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香港

香港

私が香港に行ったのは中国への返還前のことだった。まだ九龍城もあった。やたらビルから横に看板が木の枝のように延びていたのを覚えている。その当時、香港では道行く人がみんな手に大きなトランシーバーの様な携帯電話を持って歩いているのが目に付いた。まだ、日本では誰もが携帯を持っている時代ではなかった。それから、煙草を町中で吸っている人が全くいなかった。屋外での喫煙が今の日本のように厳しかったのだろうか。当時私は煙草を吸っていたが、ここで吸っていいのだろうかという場所でおっかなびっくり火をつけてみたが、誰にもとがめだてられることはなかった。日本人だから仕方ないと思われたのだろうか。

フェリーに乗って二つの島を行き来した。香港の風は湿った港の風で潮が肌にまとわりつくようだった。蒸し暑く活気があり、人の歩く速度が速かった。ミキサーに入った色とりどり、緑やオレンジのジュースを売るスタンドがあちこちにあった。そのジュースを飲んだらどうなるかガイドに聞いてみると確実に腹を壊す、と止められた。食事に入った店で当てずっぽうに料理を頼むと、支払いの時にウェイターが何度も裏に引っ込んで手書きで代金を書いてきた。黙ってその紙を見ているとウェイターはその紙を回収し、また違う金額を書きこんでくるのだった。とんでもない金額を提示されているわけでもないが何度かのやりとりの上、日本での食事より幾分安い支払いを済ませた。きちんと扉のあるレストランでのことだった。

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