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ブラックジャック「絵が死んでいる」核兵器を考える…。

今回はブラックジャックのエピソードの中から
「絵が死んでいる」をお届けいたします。

この「絵が死んでいる!」は手塚先生が生涯にわたり描き続けた「反戦」がテーマとなっている作品のひとつであり
ブラックジャックの中でも他のエピソードとは
毛色の違う雰囲気を醸し出しています。

ブラックジャックが霞むほどの鬼気迫る主人公の
生きることへの執念、そしてラストに待ち受ける運命
手塚先生の「反戦」への想いが前面に出た異色作
今回はそちらを見ていきたいと思いますのでぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編いってみましょう。


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本編は『週刊少年チャンピオン』昭和50年8月18日号に掲載
「絵が死んでいる」というタイトルであります

それでは本編がどのような作品なのかあらすじを追ってみましょう。

楽園のような南の美しい島で絵を書いていた若き画家ゴ・ギャン
そこへ突如爆風が襲い、楽園が一瞬にして地獄絵図へと姿を変えます。
実はその島の近くで核兵器の爆発実験が行われており
その衝撃波が直撃してしまったんですね

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ゴ・ギャンは放射能に侵され全身が再起不能の状態に陥ります。
そこでブラックジャックが登場するも
今まで生きていたのが不思議なくらいだ、
と言われるほどに重症だったゴ・ギャン。

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「核爆発の恐ろしさを世界じゅうに知らせてやりたい」と画家として
1年でもいい半年でもいいから生きて絵を書きたい必死に訴える姿に、
B・Jは脳移植をすることで延命させることにします。


しかしそのことにより
ゴ・ギャンは納得できる絵を描けなくなってしまうんですね。

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何としても生き延びて
「あの悲惨さを絵にして残したい」といって
延命したもののその絵が描けないんです。

この後、壮絶なラストが待ち受けているんですが
果たしてどのようなクライマックスを迎えるのか。

そして最後にゴ・ギャンは渾身の作品を描き上げるのですが
その絵とは一体どのようなものになったのか。

その答えはぜひご自身の目で確認してみてください。


…というあらすじになっておりますが
言わずもがな、このゴ・ギャンのモデルは
19世紀フランスの画家ポール・ゴーギャンであります。

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ゴッホとともに後期印象派の代表的画家であり近代美術に大きな影響を与えた人物ですね。
その作風は印象派の自然主義に対して批判的であり
眼に見えない内面や神秘の世界、
理念や思想を表現したことでも知られております。

また、ゴーギャンは生粋の画家というわけでじゃなく
もともとは証券会社の社員という
異色の経験を持っている異才でもありました。

故に社会の構造の中にドップリ浸かっていたからこそ
見えていた景色があったのかも知れません。

それが理由なのかは分かりませんが
文明社会に絶望したゴーギャンは己の思い描いた楽園を求めて
南太平洋の島タヒチへ移り住みます

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しかしそこでも色々あって決して思い描いていた楽園ではないことを知り
人生最後の大傑作

『われわれはどこから来たのか
われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』

を仕上げ
亡くなると言う人生を送っております。

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「人間の根源を探求し続けた」とも言われる
この深い問いを投げかけるゴーギャンの作風は
本作のモデルとしてもまさに適任であり
同じく「人間の業」「人間とは」を描き続けた手塚先生とちょっと重なるものがあるように思えます。
どこか先生自身も同じ作家、芸術家として
このゴーギャンの影響があったとしても決して不思議ではありませんよね。

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そして本作のテーマとなっている「反戦」「核兵器の恐ろしさ」については
ビキニ環礁の事例を元にしていると思われます。

ビキニ環礁とは第二次世界大戦後の最初の核実験が行われた環礁のことで
1958年7月までの12年間に計23回もの核実験が実施された島であります。

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1974年には140人の住民が島に戻ってもいいよと許可されたにも関わらず
放射能の影響で身体的異常が多数発生する事態となり
その後の調査では「永住には適さない」と結論づけられたという曰くの島でもあります。

これは2021年現在、未だに避難した住民たちは島に戻れておらず
原島民が島に戻れるのは、早くても2052年頃と推定されており
いかに核実験の影響が凄まじいものであるかを物語っていますね。


ちなみにフランスのファッションデザイナーであるルイ・レアールが
1946年に初めて水着のビキニを発表するんですが
その名前の由来として

「その小ささと周囲に与える破壊的威力を原爆にたとえ」

ビキニと命名したと言われております。

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不謹慎かも知れませんが
ビキニと原爆って非常に危うい組み合わせですよね。
座布団2枚って感じの皮肉交じりの秀逸なネーミングだと思います。

…で時代背景的にもこのビキニ環礁の核実験の皮肉を元に
手塚先生は本編のエピソードとして盛り込み
戦争の悲惨さ、核爆弾の恐ろしさを伝えたかったのだと思います。


冒頭から核爆弾の脅威を描く描写
放射能に侵されながらも「核兵器の残酷さ」を訴える芸術家
そして残り僅かの寿命であっても「生きる」意味を問う患者

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このエピソードにおいてはブラックジャックの神業さえ霞んでしまうほど
濃密なメッセージがてんこ盛りになっています。


今回は多くは語りませんが
「絵が死んでいる」と題された本作

なぜ「絵が死んでしまった」とゴギャンは思ったのか
そして死ぬ間際にその「死んだ絵」が息を吹き返したのか
ブラックジャックの最後のセリフも参考に
手塚先生が伝えたかった「反戦」「生と死」を考えてみてはいかがでしょうか。


実はこの作品以外にもブラックジャックには
結構「戦争」についてのエピソードが描かれているんですね。
ざっとなぞるだけで
「アナフィラキシー」 「魔王大尉」
「とざされた記憶」 「空からきた子ども」
「あつい夜」 「戦争はなおも続く」

など結構あります。
探せばまだまだあると思います。

特に「生と死」をリアルに扱う医者を題材としたブラックジャックですから
手塚先生自身も必然的に「生きる」ことへの力強さ、美しさ、そして儚さ
表現できたのではないかと思います。

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機会がありましたらぜひ戦争についてのブラックジャックエピソード
読んでみてください。


リンク貼っておきます。

(「アナフィラキシー」「あつい夜」収録)

(「とざされた記憶」収録)

(「魔王大尉」収録)

(「空からきた子ども」収録)

(「戦争はなおも続く」収録)



という訳で今回はブラックジャックのエピソードの中から
「絵が死んでいる」をお届けいたしました
如何でしたでしょうか。

戦争と言うと小難しい感じを受けますが
メッセージを受け取るためだけに漫画を読むというのも億劫なもので
そんなの関係なく楽しみながら漫画を読むのが一番です。

歌詞を理解していなくても音楽を楽しむ事と同じように
作者の意図を100%受け止められなくてもいいんです。
もう全然OK
気楽に読んでみましょう

まずは触れてみてそして興味を持ったならばこのチャンネルにある動画を
参考によりディープな手塚治虫の世界を愉しんでいただければ幸いです

それでは最後までご視聴下さりありがとうございました。
次回お会いしましょう。


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