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「もう一つのマイクロモノづくり(MEMS)を研究するもう一人の三木さん」 慶應義塾大学理工学部機械工学科准教授 三木則尚さん

本記事は2015年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

●縁もゆかりもありそうな

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enmono 第116回マイクロモノづくりストリーミング、本日は慶應義塾大学理工学部の三木先生の研究室から、私三木がお送りしています。そもそものきっかけは私のFacebookに三木先生がメッセージを送っていただいたことです。SDMの前野先生のMMS(第111回放送)を見ていただいて「なんか名前が同じですね」ということで。

三木 そうですね。

enmono その後、一回こちらへお邪魔して、ちょっと驚いたのが先生がやってらっしゃるのがマイクロ・ナノ工学、我々がやっているのはマイクロモノづくり、どちらもマイクロということで近いなぁと。そういうことで今日はこちらへお邪魔しております。先生、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?

三木 三木則尚です。出身が兵庫県たつの市というちょっとした田舎町で、姫路市の隣の町です。ウチは醤油屋をやっておりまして、たつの市はそうめんの揖保乃糸っていうのが有名なところです。揖保乃糸の揖保っていうのは揖保川から来ていて、その川が軟水で醤油造りにもいいのでヒガシマルをはじめとして多くの醤油屋さんもあります。ウチはカネヰ醤油というんですけども、そもそも七代前くらいに四国から渡ってきたということで、三木さんも……。

enmono ひゃー、先祖が一緒かもしれないですね。私も四国です。

三木 だいぶ昔が繋がっているかもしれません。

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三木 2001年に機械系のマイクロマシンという非常に小さなものを作る研究をやっていまして、それでドクター(博士号)を取りました。2001年から2004年まではアメリカ、ボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)へ行きまして、500円玉くらいのサイズのマイクロエンジンを作っていました。2004年から慶応へ来まして、マイクロ・ナノ工学の応用技術の研究をしています。

enmono 「マイクロ・ナノ工学」という言葉はもう標準の言葉なんですか?

三木 機械学会という日本最大の学会があるんですけど、そちらの方ではマイクロ・ナノ工学部門という部門がこの5年くらいでできました。今年正式部門として認められまして、マイクロ・ナノ工学シンポジウムというのを毎年やってます。私はプログラム委員長とかやってますので、興味のある方はぜひお越しくださればと思います。

enmono 長さ・大きさの――。

三木 そうですね、マイクロ・ナノですね。ナノメータースケールからミリメータースケールのところで起きる現象を解明する。例えば材料もすごく小さいものになると振る舞いが変わってくるとか。もしくは血管の中の流れっていうのは普通の流れとは違ったりとか。そういうところをやっています。

enmono 精密工学会とはまた違うんですか?

三木 機械学会と精密工学会は違います。例えば1メートル±1ミクロンというのがおそらく精密加工だと思うんです。マイクロ加工っていうと1ミクロン±0.1マイクロとかもしくは10マイクロ±1マイクロという感じで精度というよりはサイズ自体が小さいというのがマイクロ加工かなと。ただそこは定義が曖昧になってますので、色んな分野があります。バイオ分野の応用もありますし、材料・熱・基板的な話もありますし。

enmono 工学だけじゃなくて農業とか環境とかもあるということですか?

三木 そうです。あくまで基礎があって、それはなんにでも使えますので。我々も環境関係に手を出していますし、すごく幅広いです。

●人知れず活躍するMEMS

三木 私の研究分野はMEMS――Micro Electro Mechanical Systems――といって、日本では今ではMEMSってよく言われるんですけど、かつてはマイクロマシンという風に言われていました。ヨーロッパだとMST――Micro System Technologies――という風に呼ばれています。要は「小さな機械」で、微細加工技術を使って小さなものを作って新しい機能を生みだす、まさにモノづくりをベースにした新しい研究部門です。元々、光で半導体の回路を作る加工技術があったんですけど、それを使って配線だけじゃなくて機械を作っちゃおうという発想で始まったものです。

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enmono MEMS技術のアプリケーションにはどのような可能性が挙げられますか?

