最後の弾丸は誰を撃つ
「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」
「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」
「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」
尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。
実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。
というより……受けられないのだ、本当は。
「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」
「それでは困る。この街で一番のガンマンはお前だろう」
「それは、そうだが」
「断るというなら、敵に回る前に始末する」
「……あー、そう」
溜め息を吐く。こういう態度には慣れていた。
男の両脇を固める護衛が懐に手を伸ばす。
だがその時にはもう、ジュードの拳銃は火を吹いていた。
「っ!」
「壁の穴、いい加減直さないとな……」
弾丸は、男のすぐ後ろの壁に突き刺さる。
壁には、同じ経緯で出来た穴が無数に空いていた。
「一つ疑問なんだが……俺より強いと勘違いしてるなら、自分でやれば良くないか?」
「……流石だな。伝説も錆付いてはいないか。安心したよ」
「安心? まだ俺に依頼する気か」
「受けるか、百人撃ちに再挑戦することになるか、だ」
言いながら、スーツの男は一枚の写真を卓に置く。
百人撃ち。ジュードが十年前に生み出した伝説。
「……冗談じゃない」
それを持ち出されては、彼も写真を受け取らざるを得ない。
あんな事、もう二度と御免だからだ。
「……よほど重大な相手なんだろうな」
「あぁ。この街の勢力が一気に変わる」
写真には、可憐な少女が写っていた。
「クローディア・オルブライト。この街の、次の支配者候補だ」
「そりゃ、また……」
厄介な事になったな、とジュードは嘆息する。
殺し。しかも相手は少女。断れば死。何の嫌がらせだ。
ジュードは十年前のあの日から、ずっと……
*
「驚いた。女の子一人殺せないの?」
クローディアは、落胆の表情でジュードを見下ろす。
「いい加減死ねると思ったのに」
【続く】
サポートしていただくと、とても喜びます! 更に文章排出力が強化される可能性が高いです!