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はじめての声優学入門*3時限目「言語神拳の使い手/言語情報3兄弟の登場!」

はい、やってきました3時限目の授業のお時間です。おっと、その前に連載のタイトルに副題「~音声学で覗けば見える「声技」の正体~」が増えてるのに気づいた方いらっしゃいますか?音声学はとても芸能音声と相性が良く、音声学があれば声優の技を理解するパワーが増します!まるで00ガンダムがオーライザーとドッキングしたかの如く性能が上がるのです!(わかる人しかわからない)これから書くほとんどは音声学に基づいているので「音声学」と言う存在だけでもまず声優を目指す方に知ってもらいたなーと、願わくば興味持ってこの連載から学んでもらえると技術向上に繋がりますよ!!

さて今回は前回の講義のラストに名前だけ登場しました「言語情報、パラ言語情報、非言語情報」について詳しく解説していきたいと思います。「声優学」と言う名に恥じない学術的な内容に入っていきます!なんか難しそー、勉強嫌だーと思わないでください。最初は難しく感じるかも知れませんが、わかりやすく説明しますのでご安心を!きっと終わる頃にはまた声優技術の探求が楽しくなっているはず!(そうなるよう頑張ります)まずは簡単に前回の講義のポイントをおさらいします。


■前回の講義のポイント
・声優の「演技」とは声で「本当のようにふるまう」事である
・声は音であり、その音にはどうやら「言語情報/パラ言語情報/非言語情報」の3つの情報が含まれているらしい

でした。


「言語情報」「パラ言語情報」「非言語情報」と言う言葉、全てに「言語情報」と言う言葉が入ってますね、まるで兄弟のような、北斗神拳伝承者候補(北斗の拳より)長兄ラオウ、次兄トキ、三男ジャギ、あ、北斗神拳はケンシロウが末弟で4人だからちょっと違うな、うん、しかしまさに言語神拳とでも呼べるレベルなのですよ音声学は!あたたたたたたた!(早く講義しろ)まあ、だんご3兄弟ならぬ(古い)言語情報3兄弟とでも呼びましょうか。この言語情報3兄弟とは一体!?

●音声は何を伝えているのか?
人間は音声を使ってコミュニケーションをしているわけですが、一体何がその音声から伝わってコミュニケーションが成り立っているのでしょうか?(時にうまく伝わらず誤解を生んだりね)もしも音声から伝わるものなんて存在しなかったら会話をしても何も感じないわけです。しかし僕らは会話から情報を得て、感情は動き、行動にも繋がります。

その音声に含まれている情報と言うのが
1.言語情報
2.パラ言語情報
3.非言語情報
です。音声学では「藤崎の三分法」と言います。


1.言語情報(linguistic information)

言語情報とは言葉の情報そのものです。例えば日本語では「あ+り+が+と+う」という音を発し「ありがとう」と言う言葉を作ると感謝の意味になりますよね。日本語がわかる人同士であればこのワードから共通の意味を理解することができます。当たり前の話のようですがこのような文字に書き起こす事のできる記号とでも言うようなメッセージを声=音で伝える事によって人はコミュニケーションをしています。音声にはこの言葉の情報が含まれています。声優さんで言うところの「台本」に当たります!


2.パラ言語情報(paralinguistic information)

パラ言語情報とは意図的に発話に込められた話者の意図、態度、いわゆる「感情」です。書き言葉として文字に起こすと抜け落ちて推測不可能になる情報です。
感動して泣きながら「ありがとう」と実際言ったとしても、文字で「ありがとう」と書き起こすと感動して泣いている事は推測不能です。
その為LINEやメールでは感情が伝わりにくいので「(笑)」「(汗)」「(照)」「٩(ˊᗜˋ*)و」や顔文字などを駆使して文字でも感情がなるべくわかるように努力しますよね。まさに今書いているこの講義でもなるべく感情が伝わるよう努力しています((ゝ。∂) 笑)声優さんが演じる1つが登場人物の「感情」ですよね。


3.非言語情報(non-linguistic information)
話者の年齢、性別、個人性(基本的な性格<社交的、内気とか>方言など)、身体の状態(重いものを持っている、走って息切れてるなど)の情報。これらは話者が意図的に制御することは難しい。例えば僕が話したら顔を見ずとも明らかに高校生や大学生くらいの年齢には思われずある程度の年齢の男性とわかるだろう。声優さんが演じるもう1つが「キャラクター」だ!

