ドイツ流ハイキング
ドイツ流ハイキング
リュックサックの中で食べ物が悪くなっていくのが分かった。 保冷剤が利かなくなっていた。 おそらくみんな同様だろう。 引率の大人は成人女性で、すでにシャツも脱ぎ払っていた。子供たちも同様に、出来る限りの薄着をして、それでも汗が止まらなかった。森が深く、山が高くなるにつれて、これほど気温が上がってくるとは思わなかった。 針葉樹の深い森に見えたのは実はジャングルで、誰からも聞いてなかったのかと引率者の常識を疑ったが、いまはキャミソールを脱ごうとしていて、ブラジャーが一体化しているために半分しか脱げずにあえいで、首筋に汗の筋を何本も見せながら、くーい、とか、うえっ、とか意味の分からない大声を発して気力を絞り。 それはドイツかどこかの教育メソッドで、緑地帯で奇声を発すれば子供が理知を分別するという立場に拠っている。 いずれ、もう限界は近く、正午を待たずして昼食となるはずだ。 各々の親が丹精込めたランチボックスは今流動的な分解質の半固形となって、密かにみんなが水筒に詰めていたオレンジやブドウのジュースは二次発酵を経て強度の酒精と化している。 奇声を発する半裸の引率者と子供たちの泥酔による、ジャングルの中の乱脈絵図。楽しみにしていたハイキングだったのに、ドイツの何とか言う奴のせいでこんなことに。920
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