三木 2000年頃はMEMSなんてやっても役に立たないって言われていたんですけど、2002~2003年頃から当たり前のように普及を始めまして、今ではそこら中にあります。一番よく使われているのは車ですね。車がぶつかった時にエアバッグがボンと開きますけど、あれは加速度で衝突を検知しています。そのための加速度センサーにMEMSを使っています。
三木 Nintendo「Wii」のコントローラーで振る動作を検知するのもMEMSを使って加速度や回転角をとってます。
三木 プロジェクターでも最近液晶型のプロジェクターとDLP型のプロジェクターっていうのが売られてるんですね。液晶型は少し大きくて重くて、ただ綺麗に出る。軽くて小さいものはDLPタイプといって、中にMEMSの小さな鏡の集合体が入っています。200万個くらいの鏡がズラーッと並んでまして、それが一個一個バーッと動いて絵を作るという技術があります。

enmono すごいですね。そういうものがあるんですね。

三木 はい。これはもう普通に売られています。
三木 あとはインクジェットプリンターなんてまさしくそういうもので、非常に小さな液滴を微少パターンされた電極で温めて出す。これはCanonさんのバブルジェットという泡を作って出しているものなんですけど、これもMEMSの一つだと言われています。

enmono 我々の気づかないところで意外と使われてるんですね。

三木 ええ、もう普通の技術になっています。

三木 例えば携帯電話にもたくさん入ってまして、スマートフォンは傾けたらスクリーンの向きが変わったりだとか、あとは動かしたらなにか反応したりだとかというのは、中にMEMSの加速度センサーが入ってます。この数はこれからどんどん増えていきます。

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三木 小さいと色んないいことがあるんですけど、その中でも特徴的なのがスケール効果です。小さいと物理法則が色々変わってきて、例えば昆虫が自分よりも50倍くらい重いものを運べるというのは、あれは昆虫がすごいわけではなくて、ただただ小さくなるとそういう風になります。
あるいはお風呂のお湯はなかなか冷めないけども、コーヒーはすぐ冷めるとか。そういう現象をスケール効果と呼びます。

三木 また、そればかりではなく「小さいことそのもの」が非常に良くて、例えば持ち運びができたり、身体に埋めこんだり、針をつけたり、色んなことができます。そういうのをうまく利用して、三木研ではこれをICT(Infomation Communication Technology)――情報技術とか医療に応用しようということをやっています。

●三木研究室の取り組み

三木 ICT分野では例えば視線検出があります。眼鏡のレンズの上に透明な光センサーをパターニングしてあげて、これで目からの反射光を読んであげる。そういう風にすると黒目の反射光って白目の反射光より弱いんです。黒色なので。そうすると素子の出力を比べてあげることで、目がどこにあるかというのがわかる。非MEMSの視線検出装置にも非常にいいものがたくさんあるんですけども、MEMSによる視線検出の大きな特徴はカメラを使って目の動きを取るわけではないので非常に軽量だということ、消費電力が小さいということです。Googleグラスだったり、ほかのなにかにくっつけることもできるかなと考えています。

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三木 あとは脳波を測る電極も作っています。これには非常に小さな針がありまして、その針が皮膚表面の角質だけ貫くようにできています。実は脳波を取る時になにが一番問題かというと、角質が大きな電気抵抗を持っているんです。それを普段は削って取るんですけども、その代わりに刺すという形です。削った場合は半分くらい削ってそこに導電性のジェルをつけて測るんですけど、そのジェルが非常に不快なんですね。あと乾くと剥がれなくなる。そういうものが要らずに測れるというのが大きな特徴です。脳波検出って例えばアルツハイマーの検出だったりてんかんの検出だったりとか医療の診断によく使われるんです。その時に不快なものがないとか、長期間ずっと使えるといったメリットがあると非常にいいかなと。

三木 あとは医療関係で将来的に人間に埋め込めるような人工腎臓を作ってしまえないかとか(ナノ多孔質膜とマイクロ流路を用いた埋込型人工透析システム)。腎臓はフィルタリング装置なので非常に機械的に模擬できるんです。

enmono 透析ですか?

三木 そうです。透析の代わりですね。持ち歩きタイプもあるんですけど、やっぱりインプラントした方が楽なんですよね。感染の恐れもないですし、チューブが抜けちゃうこともないですし、ということで最終的にインプラントできるようなデバイスを作ろうと。血管を模したマイクロ流路を作ってあげるとか、そういったことを考えながらやっています。

