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【手塚治虫漫画全集】全巻紹介 第5弾!131巻~150巻編

手塚治虫と言えば
ギネスブックにも載るほど膨大な数の作品を残している作家であります。
だから「名前は知っているけど何を読んでいいのか分からない」と言う方も多いと思いますし、ファンの方でも全部読んでいる方は少ないと思います。
そこでこの【note】では講談社発行の手塚治虫漫画全集をベースに
手塚作品をガイド的に紹介しています。

手塚治虫漫画全集は全400巻あり、今回はその第5弾!

131巻~150巻までのご紹介となります。
それでは本編をお楽しみください。


「未来人カオス」

78年作
宇宙を舞台に描かれる友情と裏切りの物語。

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冒頭でいきなり親友の大郷錠が誘拐され
変なやつらに「親友の須波を殺して欲しい」と頼まれます。
なぜ親友の彼らが標的になったのか?
謎を残したまま大郷は親友の須波を殺してしまいます。

親友を殺せば出世は約束すると言われた大郷はその後大出世を…。

一方、宇宙人の謎の力で一命を取り留めていた須波
10年後に
復讐のため、大郷のもとを訪れるんですが
ここで2人に圧倒的な差がついており
須波は大郷には近づくこともできず惨敗
そこから「カオス」と名乗りさらに復讐を誓うというストーリー

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友の裏切りにあったカオスでしたが、
逆に多くの異星人の親友を得ていく……
その一方、地位も名声も手に入れた大郷錠の心境は段々孤独に。

友情って何だろう愛ってなんだろう。
人類の進歩と調和ってなんだろう。
色んなものが奪われていくと
唯一残るものって「信じる」ってことなのでは???

…と、ふと考えさせられる深いテーマ。

そして驚愕のラストはほんとぶっとびますよ(笑)
言わない方が驚きますので読みたい方はスキップしてくださいね。


ここからネタバレです。

えーまず大郷錠がマフィアみたいなやつに殺されるんですね。
メッタメタに!
それでとある教授に助けられるんですけど
この教授が、わしの素性を明かすかといって顔を剥ぎだすんですね。
それで現れた顔が宇宙なんです。宇宙
顔が宇宙空間になっているんです。よくわかんないでしょ(笑)
イメージするとキン肉マンのブラックホールみたいなやつです

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それでそいつの主人が宇宙の創造主らしく
宇宙を創ったそうで
しかもそいつが2人いるんです。それも敵対している2人
ドラゴンボールの神様と悪魔のピッコロが2人いるイメージですかね。

「この世から友情は消せるだろうか?」
という実験のサンプルに選ばれた二人の青年
それが大郷と須波
だからお前たち親友は殺し合ったのだと。

そしてラストは余りに壮大なスケールゆえか第一部完、というか未完!


これはね
手塚治虫が「友情」について描いたスペース&ヒューマンドラマで
少年誌でなく青年誌ネタですね。
タッチは少年誌ですけどテーマは深い!深すぎ!
相変わらず深いですし3巻までしか出ていませんが内容は極厚!
凝縮感がすごいですよ、強引な構成力だから展開も早いしついていけなくなるときあります。マジで(笑)

まぁここら辺は毎度のことでもあるんですけど
ですけどねコレ今の時代でリメイクしたら10倍の30巻くらいのネタでいけるんじゃないですかね。

まぁなんだかんだ分けわかんない展開もありましたが
3巻のラスト30ページくらいを見るとちょっと震えますよね。
こういう事なのねっていう事とか、これからの2人の関係性とか
気になるところではありますが一応の完結ということで第一部完。

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「アバンチュール21」 

1970年作
最新型旅客機「ルナパーク1号」の事故で両親を失った少年が両親を奪われた過去に立ち向かうため、
手術により人間並みの知能を手に入れたウサギのミミオ(耳男)と共に
地底を進む地球貫通列車(ルナパーク3号)で地底探険に挑むというストーリー。

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この作品は自身の『地底国の怪人』のリメーク版です
『地底国の怪人』とは、1947年に発表された『新宝島』『火星博士』に続く、手塚治虫の長編漫画単行本第3作目で
ドイツ出身の作家ベルンハルト・ケラーマンの冒険小説『トンネル』から強い影響を受けて戦後すぐに発表した作品です。

