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第70回MMS(2013/12/09対談)「金型屋さんが生み出した自社製品ブランド」株式会社MGNET 代表取締役 武田 修美さま

本記事は2013年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

MMS本編

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enmono 自己紹介をお願いします。

武田 株式会社MGNETの代表をやらせていただいています、武田と申します。2011年に、親会社である武田金型製作所の商品開発と販売をしていた部門が、株式会社MGNETになりました。自社商品の他にも、さまざまな業種の企業さんと一緒に製品をつくっています。また、製造業の方から「なんとなく商品をつくってみたけれど、これをどうしたらいいのか?」という相談を受けたり、プロモーション活動のお手伝いをしています。

enmono 相談を受けるのは、BtoCの商品が多いですか?

武田 BtoBの方が多いかも知れません。BtoBの方が、武田金型がやってきたノウハウを活かせるので。武田金型も展示会に出たり、イベントを開催したり、時にはUstreamをしてみたりしました。

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enmono なぜ、そのようなプロモーション活動をするようになったのですか?

武田 理由の一つは、業界的に売上が減ったことです。新しい仕事の取り方というか、営業的な動きをしてもいいんじゃないかと。武田金型はプレス金型の設計、製作、修理をしています。特に車関係の仕事がメーンで、もちろんメーカーさんの影響は受けます。リーマン・ショックの少し前ですかね。業績が悪くなってきたと思ったら、売上が一気に3分の1くらいになりました。

enmono 厳しい状況だったのですね。

武田 「こういう金型を床の間に飾りたいんだけど」とか、金型を趣味で注文してくださるようなお客様はいませんし。いつか出てきたらいいなと思いますが(笑)。武田金型ではリーマン・ショックの前から、商品づくりとか、いろいろチャレンジしていたわけです。それで、「本業の方が空いてきたなら、今までおろそかにしていた部分をやってみるか」と。

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enmono それは、社長さんの方がそういうことをされていたのですか?

武田 そうですね。武田金型の社長は、私の父です。社長はもともとは職人ですが、柔軟なところがあるのかなと思いますし、そこに救われている部分は非常に多くて。

enmono 金型一本ではなく、「こういう商品をつくってみよう」とか。モノづくりがお好きなんですかね。

武田 はい。(モノづくりに限らず)やる前から否定してもしょうがない、というところがあるんじゃないかと思います。つべこべ言わず、とりあえずやって形にしてみるという職人気質が、根っこにはあるんですね。

enmono 商品を流通させるには、モノづくりとは別の能力というか、労力が必要になりますよね。武田さんは、マーケティングなどのお仕事をさせていたのですか?

武田 いいえ、車の営業マンでした。武田金型には入りたくないと思っていたんです。小さいころから友達や親戚に「後を継ぐんだろ」と言われ、葛藤もあるなかでディラーに勤めました。5年ほど働かせていただいたのですが、大病を患いまして。しかも、二つほぼ同時に。出勤しては休んでという状況で営業をやりつつ、2年ほど検査通院していると、今度は車の運転もできなくなり、立ってもいられなくなってしまいました。

enmono そうすると、営業としてはちょっと大変ですよね。

武田 無理ですね。会社としても雇用は難しいですし、お客様にも迷惑をかけてしまいます。それで、辞めざるを得ない状況になってしまったんですね。一週間の半分は立てない状態が続いていたので、再就職をしようにも内職くらいしか選択肢がありません。こういう状態になった時、家族会議を開きました。「パソコンを使った仕事なら、できるかな」という、わずかな希望に社長が、「うちで働けばいいんじゃないか」と言ってくれて。その時は単純に父として救ってくれたとは思うんですけれども、社長が商品開発をやり始めていまして、「まずは、売るということをやってみてくれ」と。素直に、「えっ? いいの?」と思いました。2005年に武田金型に入社したのですが、社長からは「実績ができてから出社しろ」と言われました。「こんな倅が入社したなんて、とても言えない」と。自宅でひたすらパソコンに向かっていました。

enmono それで、ECサイトと会社のホームページをつくられたのですか?

武田 そうですね、ゼロから勉強して。今、考えると、よく「やる」と言ったなと思います。ネットを駆使して徐々につくれるようになっていって、一番最初に立ち上げたサイトがマグネシウム製品の専門店です。

enmono マグネシウムって、一部では使っているんでしょうけれど、かなりニッチですよね。

武田 社長がマグネシウムに興味を持ったのがきっかけで、マグネシウムの製品をつくるようになりました。今は、カーボンに可能性を感じているようですが。これが一番最初の商品、マグネシウム合金の名刺入れです。1年ほど販売して、「考え直した方がいいな」と気づくんですね。それでも11個売れたんですよ。実は、お一人の方が8個買ってくれるというミラクルが一度起きているので、4回しか売れていないのですが(笑)。今でもお世話になっている師匠のような方と出会ったことも、考え方を変えるきっかけになりました。当時、名刺入れの専門店はなかったので、「名刺入れに特化しよう」となったのです。

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enmono 自社の名刺入れだけではなくて?