三木 これは東京医科大の菅野先生という方と共同研究しています。2009年頃にフィルターのデバイス自体は作ってあったんです。ただ、我々だとそこまでしかできないよね、とちょっと放置していたら、その当時慶応の医学部にいらっしゃった菅野先生が興味を持ってくださって、そこからいよいよ実用化しましょうと。
三木 現在は実際にラットには繋いでいて、これからラットに埋めこんだりとか、違う動物に埋めこんだりしようということをやっています。そうすると血も使わなくちゃいけないし、動物も使わなくちゃいけない。今私のところの学生はラットの手術ができるようになりました。機械工学科なんですけど。

enmono 機械工学科と医学部が手を組んで、いずれ医療機器メーカーなども……。

三木 そうですね。ただ医療系のデバイスって安全性・信頼性大事じゃないですか。そうすると医療機器メーカーは今のところ手を出せなくて、まだ静観されてます。我々の目論見としては、こういうのをパッとやったら、どこかの企業が興味を持ってくれて、そっちのお金で共同研究しようと思っていたのがなかなか手を出してくれない。そうすると結局自分でやらなくちゃいけないんじゃないのと。

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enmono そうすると研究予算が必要になりますね。

三木 研究予算も例えば獣医さんにお願いしてこういうのをやってもらうとお金がすごくかかるので……まぁクラウドファンディングまではいかないですけども、こっちもそういう意味ではやり方を考えなくちゃいけないかなと。

●「技術をなにに使うか」を考えたい

enmono 僕のイメージのMEMSっていうと金属の非常に細かい加工をずっとやっていらっしゃるのかなと思ったんですけど、かなりアプリケーション寄りのことをやってらっしゃるなぁという印象が強くて、ほかのMEMS研究者の方もそういう感じなんですかね。

三木 まだそこまでこの動きが普及しているわけではないんですけど、個人的にはこれからMEMSの分野も、より応用の方へ行くのかなという気がします。というのは基本的な加工技術が蓄積されて、結構色んなことができるようになってきているんです。なので、今度はその技術をユーザー側に渡すことが大事かなと。

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三木 実はここにはちょっと書いていないんですけど、マイクロタス(μTAS)とかラボナチップ(Lab On a Chip、別称ラボチップ)と呼ばれるもので、例えば血液をポタッと一滴垂らしたやつをうまく流路を操作してあげて、この上だけで検査してあげる。Laboratory On a Chip――チップの上の研究室――みたいなのがあって、それも最初は流路を彫る微細加工技術が必要だったり、そこに入れるポンプを作ったりという研究をやっていたんですけども、5~6年前からですかね、我々の属する機械学会にどうもお医者さんや生物屋さんが増えてきまして、NEEDS(ユーザー)側の視点が入ってきました。それまで学会はSEEDS側の成果発表の場だったんですが、これからは「どう使われるか」が重視されるようになっていくと思います。

enmono 先生の最近のご関心はどういう方へ?

三木 (研究室で取り組んできた)視線検出とか脳波の研究は、だいぶ技術として確立してきたんです。「技術はできました」「じゃあ今度はそれをなにに使いますか?」というところに最近の関心は向いています。実は今JSTの『さきがけ』というプロジェクトがありまして、そこで「情報環境と人」というグループに属しています。まぁ今年で終わっちゃうんですけども、そちらにはユーザー側の人が多くて、そういう意味で「こういう風に使えないか」とか「こんな機能はできないか」とか、そういうお話をたくさん聞けるんですね。
三木 せっかくこんな技術を持ってデバイスを作ったので、「なにかに使う」ということを今は重点的に推し進めています。特に医療。視線とか脳波って非常にメンタルに関係があると思いますので、人のメンタル状態をモニタリングできないかとか、そういうところに活路を見出したいなと。最近、そういうデバイスを使って人のメンタル状態を把握するという動きが少しずつ出てきていると思うんですよね。

enmono そうすると前野先生と少し近いところに。

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三木 一緒にプロジェクトを起ちあげようとトライしたこともあります。基本的に私は技術的なところで貢献できればなと思っています。
三木 いわゆる幸福学であるとかGoogleが採用しているようなマインドフルネスというデータが採りにくいもの、特にソーシャルにインパクトを与える手段がよく見えていないものに関して、こういうデバイスでその人の状態やリラックス度をきちんと計測することができれば、概念とデータ両方が積み上がっていって幸福学やマインドフルネスを定量化していくことができる。それは意味のある研究になるんじゃないかなと思います。僕もそういう領域に興味があるので、非常にわくわくします。