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手塚先生が『手塚治虫エッセイ集7』の中でこの本について、
「『罪と罰』や『レ・ミゼラブル』などと並んで
『トンネル』はぼくの心をもっともゆさぶった小説」

とその魅力を熱く語っています。

なお、本作品は2度リメイクされていて
1951年と本作の1970年

よほどこの『地底国の怪人』がお気に入りだったみたいですね
特にこのうさぎのキャラクターを非常に愛着を感じており
何度でも登場させてやりたいとも言っています。

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「地底国の怪人」

1948年作
飛行機事故で父親を亡くしたジョン少年は、安全な乗り物を新たに造ろうと誓い、地球を貫通したトンネルの中を走る「ロケット列車」を設計。
彼の助手となったウサギの耳男とともにロケット列車に乗り、
トンネルを掘っていくが、地底で遭難してしまう。
ほぼ一緒な内容ですね。まぁ当たり前ですけどリメイクですから。

SFと言えば普通は宇宙なんですがこういう地底という設定を放り込んでくる辺り見事であります。
そして動物との共生、共存、いかにもありそうでない世界観を描き出しているのも見事!
このウサギの「耳男(みみお)」というなんとも短絡的なニックネームですがこのキャラが愛らしいほどにカワイイ。さすが先生が愛着を持っていると語るくらい可愛く書かれています。


ですが…死んじゃうんですね。(あ、言っちゃった)
こういう自らが大好きと語る、大切にしたいからこそ破壊する 哲学的・文学的な要素、手塚先生が目指すドラマの完成形の原型がここにあるんではないでしょうか。

ちなみに悲劇を初めて漫画に持ち込んだ作品とも言われております。



「W3」

1965年作
戦争が絶えない地球を反陽子爆弾で消してしまうか
それとも存続させる価値があるかを
調査するために銀河連盟から送り込まれた調査員
地球人に正体を見破られないために
それぞれウサギ、カモ、馬に変身し姿は動物でも圧倒的な科学力を持つ3名に乱暴だけど純真な少年・星真一との冒険SF作品

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この作品はラストシーンが感動的
とにかくオチが素晴らしいです。美しいまでの伏線回収
きっと読み終えた人全員自分のヘソを見たんじゃないかな。


コマ割り、構図、非常に躍動感あふれる作品
手塚先生自身もどんなもんだこのラスト!
と自信ありげにあとがきで語っています。
少年真一とW3の活躍と心のふれあいを描いたタイムパラドックスを交えた傑作と言えます。

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アニメ版は虫プロダクション製作で、
1965年6月6日 - 1966年6月27日にフジテレビ系で全56回
この時、内部抗争や色んな社会的状況の大人の事情が入り乱れている中で
手塚先生本人が意地になってこのアニメを完成させています(笑)


アニメもヒットしましたが
時代のうねりとともに「ウルトラQ」が登場してきます。
これには手塚先生はヤバイと思ったそうです。

こんなエピソードが残っています。

珍しく手塚先生が家族と夕食を共にしたとき「W3」が放送される時間に、
子供たちそれぞれ別の番組が見たくてチャンネル争いをしていました。
それを見かねた母親(手塚夫人)は「お父さんの番組を見なさい」と叱ったそうです、、、、ですが…
そのとき手塚先生は「子供の観たいものを観せなさい!」と怒鳴り、
子どもたちはびっくりして声も出ず、母親は驚いて泣き、気まずいムードになったといいます。


ちなみにこの時に息子の真さんが見ていたテレビこそが
「ウルトラQ]だったそうです。

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「バンパイヤ」

1966年作
本作品は手塚先生がシェークスピアの『マクベス』をベースにして描いた作品であります。間久部緑郎という悪の化身のような青年が自分以外は虫ケラ以下のゴミクズのような存在として扱う超エゴイズム全開のマンガ。

