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刀鬼、両断仕る【後書き】

先日、私こと螺子巻ぐるりの魔剣小説『刀鬼、両断仕る』が最終更新を迎えました。完結!およそ9万7千文字!

https://note.com/zenmai/m/mcf44984b7c3d

あと3千文字どうにかならんか。
いや、実際のところ10万字になったからといって何が変わるわけでもないのですが。気持ちは良いよね、10万字。この後書きを合わせて10万文字到達とさせていただこう(卑怯卑劣)。


というわけで、後書きです。
この記事では、私が「刀鬼」を書く際にどのような事を考えていたか、などを書き残していこうと思います。

腹の内を色々と明かすので、中にはマイナスな情報も含まれているかもしれません。読後感というか、面白かったぜ!という気持ちを一切崩したくない方には、あまりお勧めできないかも。
当然の事ながらネタバレもかなり含まれているので、その辺りご了承の上でお読みください。


刀鬼、なぜ書いた

まずはここから。

こちらの小説、元は逆噴射小説大賞2019の応募作の一つです。
この賞は、より長い小説の冒頭800文字を募集する極めて珍しい賞でして、そのハードルの低さや、応募作への目の通しやすさなどから、半ばお祭りのように楽しまれていました。

私もこのお祭り的賞を楽しみ、賞を狙いつつも気軽な気持ちで参加した一人です。結果として、5作投稿した内の1作のみが2次選考を突破、後は落ちました。刀鬼は落ちた方の作品です。

……。
じゃあ通った方書けば!?

なんてツッコミがあってもおかしくないのですが、そこはそれ。
通った作品も後に書くつもりで、一旦は優先してこちらを書くことにしたのです。それはなぜか。

練習です。

私は以前からちょっと……創作で悩んでいた部分があって……
どうも螺子巻作品、キャラクター性が弱いのでは……? みたいな……
地味というか……パッとしないキャラ多いよな……なんて……

なもんで、刀鬼という設定を通して強いキャラを作ろう!と意識して書き始めたのがこちらの作品だったわけです。

結果はどうだったか?
感じ方は読者様によって違いましょうが、作者自身としては「勉強になったぜ」という気持ちです。糧になった。良くも悪くも。

キャラクターの良さって何か。
どうしたら読者にそれを伝えていけるか。
そこの所の難しさを再確認した、と言いましょうか……
書き始めたら、すぐにデカい障害にぶつかったんですよねぇ。

無粋の事が分からない

はい。
「刀鬼」の主人公は、刀鬼に憎悪の炎を燃やす復讐者系主人公無粋くんだったのですが、書き始めたらどうも、作者である私にもこの無粋という青年の事が……よく分からない……

どうしてそういう事が起きるのか?
自分で作ったキャラなんだから、分からない筈がなくない?

それはそう。書いて書けないわけじゃないんです。
でも、事前に作った設定と、それに合わせて作ったプロットが噛み合わない。描写される状況が想定と違う。あれ、もしかして無粋くん……復讐者じゃないのでは……!?

実際に書き始める前、逆噴射時代の無粋君の設定は、おおむねこんな感じです。

・無粋な男。
・ムカつかない程度に空気を読まない
・ノリが悪く、剣客の誇り的なものはまるでない
・刀鬼を否定する存在である=剣客ロマンを持ち合わせない
・しなやかで強靭な筋肉の持ち主
・刀鬼によって村を斬り滅ぼされ、唯一生き残った
・その際に刀鬼に戦いを挑んだが、相手にされず
・良き刀鬼となって出直せと言われるが、刀鬼にはなりたくない
・そんな中、妖刀の類の噂を求めて旅を続けていた無粋
・ある刀工が、狂気に陥り生み出した『駄作』として無粋に出会う。
・その本質が刀を砕く事であると見抜いた無粋、刀鬼を討つため無粋を握る
・無粋は本名ではない。
・己は既に死んだ身であり、生きるとしたら刀鬼を滅ぼした後である。故に名も無粋。

大体の部分は本編の描写と変わらない筈です。
なんだけど、実際に書いてみると無粋くんの精神に全然余裕がない
設定の一番上の「無粋な男」っていうのが、このキャラクターの想定されていた運用でした。恰好を付けて美学を語る刀鬼に対し、それを相手にしない男。天然気味に相手のペースを崩す真面目な青年。みたいな。
でもね……それをやろうとすると、無粋くん一気に相手の事を全否定する口調のキツイ男になっちゃって……ガンヴォルトのアキュラ君みたいな……
で、流石にそれだと読み味が悪いってことで相手へのキツイ発言が出ないように調整したら、今度は相手の話に全く乗らなくなってしまった。

