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【創作怪談】封印されたテープ

 学業の傍ら動画サイトチャンネルを運営していたFさんはふと見たテレビでやっていた「旧家に眠る開かずの金庫を開ける」という企画に影響を受け、祖母の家に、Fさんが生まれる前に亡くなった祖父の古い金庫があったことを思い出し、開かずの金庫ではないものの何か面白いものがあるかもと思い撮影の手筈を整えた。
 一応の前段階として両親と祖母に許可を得がてら、何が入っているのか事前に聞いてみると両親も祖母もよく覚えていないが、開けるのは勝手だがおそらく大したものは入っていないという回答だった。

 撮影担当の友人とともに金庫を開けることになった当日、やはり開かずの金庫感を出そうとあえて保管されていた鍵を使わずわざわざ鍵屋さんを呼んで撮影をしてみたものの、古いとはいえ特段珍しい金庫でも特殊なものでもなく専門職の手に掛かれば造作もなくすぐに開いた。
 さて問題の金庫の中身だがよくわからない箱が、グルグルと何やらテープに巻かれて保管されていた。
 巻き付けられたテープを剥がすとそれはプラスチックのケースであり、中には何やらカセットテープの亜種のようなものが収められており、撮影担当の友人がそれはビデオカメラ用の8ミリテープであると教えてくれた。
 可能ならばビデオテープに記録された映像も動画サイトにアップロードしたいところだが、そもそもただのビデオテープをこれほど厳重に保管してある理由もわからず、中に記録された映像が相当ヤバい物なのではと考えたFさんと友人はどちらにせよまず中身をチェックしてみようという意見で一致した。

 友人のカメラはSDカードに記録するものでテープには対応していなかったた、祖母宅を家探しし、祖父のものだったという古いビデオカメラを発掘しようやくテープの中身の検分と相なった。

 何やら犯罪にまつわるものでも記録されているのかと思い恐ろしさ半分興味半分で再生ボタンを押すと、流れてきたのはどこかの部屋の天井が延々記録されているのみだった。
 経年によるものか重ねて撮影を繰り返したためなのか映像には劣化が見られるものの、その天井が祖母宅の納戸のものであるということはすぐにわかった。
延々天井が映された映像というのはなかなか不気味ではあるものの、やや拍子抜けしたFさんは映像を祖母に見せ、何か覚えているかを聞いてみた。
 祖母はまず天井の映像を気味悪がったものの、映像について思い出したことを語ってくれた。

 曰く、ビデオカメラとフィルムカメラが趣味であった祖父は、夫婦で行く旅行とは別に撮影旅行と称して同じ趣味の同性の友人と共に全国津々浦々暇を見つけては飛び回っていたのだと言う。
 ある時祖父とその友人は撮影してきた映像の上映会を開いたそうだ。場所は祖父宅ー現在の祖母宅で、他にも同様の趣味の仲間たちでテープを持ち寄ってのものだった。
 自宅が上映会場となったわけでホストとなった祖母は、元々映像に興味が薄いこともあって祖父の友人たちをもてなすために飲み物や食事の用意をするためずっと台所にいた。
 すると上映会を開いている居間の方で数名の叫び声の後怒声が聞こえ、友人たちが慌ただしく家から出ていくのが見えた。
 なにが起きたのかと慌てて今に駆け込むと、祖父と取り残された2〜3人の友人が呆然と立ち尽くしていた。
 一体なにがあったのか祖父を問い詰めるとはっと我に帰り、祖父はビデオテープを機械から取り出し、カメラにセットするとカメラを納戸に放り込んでいたという。

 その後どうしたのかは覚えていないがおそらくその時のテープだろうとのことだった。
 Fさんと友人は、祖父が何かが映り込んだテープを、納戸の天井を撮影することで上書きしたのだという結論に達し、ではそれが何だったのかということに興味が移り、祖母にその時上映会に参加していた祖父の友人たちについて聞いたものの、同じように亡くなっているかそもそも繋がりが薄く今連絡がつかないという人が殆どだったようで、この線から当たるのは難しいだろうということだった。
 家探しをしてはみたものの、これといって手がかりになりそうなものも見当たらず、その日は撮影も調査もこれまでとし、一旦持ち帰って最終的にどういう構成の動画にするか話し合おう、ということで解散となった。

 その日の夜、両親に昼の撮影であったことと、祖母から聞いたことを話していると、父ー父方の祖父母であったーが
「そういえば」
とあるノートの束を持ってやってきた。祖父の日記だと言う。
「この中になんかあるかもな」
とのことでFさんはそのノート群を読んでみることにした。
 祖父はこまめに日記を付けていたと言うわけではないが撮影旅行に行った時や大きく心の動いた時などに書き留めるタイプだったらしい。
記されている日付の新しい方を頼りに遡って読み進めていくと、中程にこんな記述があった。
 『この3年間に友人を何人も亡くしてしまった、みんなあの日にあれを見たやつらだ、怪我だけで済んだものもいるが、そいつらにすら「あんなものを撮ったからだ」「俺たちは死んだり怪我をしているのになぜお前だけはなんともないんだ」と責められる、俺だって知りたいが、もしかしたらあいつらよりもひどい死に方をするのではないか恐ろしくて仕方ない』
 ある程度要約しているがおおよそこんなことだった。
 さらに遡って読んでいくとおそらく上映会のすぐ後に書かれたと思われる記述を見つけた
 『撮影した時には何も無かった、ロケーションもよく、普通の観光地だった、あんなものは撮影していない。何より、俺は上映会前に確認だってしている。あんなものが写る筈がない。テープには上書きして、何度も再生してもう何も映っていないのを確認したが、これ以上このテープを使う気にはなれないが、捨てて何かが起こるのも怖い』
 つまり、祖父の撮影した映像が、上映会の瞬間撮ったはずのない何かの映像に変化しており、それは友人達を恐怖させ、たちの悪い悪戯だと思われたのか友人達の殆どを怒らせ帰ってしまった、するとその後の3年間の間に上映会に参加した友人達が次々と亡くなるか怪我をすることとなり、それは生き残ったもの達からもあの映像のせいだと思われるような出来事であったということだろう。
 件の映像が記録されていたというテープは納戸の天井を時間目一杯撮影するということで上書きされ、同様のものが写っていないことも確認したものの、不気味に思った祖父は捨てるのも躊躇われ、テープで巻いた上で金庫に封印してあった、ということだろうか。

 祖父とその友人達の身に起こったことが想像できるようになると、Fさんは急に恐ろしさが込み上げてきた。生まれる前のことなので分からないが、祖父の死因はその呪いによるものではないのかと。
 しかしその想像はすぐに打ち砕かれることになる、少なくとも祖父の死因については変死扱いにこそなったものの、風呂場で亡くなった祖父の死因は元々血圧の高い中、真冬に入浴しようとした事によるヒートショックなどによる心筋梗塞によるものであろうということだったと、翌日両親が教えてくれた
 その上祖母からも、少なくともその上映会を行ったのは祖父が亡くなる20年以上前の出来事であるとのことだった。

 それでもやはり不気味なものを感じていたFさんは友人と相談し、テープの中身については分からない、不気味すぎて触れられないとして動画を締めることにした。
 以降、祖父の友人達が亡くなったという記述があったら3年の間は心の片隅にその事がありビクビクしながら過ごしていたそうだが、特に何も起ってはいないらしい。
「強いていえばチャンネルが思ったより伸びなくて閉じたのがその頃ってくらいですねー」
とFさんは笑って話を締めくくっていた。

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