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サキュバスの家

サキュバスの家


夢で抱きしめた人の感覚が妙に生々しく残っていて、目覚めてからもその心地が抜けない。叢の中だったか、そういえば、裁縫工場に勤めていると言っていたが、その会話がどのように引き出されたかその人は夢の中で相応に年を取っていて、知っている面影はほとんど残っていなかった。目と頬が垂れ、恨めしげな顔をして私を見ていた。自転車で草の中の轍を走っていて出くわした。最後に車から見たときの白い服を着ていて、あれから三十年近く経つというのに物持ちのいい人だと思った。私は自転車を走りざまに投げ出して、何もいわずにその人を抱きしめた。二人は横倒しになり、これ以上はいけない、いけないここまでしか、と強く夢の中で思っていたのだが、どこまで強く抱き寄せたのか、抱き交わしていたその途中で目を覚ましてしまったので、このまま夢の中にいたらその先どうなっていただろうか婚外経験のない私にはわからない。以前にも、そのような夢を見たことがあって、小さな平屋の、古い塗り壁の家にその人たちは住んでいた。門のところが竹で作られた扉になって。きっとあの家から出てきて、時折、夢の中で私に邪な行動を促すためにいる人たちだ。

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