみたら3000円と高価だった 

結局三冊500円程度で買って子らの待つ駐車
場まで歩いたら少しのぼせたようになった 妻は
下階のスーパーでやきそばパンを買っていた
食べたくなったから という 菓子パン調理パン
がなぜかいつも家にある 夜は一家で焼き鳥
パーティー かなりの串がほんの間にすっかり
食べつくされていた 息子はカシラ焼きが気に
入ったようだった

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