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「日本発!人にやさしいロボットマニピュレータの実現化」ライフロボティクス(株)尹祐根さん

本記事は2014年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

MMS本編

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enmono ライフロボティクス株式会社について、ご紹介をお願いします。

尹  弊社は、人とロボットの共生を目指しています。それに向けた最初の取り組みが、単純作業の置き換えです。現在、ロボットアームNECOを開発しています。これは、人々の単純作業を代替するロボットです。

enmono しかし、ロボットの導入には、さまざまな障害があります。

尹  はい。まず、安全性が確保されなければなりません。その点で、NECOは優れた特徴を持っています。第一に、ロボットアームに肘が存在しないのです。これは、安全性を確保する際に非常に重要なことです。人間に例えて考えてみてください。たとえば、満員電車の中で携帯電話を取り出すとき、他の人にぶつかってしまう部分はどこでしょうか。それは、肘です。肘があることで、周りの物体との衝突が生じやすくなっています。しかしながら、NECOには肘がありません。したがって、ロボットアームと人間が衝突しにくい、安全な仕組みが実現されています。

 第二に、NECOは暴走しません。一般的に、ロボットアームは暴走しやすい傾向にあります。しかしながら、NECOには特異点が存在しないため、暴走の危険性が非常に小さくなっています。

enmono 確かに、肘がないことで安全性は非常に高いようですね。

尹  さらに、ロボットの作業自体にも、非常に安心感を持てます。NECOは、人の手の器用さを模倣したロボットです。したがって、人のカラダや柔らかいものをやさしく移動させられます。

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enmono 二次的な危険への安心だけでなく、作業自体の安心性も高いということですね。これなら、単純作業の置き換えとして、非常に有益なロボットといえますね。では、なぜ、単純作業の置き換えを目標としたロボットを作られているのですか。

尹 日本が高齢化社会を迎えているからです。人は歳をとるにつれて、複雑作業の作業効率が増加します。これは、職人を考えていただければ明白です。一方で、単純作業に関していえば、ミスが多くなってしまいます。このような傾向を踏まえて、高齢化を迎える日本の労働を考えてください。そこで必要とされるのは、単純作業をより効率的に行える産業用ロボットです。そこで、単純作業の置き換えを目的にしたNECOを開発しました。

enmono しかし、NECOの需要は、それだけに留まらないでしょう。

尹 そうですね。もちろん、高度な技術や知識を持つ人の有効活用という理由から、ロボットを単純作業の代替に使用する方も多いでしょう。しかしながら、このロボットにしかできない仕事もたくさんあり、そこでの需要もあります。

 たとえば、狭小空間での検査や複雑形状の塗装、人の手で触りたくないものへの作業です。そう考えると、NECOには大きな可能性があります。また、NECOの小ささが、さらなる需要を喚起すると考えます。省スペース化を実現できますし、現状の製造ラインにそのまま組み込めるからです。従来とは異なり、導入コストを抑えられるのです。

enmono 素晴らしいロボットですね。どのようにして、このようなロボットが作り上げられていったのですか?

尹 産総研での研究開発がはじまりです。従来から、ロボットの肘に関する議論は多くされていました。それだけ、重要な部分であるということですね。その中で、その肘を外してみないかという議論になりました。そこから、半信半疑のまま試行錯誤が始まりました。

enmono  そこでの研究開発がこのロボットのシード段階なのでしょうね。しかし、多くの研究開発は、実用化されずにそのまま放置されてしまいます。いわゆる死の谷ですね。尹さんは、自らが起業することによって、死の谷を乗り越えようとしたわけですが、その理由をお聞かせください。やはり、自分の研究を世に出したいという思いが強かったのでしょうか? 

尹 もちろん、それもあります。しかし、より強く考えたのは、日本経済の将来性についてです。研究者は、10年あるいは20年先の未来を考えて、研究を行っています。しかし、私にはそれが見えなかった。日本経済がその時まで持ちこたえている気がしなかったのです。そこで、未来を見つめるよりも、まずは目先のことを考えていくべきだと感じたのです。つまり、研究開発したものを実用化までしっかりと持っていくということですね。

enmono 研究者の中には、そのような考えを持つ人が多いのでしょうか?

