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巨鯉の池

巨鯉の池

おそらく、元々は稲作の水をためておくための人工的な池ではないかと思うが、自転車にてしばし行くところ、小学生からして最長行動範囲の端にその池があり、葦かどうか、背の高い緑の鋭い葉が切り立つ合間に、ところどころ岸辺の、それは多分、誰かが釣り場と踏み固めたところではあるのだが、そこから短い竿を出すのだった。

その池には雷魚が住み着いていると言う、全長優に一メートルを越えると、付近の同級生の曰く、しかしそれを狙うではなく、口細や手長蝦などを釣り上げ、自宅にて飼う目的で、実際、十数匹の雑魚を得て来た道を全速で自転車をこいでいった昔を思い出したのが、すでに社会人を何年か過ぎたときのこと。

独身の暇に飽かせて、再び訪れてみたところ、当時より整備され、釣りの台座なども設えられ、ヘラブナねらいと思われる釣り人の合間に、パン屑を投げてみれば、その体長優に八十センチを越えるであろう巨鯉の一群が群がりよってくる。小振りで六十、平均で八十、でっぷりと太った野太い鯉が群れて一カ所に集まるはまさに圧巻、釣り上げるにかなりのファイトと手応如何な様かと、車載されていた釣り竿の針にパンを付け、投げ込んでみるとまさに鯉入れ喰い。

八十センチの野鯉暴れるはすさまじき力で、周りの釣り人何しおると迷惑顔を顧みず身の前の鯉たぐり寄せ、持ち上げを試みるもあまりの重量に持ち上がらず、どころか竿が折れ、糸と手につながれた巨鯉持て余し慌てふためく。幽霊柳が池を隠し、近くに街道が通うもその池の在処を隠して、通りゆく車々からその苦闘ぶり見える由もなく、土曜の昼下がり何をしおるか、手に巨鯉の糸食い込ませて。

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