enmono 色々研究を拝見しているとビジネスとして可能性のありそうなものがいくつもあります。

三木 そうですね。ただ、マーケットをどう考えるか、私はそんなことを偉そうに言う立場ではないんですけど、例えば脳波電極みたいなものはデモをすると皆さん非常に好意的で「ほしい」とは言ってくださるんです。でも市場でそれを「ほしい」という人がいったい何人いるんだろうか。学会では5人くらいいます。それを単純に世界の人口倍したら……ということにはならないですよね。ただやっぱり必要とされるところはあるので、それに対してどのようにアプローチするか。あとやっぱり我々の技術っていうのはこういう微細加工の一部なんですよね。それをシステムとして使うとなると非常に大変だと思います。
三木 例えば視線検出だったらセンサー部分だけやってたんですけど、それを実際に信号を取ってきて実験してデータを取るとなると、周辺機器も開発しなくちゃいけなくなる。それは大学で全部できるかというと、そうではない。

enmono そういうところでシステムデザインマネージメントが必要になってくるんですね。

三木 まぁ、アレ(SDM)はずるい名前ですけどね(笑)。

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enmono ずるいですか(笑)。

三木 なんでもアリになっちゃうので、なかなかずるい名前です。

enmono 仮にドクターの誰かが先生のホームページを見て、この技術を使って起業したいというアプローチがあった場合、どういう流れになるんですか?

三木 その場合、本当に具体的な事務手続きは別として、まずお話を伺って、いけそうだったら技術供与するという形で。共同研究契約を結べばアドバイスができると思います。これまでは研究をやってきましたけど、慶応に来て10年くらい経ちましたので、そろそろプロダクトもほしいなと思い始めているところです。

enmono 皆さん、ぜひこの素晴らしい技術を使っていただいて、共同研究・事業をしていただければと思います。

●日本とアメリカのポスドクの違い

enmono この放送が始まる前に雑談をした中で非常に面白かったのが、日本の博士課程の現状についてのお話です。ドクターコースに入るのは以前より簡単になったんですけど、なかなか研究テーマが右往左往して卒業に至らなかったりとか、あるいは卒業しても就職先が見つからないみたいな、そういうポスドクの方も多いと思うんですが、先生の感じていることがもしあればお願いします。

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三木 非常にステレオタイプな言い方をすると、ドクターの学生っていうのは一つの専門分野に対して非常に深い造詣を持っているけど、逆にそれ以外では融通が利かないという話がとても多いと思います。だからこそ企業も雇うのに二の足を踏む。確かにそれもそうかもしれないんですけど、例えばアメリカは超学歴社会なんですよね。日本は学歴社会と言われている割には全然そうじゃない。アメリカだとどこの大学のどういうPh.DやMBAを持っているかで給料が決まるんです。日本って初任給全部一緒じゃないですか。どこの大学出てても。なのでその時点で学歴社会じゃないんです。アメリカではPh.D出ると給料がもう倍くらいもらえるんですね。それも保証されているような形になっています。

三木 なんでアメリカのPh.Dがそれだけリスペクトされるか、もちろん給料がいいから優秀な人がみんなそれを取りにいくのでというのも一つありますけど、結局日本の会社ではPh.Dは使いにくいと言われていますけど、アメリカでもPh.Dだけどその分野の専門性を活かす仕事だけじゃない時も多いんですね。要はPh.Dというのはアメリカだと5年、日本だと3年くらいかけて自分のプロジェクトを持って世界のどこもやられてないところの問題を発掘して、それを解決するための方策を考え、スケジューリングして、エグゼキューションして、最後発表する、まとめる。仕事でもなんでもそうですよね。PDCAサイクル、普通のことです。そのプロジェクトを自分で3年間やり遂げられる人っていうのがドクターなんです。

enmono メンタルタフネスとマネージメント能力と実務能力というところを評価する。

三木 そうです。アメリカでは「君はこの分野でPh.D持っているけど、この大学でPh.Dを取れたということは、それなりのスキルを持っているはずだから、ぜひ雇わせてください」ということは多々あります。なので、そういう誤解をまず解いてほしいのが一つ。実はそれに関して思うところが最近あって、結局一つのことばっかりやっているからもっとほかのこともしなくちゃダメだということで、例えばマイナーコースを持たせるだとか、時々インターンに行くとかですね、そういうことを博士課程の間に――。

enmono 日本の?

三木 あ、日本のですね。やらせたりするんですけど、結局全部中途半端になっちゃうんですよね。だから3年間は研究する。で、MBAを取りたい人はプラス2年間でMBAを取りなさいとか、インターンしたい人はPh.Dに入る前後に行けばいいとか。

enmono 日本の博士課程はインターンもやらなきゃいけないということになってるんですか?

