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読書感想文「終わらざる夏」浅田次郎

終わらざる夏の読書感想文です。

終わらざる夏

読書感想文

終わらざる夏 読了
著者は、今や国民的大作家と呼んでも差し支えなさそうな存在となった浅田次郎。
私にとっては初浅田次郎だ。

第二次大戦末期の占守(シュムシュ)島の戦いを題材にしている。

さすがに文章がうまい。占守島の自然の描写も美しいし、人物が多数登場する群像劇でも全ての人物を無理なく描き分けている。
構成力も卓越している。物語のクライマックスへ向かって、バラバラに撒かれた話の欠片が収束され組みあがっていくさまは、実に見事。

ただ、私は作品に入り込めなかった。上で述べたように客観的に優れた作品なのは間違いないのだが。
以下微ネタバレ。
終盤、視点が突然ロシア兵に憑依するのがどうしても違和感がある。
しかもそれが終盤を盛り上げるための伏線というか踏み台なのがあまりにも見え透いてしまっていて、どうにも感動の押し売りで白けてしまった。
ここだけが気になった。
先ほど話の欠片が収束され組みあがっていくさまは見事と述べた。
私としてはこのパズルのピースを無理やり力で嵌めている部分があるのではと感じてしまったわけだ。
映画化したら力技を映像美でごまかせそう。やってみたら面白いかも知れない。

その後のシベリア抑留まで描き切っているのは素晴らしい。人は極限状態で死に絶えるものの、最後に翻訳家の原稿が残る演出もクサいが良い。

占守島の戦いについて

書評から離れて占守島の戦いについても。
令和の日本に生きる私たちはしばしば忘れてしまうことがある。
国境とは当然に確定しているのではなく流動的で、先祖の血によって贖われ、私たちの不断の努力で保たれているものということだ。
一説によると、スターリンは北海道の半分まで占領する予定であったという。
樺太と千島列島から南下して合流すれば北海道の半分になる。ありえない話ではない。
もし、占守島の部隊が一切抵抗せずソ連兵を素通りさせていれば、現在でも北海道の一部がロシア領だった可能性は十分にある。
天皇の敗北宣言後に、あえて祖国のために戦った者たちがいたことを、彼らの想いを、知っておくべきだろう。

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