ちなみに1の言語情報からある程度キャラクターを読み取る事も可能で「わしがボイストレーナーじゃ」と書いてあったらおじいちゃんトレーナーかなーと思いません?(笑)「わたし」「あたい」「わっち」「わたくし」でもなんとなくキャラの違いがわかりますよね。これを【役割語】と言います。役割語に関してはまた別に時間に講義しますね。

★重要
声優を目指す方々にはしっかり心に刻み込んで頂きたいのが、キャラクターとは話者自身が【制御不能】で意図せずに出てしまうものと言う事です。
キャラクターとは、やろうとしてやってはいないんです!もちろん演技ですのでそれらを意図的に作るのですが、それでもキャラクターに関してはやろうとしてやっていないレベルで自然にできるようになる事が必要です、そのキャラクターがはじめて意図的に感情と言うものを表現するのですから!
イケメンはイケメンに話そうなんてしていないのです、イケメンに話そうと頑張ってるレベルではまだ本当のイケメンではないのです!(声優目指す方がイケメンと思ってる演技でやってしまいがち)
また、声優さんが演じるキャラクターの声は多くはアニメ的であり例えばおじいさんや、子供にしても実際にはそのような声のおじいさんや、子供はいません。やっぱりやろうとしてやってるじゃないか!と思う方もいらっしゃると思いますが、この点に関しては人間の知覚に関してお話しする際にまた説明したいと思います。


さて紹介した音声に含まれる3つの情報がどのように話者から聴者に伝わるかを図にするとこうなります。

発話者から聴者に情報が伝達される仕組み


まず会話をする際に、発話者側の脳で「〇〇と言うメッセージを〇〇な感情で伝えるぞ」と言う意思決定がされます。そしてその情報を声で伝える為に、今度は脳から肺、声帯、舌など声を作り出すチーム「音声生成機構」に指示が送られ、情報は声=音として作られます。音は空気の振動ですから、その情報は空気の振動となって伝達され、聴く側<聴者>の耳に到達し、鼓膜を揺らします。鼓膜の先でその空気振動は電気信号に変換され、電気信号が脳に達し、脳はその電気信号から発話者が発した情報を受け取り認識します。簡単に書くとこれが発話者が言葉を発し、それを聞いた人がその言葉を認識するまでの流れです。

発話者の意図したものと聴者が認識したものにズレがあると「誤解」になりますし、オーディションや演技のレッスンではダメ出しを食らいます。
日常では声が小さかったり篭ってたりするとそんなつもりはないのに元気ないのかな?機嫌悪いのかな?とか誤解を与えるのもこの仕組み上で「伝わる音声」を上手に発話できていない際に起こります。

声優さんは「台本」を与えられたら、その台本(言語情報)に感情(パラ言語情報)とキャラクター(非言語情報)を乗せて発すると言う仕事であり、これが「演技」です。上手な声優さんと言うのは台本(言語情報)を滑舌よく的確に発声できて、リアルで伝わる感情(パラ言語情報)を表現でき、個人性が的確に伝わるキャラクター(非言語情報)を多彩に作り出すことができる人の事になりますね!2021年に、慶應義塾大学の川原繁人先生が授業で行う声優界のレジェンド山寺宏一さんの8キャラクター程の声の分析のお手伝いをさせて頂いたのですが、3つの言語情報を扱う技術、声を聴きその声がどのような音かを分析する能力とそれを再現する為の発声器官の柔軟さがエベレスト級の方でした!まさに言語神拳伝承者でいらっしゃいましたね!(そういえば山寺さんはTVアニメ『蒼天の拳』で第62代北斗神拳伝承者の霞拳志郎を演じていらっしゃいましたね)川原先生のオンライン授業に山寺さんがゲスト出演されお話しもさせて頂いたのですが、演技や音声への熱い熱い愛情が山寺さんの素晴らしい技術を作られているんだとも感じました。山寺さんや川原先生のように自身のジャンルに大きな愛情を持ち人生をかけて探求されている方がプロフェッショナルと呼ばれる方なんだと、僕も芸能音声教育のジャンルでそんなプロになるぞと思いました!

さて今回の講義はここまで。次回4時間目は実際に演技をする際にどのようにこの3つの言語情報を考え扱っていくのかを例題を用いて実践して行きたいと思います!それでは4時限目まで各自休憩くだされ。

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