マガジンのカバー画像

短文

378
創作 随想 回想 コラム その他 短文を集めています
運営しているクリエイター

#夢

サキュバスの家

サキュバスの家 夢で抱きしめた人の感覚が妙に生々しく残っていて、目覚めてからもその心地が抜けない。叢の中だったか、そういえば、裁縫工場に勤めていると言っていたが、その会話がどのように引き出されたかその人は夢の中で相応に年を取っていて、知っている面影はほとんど残っていなかった。目と頬が垂れ、恨めしげな顔をして私を見ていた。自転車で草の中の轍を走っていて出くわした。最後に車から見たときの白い服を着ていて、あれから三十年近く経つというのに物持ちのいい人だと思った。私は自転車を走り

海浜工業地帯輪行

海浜工業地帯輪行 誰かに会う予定で自転車を走らせていたが、誰かが誰も思い当たらず、急に寂しさと焦燥感に襲われた。コンクリートの壁沿いを走っているのだが、ちょうど頭の高さに砂浜と海があり、夜というのに確かにうっすらと明るさのある群青の水面では子供たちが顔を出したり潜ったりしている。沖から泳いでくる人の姿も。 海の中に何か、大きな塔のような物が立っていて、斜めに、エスカレーターが海面まで延びている。泳ぎ疲れた人はそのエスカレーターに乗って塔の中へと上っていくのだが、その形はい

花見川電鉄

相変わらず夢か。夢だ。 花見川電鉄という鉄道会社に就職している。 電鉄なのに職場は工場で、金属製の薄いグリーンの箱型の何か装置ががらんとしたコンクリの床にどういう規則か知らないが設えられ、そこで何をすることもなく、ぶらぶらしている。 同じようにぶらぶらしている男や女が何人もいるが、皆若く、こんな年輩者でも雇ってもらえて、とやや幸運に感じると同時に、全く勤めなどするつもりはなかったのに何故、という僅かな憤りも同時に感じている。 と床が揺れ出して、すでに、制服制帽もなく普

花見川

花見川 夢では高頻度で高校生に引き戻される。夢の授業は殆ど受けていないし、体育館での夢の集会に合流する気もない。タイミングが合わないのだ、と落胆しながら人のいない教室を通り過ぎる。 夢の教室は町工場にグラデーションしていき、廊下の向かい側は線路になっている。傘を探しに戻ろうとしたところは町工場の事務所で、傘詰め放題のような傘立てから抜き取った蝙蝠は本降りに負けて役に立たない。靴は泥にまみれ、歩くうち靴自体水没させながら暗くなりかけた県道の交差点で信号を待っている。 ここ