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『病院ラジオ』は私みたいなへっぽこ医療職に必要な“感動ポルノ”だと思うんです

 何年か前、24時間テレビを“感動ポルノ”だと揶揄して話題になったNHKの番組があった。

 一般に“ポルノ”という言葉の印象は悪い。詳細な意味を知りたいという方はWikipedia先生が詳しく解説してくださっているので以下をどうぞ。

 ちなみに私は24時間テレビ肯定派だった。毎日毎日ああいう御涙頂戴的な番組が垂れ流されたら辟易としてしまうけど、1年に1回くらいならいいんじゃない、好きなジャニタレも思う存分楽しめるし、くらいの浅〜い動機。

 で、そんな中で2018年8月に登場したのがNHKの『病院ラジオ』。サンドウィッチマンが病院内にラジオを開設し、入院患者やその家族をゲストに招いて普段は口にできない思いを聞くというドキュメンタリー番組だ。

 2018年8月の大阪にある国立病院、2019年4月の子ども病院、そして昨夜、3回目となる築地のがんセンターを舞台にした同番組が放映された。

 がんの手術を終え、家族に感謝しているという男性、病気でも恋愛したいという入院中の女性、がんと闘う小学生の娘を見守る母親…。それぞれの患者や家族が、がんと向き合うなかで感じた気持ちを、リクエスト曲とともに伝えていく。

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 病院ラジオの特筆すべき点は、何と言っても「ナレーションがないこと」だ。患者の病状は全て本人やその家族の口から語れており、それをサンドウィッチマンのふたりが軽妙なトークで掘り下げる。

 ラジオ自体は病院に入院している患者、来院している家族なども聴ける仕組みになっており、それぞれのゲストが話している間に家族や医師・看護師といった医療従事者が聴取している様子もその都度で映し出される。

 ゲストが冗談を交えて笑いながら自身の病状を話している一方で、それを聴いた家族がそっと涙を拭う様子や、担当している医師が感嘆のため息をつく姿が克明に描かれる。私は毎回、それぞれのリアルな姿に涙が止まらない。

 不用意なナレーションに違和感を覚える必要もなく、それら全ては患者や家族自身の口からひとつのドラマとして語られる。良いところを中心に切り取っているであろうことは容易に想像できてしまう。でもそこにある“リアル”は、普段私たちがメディアで目にする造られた“ドラマ”とは違う、本当の物語なのだと思う。

 病院ラジオは、病気を抱えながらも、「普通に幸せそう」に暮らしている人々のリアルな姿を垣間見れる、とても貴重な番組だ。

 この仕事をしていると、患者や利用者の様々なドラマに出くわしてしまう。私たちがクライアントに関わる時間は、彼ら彼女らにしてみれば人生のほんの一瞬の時間、その前と後ろにはひとりの人間が抱える長い長いストーリーが存在する。

 そういった端々にふと目を留めてしまったとき、私のような弱い人間は図らずも泣きたくなったり笑いたくなったり叫びだしたくなってしまう。

 でも、そんなことしてはいけない。プロである以上、与えられた仕事の中で求められた結果を出さなくてはならないし、その一線を超えてしまうと途端に距離感の取り方を見失う。特に私のようなへっぽこは、いつもそのギリギリのところで我に返り、自分の中に湧き上がる色濃いものを押しつぶす。感情労働とはよくいったものだな、と感心する。

 だから、病院ラジオを見ると素直に「有難いな」と思う。

 普段たくさんのドラマを目にしていながらも、大きな声を出して泣けなかった私にとって、あの番組で流す涙は他の誰でもない自分のためだけの涙なのだ。誰の顔色を伺う必要もない、安心して泣かせてもらえるあの50分間を、とても尊いものだと感じている。

 たぶん、向いてないのだ。そんな風に感情移入して自己嫌悪に陥るくらいだから、いっそ何も考えないで手だけ動かしいられるような仕事を選んだ方が心安らかに過ごせるのではないかと思う。

 でも、残念ながらこの仕事が面白い。たくさんの向いていない要素の中に、ほんの少し存在する面白みが、不幸にも私を幸福にする。

 だからどうか、あの番組を見ている時間だけは思う存分、泣かせて欲しいと思ってしまう。きちんと距離をとって働くから、どうかあの良質なドキュメント番組を素直に面白がって賞賛させて欲しいと願ってしまう。

 そんな意義だけで造られた番組でないことは百も承知なんだけど、私のようなへっぽこ医療職が健やかに働いていくために必要なポルノもあると思う。本当にありがとうございます、どうかぶっ壊されずに第4回もお願いします、と制作者への感謝の気持ちを忘れたくなかったので、色々とやることはあるんだけど思わずnoteを書いてしまった今日この頃なのだった。


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ちなみに今朝、早起きして号泣しながらあの番組を見ていたところ、起き抜けの娘に驚愕され、なんとか母を元気付けようと渾身の「いないいないばぁ〜」を披露させてしまったのにはちょっとだけ反省しようと思います笑。


読んでいただきありがとうございます。まだまだ修行中ですが、感想など教えていただけると嬉しいです。