見出し画像

金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」

 彼の声は、脳に直接響いてきた。
 軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。
 悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。

「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」
「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」
「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」
「……馬鹿にしている、のかしら」

 溜め息が出る。馬鹿にされるのは嫌いだった。
 叶うのならば、この悪魔の宿った拳銃を、井戸の底にでも放りたい気分。
 けれどそうしないのは、この悪魔よりも許し難い存在が、この世にいるから。

「ま、数が欲しいのは分かるぜェ。けど契約はそれだけだ。テメェの親父が生きられたかもしれねぇ年月は、全部合わせても五発分にしかならねぇんだよ」
「……そう。なら、私の命なら?」

 グリップを強く握り、尋ねる。
 父の命が五発になったのなら、私の命も差し出せば。
 けれど、私の問いに悪魔が寄越した返答は、私の期待と違っていた。

「ダメだね。親子揃って食い逃したくねぇから」
「私が死ぬと思っているのかしら」
「死んでもいい、とか思ってるだろ、アンタ?」

 だからダメだ、と悪魔は繰り返した。
 父のように、魂を取る前に死なれては弾の作り損だから、と。
 そう言われては、私もそれ以上要求出来ない。
 踏み倒す前提の契約なんて、アークライト家の名が泣くだろう。
 例え、その相手が悪魔であろうと。

「良いでしょう。使える弾は五発。それだけは確実に当たるのね」
「悪魔ザミエルの名に賭けて、なァ」
「分かりました。……では、行って参ります、父上」

 頷いて、私は父の遺体の傍に膝をつく。
 全身に弾丸を撃ち込まれ、あの優しかった顔立ちは見る影もない。

(きっと怒るでしょうね、お父様は)

 奴らを殺しに行くと聞いたなら、血相を変えて止めるだろう。
 そんな事は望んじゃいない、お前は逃げて生き残れと。

(けれど、私も怒っているのよ……お父様)


【続く】

サポートしていただくと、とても喜びます! 更に文章排出力が強化される可能性が高いです!