なんでそんな事が起こるのかというと、無粋くんの生い立ちに気持ちの余裕を生み出すフェイズが一切存在しなかったから。
幼い頃に刀鬼に村滅ぼされて、その後ずっと戦いの中。特に師匠とか仲のいい人間とかもいない。孤独。敵の事だけ考えて生きている。……余裕、出ないねぇ……

そこの所を見誤っていたので、序盤は書きながら「この子、大丈夫なのか?」ってずっと思ってました。大丈夫じゃなかった。

精神が常に限界だから、あっさり自分の命を消費していくんですよね、この子……もっとこう、あの手この手で相手を切り崩すキャラだと思ってたんだけど、相討ちでも何でもいいから潰すになっていてビビったよね……

そうなってくると、作品のテーマ部分にも影響が出てくる。
元々刀鬼のオチって、「力も使いようだよね」くらいのノリだったんですよ。強い力でも使いようによっては善であり、悪である。超越刀を使うからって悪い刀鬼だとは限らない、みたいな。
これも概ねは似た感じになってたんですけど、無粋くんがあっさり死にかけた結果、鞘を使わざるを得ない状況になり、使ったら使ったでゲロ吐き始めたので、めっちゃ迷いました。このあたり、話の流れは決まっているのにちゃんとオチに辿り着けるか心配なまま書いていた。無計画というか、無粋くんへの見誤りですごいことになっていたというか……

実のところ、本当は鎧袖戦で鞘を使う予定、無かったんですよ。
荒刈との再戦辺りで使う予定だった。でもこの辺は結果としてあの状況になって良かったと思います。荒刈くんがいたから……

荒刈という正解

第二話から登場し、無粋のライバル的ポジションに座る刀鬼、荒刈くん。
荒刈くんは元々、無粋の反対側にいるキャラを作ろうと思って生み出したキャラクターでした。

重量パワー型で刀鬼に幸福を奪われた無粋。
軽量スピード型で刀鬼が幸福の理由な荒刈。

これを序盤で対峙させることで、刀鬼に対する是非というテーマを一旦出しつつ、関係性を生み出して終盤での戦いを盛り上げる、という予定でした。

これは、それなりに上手く行ったのでは……と思ってます。
荒刈くんのキャラ性が、どうにか無粋くんと嵌ってくれた。

荒刈くん、無粋のことめっちゃ嫌いなんですよ。
他の刀鬼はなんて言うか、「苦手だなコイツ」程度で収まるんだけど、荒刈くんにとってだけは無粋は自身の在り方を全否定するクソ野郎なんで、積極的に突っかかっていける。

逆に言うと、他の刀鬼はみんな自分の世界に生き過ぎていて、無粋くんみたく積極的に関わらないキャラを相手にすると、戦いながらもお互いのこと全く見ないんですよ。「必要だから殺す」以上の感情が生まれてこない。ちょっと勿体ないですよね。

【和葉】では、和葉と村人や真波との描写を入れてバランスを取りましたが、和葉と無粋の関係性は無です。同じように、鏡鳴と無粋の関係も無。お互いに違う世界に生きていると実感し過ぎていて、諦めている。

荒刈くんはそこのポイントを埋められる存在で、荒刈くんとの関係を仲介にして天宿にも文脈を追加出来た……と、思っています。あんまり書けなかった『天刃』たちの関係性も、荒刈くん視点でちょっとだけ書けたし。万能だなぁ荒刈くん。

あとこれは私個人の部分なのですが。
劣等感を下敷きにしたキャラはめっちゃ書いてて楽しいです。
荒刈くんは私の趣味の真ん中を突き抜けたキャラだったんですね。

刀鬼たちについて

ちょっと反省しているのは、「刀鬼」という存在、分かりにくいのでは……?という点でした。

刀鬼とは何か。
その在り方の基本形は、第一話【柳義】で一応示しています。
自身の目標の為に人殺しを厭わない。人の価値を下に見ている尋常ならざる剣士。でもそれって精神性の話で、精神性を基にしたキャラ付けってちょっと……分かり辛いのでは……? もうちょっとはっきり、残虐カタナ怪人みたいにしても良かったのでは……? なんて、思う所もあります。

もちろん、刀鬼が残虐カタナ怪人だったらこの話の読み味はもっと変わっていたでしょうし、現状の刀鬼たちは出てこなかったかと思います。でもエンタメ性で言ったら残虐カタナ怪人の方が……残虐カタナ怪人、口にしていて楽しい単語だな……