武田 はい。マーケティングの勉強もしていた頃で、「名刺入れといえば、金属じゃないな」と思ったんです。金属の名刺入れを使っている方もいらっしゃると思うんですけれど、「やはり、革かな」と(笑)。それで、革の製品をつくっているメーカーさんに電話をかけていきました。「武田金型製作所ですけれども」と名乗ると、「はい?」と門前払いですよ。でも、ある女性が話を聞いてくれまして。かわいい革小物をつくっているメーカーのデザイナーさんで、(私と同じように)メーカーとして駆け出しだったので、話を聞いてみようと思っていただけたようです。何よりびっくりしたのは、旦那さんが金型屋さんだったんです。いろいろ話をしているうちに、取り扱いをさせていただけて。

enmono すごい偶然ですね。ご縁ですよね、それは。

武田 それから木工メーカーさんにもお願いして、革と木工の名刺入れも取り扱う名刺入れ専門店「MGNET」をオープンしました。

enmono MGNETさんの商品紹介をお願いします。これが最初の名刺入れですね。

武田 そうです。次の商品も名刺入れで、今度は(横ではなく)縦に開くタイプのものです。マグネシウムとチタンがあり、どちらも同じ型で成形しています。

enmono チタンって、曲がりにくいんじゃないんですか?

武田 非常に曲がりにくいです。そこが、武田金型だからできる部分でもあります。チタンもそうですが、当時はマグネシウムのプレスがここまでできるというのは、なかなか難しいことだったんです。これからは、同じ形でアルミやステンレス、真鍮などラインアップしていきます。

enmono 金属の材質感を味わってもらう商品以外に、カラフルなものや模様をつけた商品もあるんですか?

武田 弊社の商品は割とシンプルに、あまりデザインデザインしないようにしています。この名刺入れの後につくったiPhoneケースもそうなんですけれども、私も今、(自分のiPhoneに)つけていますが。

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enmono シンプルですね。スライドして入れるようになっていて、かなり精度はいいですね。iPhoneが収まっていますものね。

武田 問題は金型屋なので精度を出そうとした結果、iPhoneの個体差がありすぎて、はまらないという。確認しているだけでも、コンマ2ミリくらいの誤差があるのです。コンマ2あるってことは、お札2枚入るようなものなので。

enmono しっくりはめようとしたら、ぜったい無理じゃないですか。

武田 無理なので、販売店さんには確認していただいたりとか、希望があれば修正したりしています。

enmono 普通、ケースの方が精度が悪かったりしますよね。でも樹脂だから問題なかったり。逃げ技でゴムをかますとか、考えたりされましたか?

武田 考えました。そうすると、ケース自体が大きくなって、野暮ったくなってしまいます。あまり外観を損なわず、かつ、アップルっぽい感じを出すため、極力薄くしています。

enmono わからないですものね、ケースをしているというのが。それは?

武田 これは、最近販売を始めた名刺入れです。両方チタンですが、シルバーはオリジナルで、褐色の方は着色ではなく酸化させているんです。

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enmono これも武田さんがデザインされたのですか?

武田 カーデザインの会社さんです。これはコラボで出している商品です。

enmono 両開きなんですね。あわせが二つあるので、何回もトライされたのでは?

武田 わかっていただけますか。相当トライしています。この商品も大変でした。一体になっていまして、起こしたり、倒したり、何工程もあるので。

enmono かなりこだわっていますから、お値段も素敵なプライスなのでは?

武田 オリジナルが1万8千円(税抜)で、酸化させた方が2万千円(税抜)です。

enmono どこで販売しているのですか?

武田 弊社が運営しているECサイトです。これから、販売店さんが増える予定です。

enmono 今後、コラボレーションを増やしていかれるのですか?

武田 そうですね。もれなく金型がついてきますので、イニシャルコストがはけるものにならないと難しいのですが。そこも足かせになる部分が多くて、MGNETというイニシャルコストがかからなそうな名前の別会社を立ち上げた、ということもあります。MGNETは、Make good networksの略です。金型屋は特にそうなんですけれど、モノづくりをしていく上で、自社だけでできることって少ないんです。そこの環境を良くしていくことを一番に考えた会社が、1社くらいあってもいいかなと。

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enmono ネットーワークは、企画方面にも販売方面にも広がりますね。

武田 今は業種問わず、さまざまな仕事をしています。社名を出さずに、裏にまわってやっているのも結構あります。MGNETが軌道に乗り始めると、武田金型の自社ブランド企画もコラボレーションが増えてきました。武田金型の技術がメーンでお話をいただいているんだなというのが多くて、2010年くらいから「武田金型のPRになっている」と感じるようになりました。私自身の今までの活動もそうですけれど、「これでいけるぞ」と思ってやっていることって、ほどんどなくて。それがきっかけとなって派生することの方が多いので。朝と夕方で言っていることが違う、とか。この間、「それは時代を相手にしているからだ」と、ある会社の社長さんに褒められたんですけれども。「株価も変わるじゃないか。だから戦略なんて変わって当たり前だし、一緒の方が怖い」と言われて、安心しました。

enmono いろいろやっておられるけれども、軸になる部分は何ですか?

武田 「日本のモノづくり、製造業に少しでも役に立てる場所をつくっていきたい」ということです。それが、一番の軸かなと思います。武田金型の看板を背負っているというか、(社長の)倅なので。それと、見た目のボンボン感は大事にしていこうと思っています(笑)。

enmono 最後に、日本のモノづくりの未来に対しての武田さんの思いを教えてください。

武田 日本人が持っているDNAに、モノづくり精神のようなものがあるような気がします。それを刺激して、ハレーションを起こしていきたいんですよね。製造業という角度からくすぐるよりも、今までモノづくりできなかったところとか、いろんな角度から。製造業同士とか、メーカーさん同士だと割としっかりしたモノづくりができるんですけれど、そうでないところで。

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enmono 技術がないけれどもアイデアとか思いがあったりするところを、MGNETさんが繋いでいくという。

武田 お手伝いするのではなくて、一緒にやる。少しでも若い人達に「面白そうだな」と思ってもらえる、等身大のモノづくりをやっていきたいと思います。

enmono ありがとうございます。

対談動画

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https://www.facebook.com/osamitakeda

株式会社MGNETウェブサイト

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