三木 最近そういう流れになっていますね。おまえら本当に研究室にばっかり閉じこもりで世の中わかってないから行ってこいということをよく言われて、インターンを入れるというのは多くのプログラムであります。それでいいと思うんですけど、本分の研究はしっかりやってほしいなと。アメリカはドクターに入るためのクオリフィケーションって結構厳しい試験があります。その試験を通ると実はいつでも入れるんですね。だからマスターを出た後にクオリフィケーション通っておいて、その後2年くらい企業で働くという人も多いです。学費も生活費も貯まるしということで。

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enmono ポスドクの方って起業はされないんですか? 課題設定してソリューションを提供できるっていうプロセスを経験していると、起業できるのではないかと。

三木 いきなり起業は無理です。

三木 アメリカにいる時にMITでハイテックスタートアップという授業を取りました。将来ベンチャーを起こす時にどうすればいいかというのをベンチャーキャピタルの人が来て講演してくれるというものです。そこでは「スタートアップをするのに、まずは大企業へ入れ」っていうんですね。大企業に入ってマネージメントを学ぶ。その後、中企業、小企業に入って、最後にベンチャーを自分でやる。要はちゃんとそういうのを学んでいきなさいということで。ポッとやるなという話です。

三木 ドクターの得意分野はマネージメントではない。大事なことは経営を支えるCEO、CFOを揃えることです。日本に足りないのはそういうチームだと思うんですよ。アメリカだとVC(ベンチャーキャピタル)にそういう人がいますので。

enmono VCにいるんですか?

三木 VCがチームを探すんですね。なんとかさん呼んでこようかみたいな。

enmono 純粋な金融ではないということですか?

三木 VCは経営からなにからすごく口を出します。お金は出すけど口も出して、みんなでハッピーになりましょうっていうやり方なので。そういうのがあるとやりやすいですよね。日本でも最近はそういうVCも出てきて、流れもできてきていると思うので、それが増えていけば……。ただ、博士・ポスドクに社長やって起業しろっていうのは無理です。それはムチャクチャですよ。これまで勉強ばっかりやってきた人が、いきなり野球選手になれみたいなところがあるので、ちょっとそれは厳しいかなと思います。

●日本のモノづくりの未来

enmono まだまだお話は尽きないですけども、一番最後の質問ということで皆さんに伺っているんですけども、日本のモノづくりのこれからについて、先生の思うところがあればぜひ大上段から。こんな風になってほしいなぁ、というのがあれば。

三木 はい。モノづくりっていうとどうしても製造技術っていう風に日本では考えられるのかなと思うんですよね。ただ、やっぱり製造技術だけだといくら高い技術があってもそのうち追いつかれます。例えばAppleって携帯電話でバカバカ儲けてますけど、日本の部品メーカーがほとんど支えてるわけです。でも(日本は)なかなか儲からない。Appleが儲けている。だから、モノづくりの意味をもう少し広げていく必要があるかなと思います。

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三木 デザインという意味が昔は図面や機構の設計だったものが、システムだったり仕組みだったり社会の影響といった大きなものを含めてデザインという風になってきました。モノづくりもそういう風に変化していくべきで、製造技術も基盤としては必要なんですけど、それを使ってどういう風に社会を作っていくかというところまでを考えるのがこれからのモノづくりかなと。

enmono システムデザインですね。

三木 ですね。SDMに行きたいわけじゃないんですけど(笑)。やっぱりデザイン・全体を考えなくちゃいけなくて、この前日立の方とお話しした時にBtoBとかBtoCとかありますけどこれからはBtoSだと。

enmono Sとは?

三木 Societyですね。ビジネス・トゥ・ソサエティ。社会全体を変えていくんだということをお話しされていました。

enmono 素晴らしい。

三木 なので技術をベースにして、そこから社会まで考えたことをやらないと結局おいしいとこ全部持ってかれちゃうぞと(笑)。人類や社会全体の幸せを考えたモノづくりをやっていく必要があるかなと思っています。

enmono 先生の研究室の学生にも常にそういうことを仰ってるんですか?

三木 言っているつもりです(笑)。

enmono 社会全体のことを考えて、その中でこの技術がどう使えるか考えていってほしいというのが、先生の願いでもあると。

三木 はい、そうです。

enmono 非常に稀有なご縁をいただきまして、このような場を設けていただき、ありがとうございました。

三木 ありがとうございました。

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