激推し!手塚治虫に憧れた少年の衝撃体験記!矢口高雄先生の手塚愛にまみれた傑作!「ボクの手塚治虫」
白眉です。
手塚治虫への想いを描いたマンガは数あれど
これはちょっと次元が違います。
手塚治虫に憧れた少年の自伝であると共に
天才手塚治虫のリアルな姿を描き出した会心の作品であります。
著者は「釣りキチ三平」で有名な矢口高雄先生
とても絵柄からは想像できませんが紛れもなく矢口先生は手塚治虫に憧れ漫画家になった一人。
今回はそんな矢口先生の手塚愛に溢れた至極の自伝をたっぷりとご紹介いたしますのでぜひ最後までお付き合いください。
本作はタイトルが示すように矢口先生の自伝であるとともに
憧れた手塚治虫への愛にまみれたマンガです。
秀逸なのは単なる手塚治虫の伝記をなぞるだけの物語ではなくて
一人の少年が漫画家に憧れて成長していく体験記を通して
戦後の田舎の暮らしや社会情勢、人の考え方や価値観など当時を知るための貴重な資料に匹敵する内容になっていることです。
戦後の辛く厳しい社会情勢を描くと、どんよりしたものになりがちですけど
本作は非常にカラリとして希望に満ちた明るい作品になっています。
それは「手塚マンガ」に見せられた少年の狂おしいほどの前向きさにあります。ただひたすらにマンガを読んでいるだけのマンガなのですが
これが最高に心が揺さぶられます。
ひたすらにマンガを読んでいる姿に心打たれることってあります?
ガムシャラに貪付くようにマンガを読んでいる姿に面白さを感じます?
…それがビシビシに感じられるのがこのマンガのすごいところなんですよ。
同じように手塚治虫を神格化させた胸アツ青春マンガに「まんが道」がありますが似ているようでアプローチとテイストが少し違います。
「手塚マンガ」との出会いで目がくらむほどの衝撃を受けるのは「まんが道」とさほど遜色はありませんが矢口少年の場合、超絶な田舎暮らしであることが異なります。
秋田の山奥の村ではまだ「マンガ」という言葉もなく「ポンチ絵」と呼ばれていたそうでマンガに触れることすら貴重な時代でした。
そもそも戦後復興で貧しくマンガになんぞ、うつつを抜かしている場合ではない過酷な状況で初めて「手塚マンガ」に出会うのです。
その時の衝撃を本編では
「車と正面衝突したようなショック」と表現しています。
この時の衝撃は「まんが道」はじめ多くの漫画家さんたちの証言がありますがこの矢口先生の衝撃描写はハンパありません。
まず圧倒的画力からくる圧倒的リアリティ
そして確かなマンガ力の高さに震えます。
あたかもその世界で追体験させてくれるような息遣いを感じさせてくれる見事な描写、構成はぜひ読んで体験して欲しいです。
「手塚治虫はすごかった」
そう一言聞いてもリアルタイム世代以外の人にはその凄さがイマイチ伝わりませんがこのマンガにはその時の感動が手に取るように伝わってきます。
それは当時の世相や田舎に暮らす人々の確かな姿が克明に描かれているからです。
雪かきしたり、雪下ろししたり秋田の山奥で子供たちが雪の中でたくましく生きる姿が事細かく描かれており一見すると手塚治虫とは全く関係ない事なのですが、これらがあることでよりその感動が際立ったものになるんです。
矢口先生の少年時代では資源不足で紙が不足していて
トイレットペーパーの代わりがテストの答案用紙だったりする
過酷な生活環境でした。
そんなある日母方の実家にいくとトイレの紙に手塚マンガが使われていて
感動して奪って逃げかえったという破壊的に面白いエピソードがあります。
自分が憧れて読みたかったマンガで他人がケツ拭いてたって
そんな事あります?
マジでマンガみたいなエピソードが最高すぎます。
ほかには手塚マンガに惚れこんだ少年はどうしても手に入れたいがために
山仕事のアルバイトで荷物を背負い町まで2キロ歩いたり
とにかくたかがマンガ本一冊手に入れることが容易ではないんです。
そしてようやく手に入れた二冊目の手塚マンガ「メトロポリス」で完全ノックアウト。
まさに初恋相手のように恋焦がれ手塚治虫に夢中になります。
憧れて憧れて少年が好きなものに夢中になる姿。いいですね。
「まんが道」もそうですが熱量の高いマンガは読者の胸を打ちます。
抑えても抑えきれない衝動
めちゃくちゃ分かります。
ボクも小さい頃ひたすらに虎の子の一冊をしゃぶりつくすなんてことありましたから好きなマンガに熱中した少年時代の興奮が呼び起こされます。
今の50代以上の方なら夢中で一冊のマンガを読み散らかしていた経験は誰しもがあるのではないでしょうか。
これは飽食の時代の今、
物や情報に溢れた現代ではなかなか得られない感動だと思います。
そういう昭和の描写がしみじみ沁みるんですよね。
こういうバックボーンをしっかりと描くことで
手塚マンガを手にした時の感動がめちゃくちゃ伝わってくるんです。
もちろん同時代を生きていない世代の方にもその想いは十分に伝わっていると思います。
ボクもはっきり言って「新宝島」などの影響の大きさを知らない世代ですし
日本中を虜にした手塚熱がどのくらい凄まじかったのか分かりません。
歴史を変えうる変化って単に作品の魅力だけでなく
その後ろにある背景がめちゃくちゃ重要なのでその辺りの認識がないとただ「凄かった…」と言われてもなかなかそれを感じることは難しいです。
その点、矢口先生はこの時期の支配的な手塚治虫の影響力もしっかりと描いていますしその時代の空気感もヒリヒリと感じることができます。
初めて映画「ピノキオ」を観た件なんか最高ですよ。
あ、そうか、全く映画なんて知らない人がみたらこうなるんだって気づきがありますし、戦後漫画史という視点で見ても追体験も出来うる完成度の高い作品になっています。
何よりただただ美しい。
目を輝かせている少年たちの
キラキラとした青春がたまらなく美しいんですよね。
まさに矢口先生の自伝と強烈な手塚治虫への愛が見事にリンクした素晴らしい作品です。
ちょっとベタ褒めしていますけど
これはほんと控えめに見積もっても名作と言えます。
限りなく忠実でリアリティがあって破格に面白い
手塚ファンはもちろんマンガ好きには必読の名著です。
トキワ荘組しか知らない方にはマジで読んで欲しい
釣りキチ三平のファンなら読んで損はありません。
矢口先生の作品を読んだことない人もこれが初回でも全然OKだと思います。
ただただ心奪われる瞬間を体験してください。
実際アマゾン評価がめちゃくちゃ高いので驚きです。
レヴューも高評価なものが多いので読んだ皆さんが同じように感じて満足しているのではないでしょうか
これは手塚本の中でも自信を持ってオススメできる「手塚本」です。
「ブラックジャック創作秘話」では手塚治虫の変態伝説を
「チェイサー」では「漫画の神」を追いかける男のお話でした
本作では、未知の世界への扉を開けてくれた先駆者へのリスペクトを中心に
これまでとは異なった手塚治虫の凄みを感じるマンガになっておりますので
是非一度お手に取って読んでみてください。
ありがとうございました。
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