まぁそうはならなかったので、刀鬼という概念の説明にかなり時間を要してしまった気がします。

第一話では、大枠を示しつつ強さの異常を。
第二話では、テーマを示しつつ形状の異常を。
第三話では、能力の幅を示しつつ精神の異常を。

『破門』『刻角』『燕女』の三種類の刀と刀鬼を用いて計画的に説明した、つもり、なのですが、どうなんでしょうね。長くなかったか、と言われたらなんとも言えない。一話目で真波と荒刈を出して、二話目で刀鬼概念の刷り込みを完了するくらいの方がペースとしては正しかったかも、とか思ったりするわけです。そうはしませんでしたけど。

ちなみに『狗神』にも、獣モチーフの荒刈くんの最終形態であると同時に、『覚醒龍鱗丸』への助走という目的がありました。抜いただけで獣へ変貌する刀があるなら、抜いただけで神へと変貌する刀があっても良いよね、っていう。最初から龍神を出すとインフレが凄すぎるよね、っていう。

ところで……

天宿の刀『薄明』の効果、本編では説明していませんでしたよね。
ここでネタバラシすると、『薄明』の効果は光ることです。
常に光ってるから、剣が見辛い。だからちょっとだけ避け辛い
それだけです。それだけの能力で天宿はここまでやってきました。
もちろん、無粋くんにも龍神真波にも全くその効果は発揮されていなかったわけですが……

えっ、『破門』の効果ですか?
ありませんよそんなものは。アレはただ切れ味が異常なだけのスタンダードな超越刀です。それでも相手が無粋でなければ……例えば荒刈や和葉辺りが相手なら、柳義さんが勝つ見込みが強い。
相性が悪すぎたのです。天宿と同じように。

『生奪剣』との関係について

この作品をお読みになる前に、私の短編『生奪剣』をお読みくださっている方も多いと思います(観測圏内ほぼ100パーセントだ!)。

そうすると、『生奪剣』と『刀鬼』、かなり似ているのでは?と思う方もいらっしゃるのではないかな、と思います。

『生奪剣』の主人公、無縁。
『刀鬼』の主人公、無粋。
国を追われた少年、飛丸。
国を追われた少年、真波。
永遠の命を齎す刀、『無尽』。
あらゆる傷を癒す鞘、『龍鱗丸』。

テーマ性やキャラの中身は全然違うにしろ、かなり下敷きにしてる部分があるのは事実です。というか、『生奪剣』の時に練習として使った土台を、長編で活かしてみたかった……という気持ちがあり……これもまたプラクティス……

ただ、世界観的な繋がりは一切ありません。
無縁のいる世界に無粋はいない。
というより、『無尽』が生まれた世界では『刀鬼』が生まれない。
究極にして最強の刀が既に存在している以上、その世界はより強い剣を生み出す方向に進めないのです。何を言っているんだお前は。

何かの間違いで『無尽』が刀鬼の世界に落ちてきたら、多分あらゆる刀鬼はそれを目標にしますし、いずれ『無尽』の持ち主があらゆる刀鬼を狩りつくして刀鬼という概念を呑み込みます。

まぁ、そういう事です。
究極が未だに存在しないから刀鬼たちはそれを求めている。
明らかな答えがあったなら誰も模索しない。それだけのことです。

これから先

語れることは大体語れたでしょうか。
質問などあればお気軽に、ここへのコメントかTwitterの方にお寄せください。答えられる範囲でお答えします。

そうそう、書こうと思いつつタイミングが無かったので急に書きますが、風芳の読みかざよしです。あと天宿あまやど。他は……大丈夫ですよね、多分。

というわけで、『刀鬼、両断仕る』はこれにて終幕です。
需要があれば有料ノートで刀鬼の過去編とか後日談とか出しても良いかな、と思うのですが、現状だと特定個人への狙い撃ち感が強すぎるので予定が無いです。普通に無料公開すればいい話ですが……作業を圧迫してしまうので……今のところはね……?

今後、しばらくは公募小説に集中しないといけないので、noteでの小説更新はおやすみになります。たまに感想記事とか出せたらいいな、みたいな状態です。しかしまぁ、四か月よく頑張ったぜ私は。自分で自分を褒める。


『刀鬼、両断仕る』に長らくお付き合いいただいた読者の皆様。
これから先『刀鬼』を読む、という方々。まだ読んでないけど後書きだけ読んだ、という奇特な方々。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
良かったら『刀鬼』の感想、聞かせて下さいね!



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