尹 あまり多くはありません。なぜなら、実用化をするのは企業の役割だと考えているからです。つまり、自らの役割は研究開発であり、実用化は自らの役割でないと考えているのです。

enmono しかし、尹さんは日本経済を考えて、開発者も実用化に向けて動くべきだと考えるのですね。    

尹 はい。経済が良くなければ、研究開発費も多くなります。研究者も産業化をより意識すべきですね。それが、産総研技術移転ベンチャーとして起業した理由です。

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enmono しかし、長きにわたって研究者として活躍されてきた尹さんにとって、企業経営は全くの異分野だと思います。その点で、様々な苦労をされてきたと思いますが、どうでしょうか?

尹 そうですね。経営に関していえば、私は素人です。その点でいえば、多くの方から支援をいただいております。たとえば、つくばエクスプレスの沿線には、ボランティアベースでの支援を行うTXアントレプレナーパートナーズという組織があります。我々はそこに所属し、支援を受けさせていただいています。また、VCに所属している方から、個人的な支援を長くいただいております。様々なノウハウや人脈の提供があったからこそ、このようなロボットアームの開発に到達できたのだと思います。

enmono 今はどのような段階なのでしょうか?

尹 とにかく、このロボットを広める段階だと考えています。我々が想定している業界だけでなく、より広い範囲の方々に知って頂きたい。なぜなら、どういう分野で使えるのか、どのような改良が必要なのかなどは我々にも未知であり、それを知りたいからです。

enmono そのように考えるようになったきっかけはありましたか?

尹 現在、Googleは様々なロボットベンチャーを買収していて、ヒトの身近で動くロボットの開発を目指していると考えられます。それが、我々がこのロボットを広めたい動機になっています。社会には、競争が必須です。競争があるからこそ、よりよいものがつくりだされます。その点で、Googleが独占状態に陥ることは、社会全体からみて不利益だと考えます。したがって、Googleに対抗するためにより多くの人にNECOを知って頂きたのです。そうすることで、今までは見えてこなかった需要も見えてくるでしょう。これが、googleに立ち向かうために必要なことです。

enmono では、Googleを追い越すためのパートナーも必要でしょう?

尹 そうですね。技術は、Googleに勝っているのです。我々に足りないものは、それ以外の部分です。それは、販路拡大や市場選定などです。そのような部分について、強化したいと考えています。ライフロボティクスと共にGoogleを超えたいという方はぜひお力添えをお願いしたいです。

enmono 実は、このNECOという産業用ロボットだけでなく、RAPUDAという介護福祉用ロボットも開発しているようですね。この2つにはどのような違いがあるのでしょう?

尹 やはり、介護医療用ロボットは個人では買えない値段となってしまいます。この値段を政府が保障していただければ、多くのニーズがあるという状況です。実際に、オランダではそのような取り組みがなされており、多くの人が介護医療用ロボットを使っています。

enmono RAPUDAを使うとどのようなメリットが生まれるのでしょうか?

尹 被介護者は、自立した生活が可能となります。人間が介護をすると、どうしても被介護者の生活はその人に依存してしまう。自分でできることが少なければそれだけ、生活の質も、自尊心も低くなってしまいます。しかし、RAPUDAというロボットを使うことで、人の力を借りずに生活できるようになれば、自らできることは増えます。これは、被介護者にとって、精神的に非常に良い効果があるでしょう。

enmono NECOとRAPUDAを分けた理由はどこにあるのでしょうか?

尹 はじめは、分かりやすさのために名前を分けました。ただ、産業界の方々にお話をうかがうにつれ、NECOには大きさや可搬重量、スピードなどのバリエーションが必要だと分かってきました。RAPUDAの仕様は、現在のものが、日常生活での利用では最適解になっていると考えていますが、NECOは変わっていく可能性が高いです。

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enmono 最後に、日本のモノづくりの未来について、お話をお願いします。

尹 これからの日本のモノづくりは二分化されるべきです。一つは、高付加価値商品の製造に特化すること。もう一つは、低価格商品の製造に特化することです。この間には、市場が存在しないと考えます。しかし、もっとも考慮すべきことは、自らが欲しいものをつくることを忘れないことです。大手企業の中には、自分の欲しくない製品をつくる方がいます。しかし、それは間違いです。それでは、製品の発展性はないし、それによる付加価値もつきません。

enmono なぜ、そのような状況になってしまったと考えますか?

尹 分業制によって、責任の所在が不明確になったことが原因だと感じます。自らがつくる製品がその先にどうなるのかが分からないため、製品に対する愛着や責任感がなくなったのだと考えます。しかし、それでは良い製品はつくれないでしょう。

enmono その点、NECOは、尹さんが欲しいと思う製品なのでしょう。

 本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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(Editor:戸井健太)

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