第62回MMS(2013/8/5対談)「デザインマネジメントから日本のモノづくりを語る」MTDOinc. 田子學さん
本記事は2013年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。
MMS概要
今回のゲスト、MTDOの田子さまは、株式会社東芝デザインセンターにて多くの家電、情報機器デザイン開発にたずさわる。
同社退社後、株式会社リアル・フリート(現amadana株式会社)のデザインマネジメント責任者として従事。
その後新たな領域の開拓を試みるべく、2008年株式会社エムテドを立ち上げられました。
現在では、幅広い産業分野でコンセプトメイキングからプロダクトアウトまでをトータルでデザイン、ディレクション、マネジメントまで携わられています。
直近では、NARUMI(鳴海製陶株式会社)の耐熱食器ブランド「OSORO(オソロ)」のデザインを手がけられ、ドイツ・ハノーバー工業デザイン協会(iF-International Forum Design GmbH Hannover)が主催するiF design award2013にてGOLD(最高位金賞)を獲得されています。
田子さまは、デザインを単純な色と形の造形を生み出すことと捉えるのではなく、ビジネス全体をデザインしてはじめて目的とするプロダクトを生み出すことが出来るというお考えのもと、積極的な活動をされています。
今回は、田子様のご活動から、日本のモノづくりの目指すべき未来と、我々との対談を通して、日本のモノづくりの未来に関してもお話をいただければと考えております。
MMS本編
田子:デザインと一口に言っても多くの領域を含み、経営領域にまでデザインが必要とされています。会社全体を俯瞰してみてデザインをしていくということが、デザインマネジメントの特徴です。まさに企業のブランドをつくり上げることになります。
宇都宮:でもブランドって言うとマーケティングのイメージがありますが、いかがでしょう?
田子:自分が考えるブランドは、会社の根源とかモノの本質ってなんなの?といったところからくるものだと捉えています。
実際に自分がやってきたことを少しおはなしします。東芝を辞めたあと、立ち上げより参画していたREALFLEETにてデザインマネジメント部署を設置し、デザインを実践していました。
そこでは、リモコンについてその存在意義などを問い直し、大切な価値を与え、15,000円という販売価格で提供したところ、世間がびっくりしマスコミが取り上げるような商品となったのです。その御蔭で会社の認知が広まる効果がありました。
宇都宮:その文脈で、大企業ではできなかったけれど、小さな企業だから取りうる戦略というのはあったのでしょうか。
田子:はい、それまではある意味大量消費の世界にいたので、その逆をデザインしてゆきました。そしてブランドを確立する為にも販売戦略としてモノの価値をしっかりと伝え、商品の寿命も永く維持したいという思いがありました。そのためには、作り手と売り手と買い手の気持ちが一体となっていなければ実現できないと考えました三者のバランスを取り、お互いの思いが一致しなければ販売しないという選択をしたことが商品のデザイン性を理解してくれることにも繋がりました。
続いて「OSORO」についてのお話し。
田子:OSOROのデザインについては、鳴海製陶さまの方で、売上半減といった課題は明確であったものの、何をしてよいかわからない、といったご相談からスタートしました。そこで、様々なお話を聞く中で、社内の方を集めて、ワークショップを実施し、参加した社員さんの中から、日常使いの中での何らかの食器を生み出さなくてはという声が上がってきました。社員さん達ご自身からそのような思いが出てきたことで、何やらプロジェクトを始められそうな直感が働いたのです。そこで、見込み顧客のライフスタイルを分析していくと、彼らが日常使用している家電(電子レンジ、オーブン、食洗機)のすべてが、鳴海製陶、が得意としているボーンチャイナでは使用できないという課題が見えてきました。そこで、現代の日常使いに適した陶器を提供しようというコンセプトでOSOROがデザインされました。
宇都宮:ところで田子さんはどのような関わり方をされたのでしょうか。
田子:まずは、前述のようなコンセプトをメーカーの方から引き出して、それを取りまとめ、デザインを進めていくことをしました。外部の人間ではあるものの、完全に内部の人間として入り込んで仕事をしていました。
宇都宮:悩みを抱えているメーカーからすると、どのように田子さんに相談すればよいのでしょうか?
田子:実は何を相談してよいかわからないというような、抽象的な初期状態で相談いただいた方がやりやすいと思います。相談者の方で形にしたりしてから相談されると、根本的な悩みが見えづらいからです。白紙に近いほうが、一緒に根源的な悩みに向かい合えるのだと思います。
続いて「nasta」についてのお話し。
田子:こちらの商品は、B2B企業である、キョーワナスタさんのものです。B2B企業として業績は安定しているものの、将来的にはこのままではまずいということで、B2C2Bというコンセプトを打ち出して、一度個人向けの商品を生み出してそこで認知度を高められれば、B2Bでも存在感を増すのではないかという仮説で事業展開をすることになりました。そのB2Cの商品開発にデザイナーとして関わり始めました。その中でランドリー商材の商品を生み出して、一般ユーザーに向けた商品が売れ始め実績が出るようになりました。そうすると、この実績を受けて、B2Bの商品開発の相談が実際に来るようになりました。このように、従来B2Cをしたことがなかったような企業も、B2C商品を開発し実際に販売することで、別の形でB2Bのビジネスが展開することができるという良い事例になっています。
宇都宮:しかしビジネスで成功し始めると他の企業が真似してきたりしませんか?
田子:OSOROのケースですと、意匠の取り方に工夫がありました。元々陶器業界では、意匠権が取られることなくオープンになる歴史がありました。なので、メーカーの方からすると、OSOROの知財権も取得できないという判断でした。しかし、陶器業界ではない弁理士に相談してみると、意匠権が確保できる方法が見出され、知財を得ることが出来ました。このように業界の内部の常識にとらわれないことで、知財も確保しビジネスを継続できるようにすること、こういうこともデザインマネジメントでは仕事の範疇になります。
しかし、このようにイノベーティブな仕事を任せていただき一緒にビジネスにしていくためには、パートナーたる企業の方も、未知のことにチャレンジするマインドがなければなりません。そういった思いが共有できて初めて、私のようなデザイナーの仕事が活かされるのだと思います。
宇都宮:ありがとうございました。最後に、いままでのMMSのゲストの皆さんにお聞きしているのですが、田子さんの考える、日本の未来についてお伺いしたいのですが?
田子:従来持っている固定概念は一旦置いておいて、チャレンジしてみて失敗を経験することが重要だと思います。その失敗の中での気付きを発展に活かすことを実践してほしいと思います。
宇都宮:ということで、ぜひ、失敗してみましょう。そして、田子さんに相談してみましょう。ありがとうございました。
対談動画
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対談後に出された著書「デザインマネジメント」
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