…というのは本筋ではなくて
本筋は
オオカミに変身する能力を持った少年・トッペイ
彼が主人公です。

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彼は怒りの感情が湧いてしまうと、
突然オオカミ男に変身しまう呪われた種族・バンパイヤ一族。
そんな彼が人間と獣族との関係の中でどのような活躍を見せるのか?
というストーリーなんですが…

狼に変身する主人公よりも冒頭に説明したこの悪役ロックの徹底した悪人っぷりの方が遥かにキャラが際立っている為、段々そっちにシフトしていくマンガなんです(笑)

ドラゴンボールのベジータとか
麻雀マンガの天のアカギみたいな

脇役が主役を食ってしまうようなキャラになっちゃう

人を殺害する事を何とも思わない
自分に逆らう者は、全て排除していく
悪魔のように賢くて残忍で
カッコイイほどに悪行をまき散らす
主人公のトッペイすらも利用して世界征服を企む悪の権化みたいなキャラ
主人公が悪役に取り込まれるなんて
通常のマンガではあり得ない猛烈な設定
正々堂々真正面の悪の美学がハンパない
まさにマンガ史に残る悪役中の悪役

「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「リボンの騎士」を見ていた子供たちは
とても同じ作者とは思えないほど残虐性が強いマンガに驚いたと言います。
現に相当なクレームの手紙が届いたそうですが
手塚先生は
「ボクは完全に手塚節のマンネリ化に終わってしまうことが怖くてしょうがない」と語っているように意識的に変化させたのは間違いありません。

そしてこれは手塚先生の本意かは定かではありませんが
後半はこのロックが主役になっていくんです。
なにがしたいねん。って展開ですけど
こうなってからの方が俄然面白くなっていくんですから不思議です。

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人間であるロックの暴走がバンパイア以上の怪物になっていく設定。
ロックの悪役性の方がモンスターとしての脅威になっていくという。
本当のモンスターは人間の心なんだぞというある種のアンチテーゼにも取れる展開。


怪物を変身のテーマに挙げておいて
その怪物より人間の方が怖いという
人間の本質的な暗黒面を描き出すストーリー展開に手塚先生の本性が見えた気がする作品です。

ここら辺はシェイクスピアの「マクベス」をベースにしただけあって
必ず不幸なことが起こるという言い伝えが残るマクベスになぞらえて残虐にしたのかも…。

ちなみ1968年に特撮ドラマ放映された作品にて
トッペイ役を演じたのは『相棒』で有名な水谷豊さんで(当時15歳)、
事実上のデビュー作です。
そして当時では革新的なアニメとの融合させた変身シーンは
富士見台にあった手塚先生の自宅に庭で撮影されたものです

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「ばるぼら」

1973年
手塚治虫の真骨頂である人間の本音や欲望を赤裸々に描いた
「狂気とエロスが共存」した作品
世界中にコアなファンを持つカルト・マンガの傑作
猟奇的でエロティックな文学作品にも匹敵する手塚作品の傑作中の傑作
めちゃくちゃ面白いです。

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2020年にはご子息の手塚眞さんにより実写映画化もされました。

最高級のカオスマンガをご堪能ください。


「どろろ」

1967年
これはねもう話したいことがたくさんある作品です。
ボクの中でもベストに入ってくる作品であります。
もうね設定が最強、これでおしまい。この時点で勝ちなんですよ。

ストーリーは簡単に
舞台は戦国時代、ある男が天下をとるためにこれから生まれてくる子供の
好きなところをやるから力を与えてくれと魔物に願い契約します。

そこで産まれてきた子どもが体の48ヵ所を魔物に奪われた幼子
目も鼻も口も耳も手も足も体中のあらゆるものが欠損した赤ちゃん。
その後、 医術師に拾われ、作り物の手足をあてがわれ、生き延びます。

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ある日『四十八の魔神を倒せば、人間としての体を取り戻せる』
お告げを聞き
失った体の部位を取り戻すために妖怪を倒す旅に出るというお話し。

どうですか?


もうこの設定面白くないわけがない。
当時これを読んだボクはストーリー覚えていないけど
このすさまじいキャラクター設定にワクワクしたのははっきり覚えています

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当時はあまり評価が高くなく、
巻数にしてわずか4巻...。
直ぐに打ち切りとなってしまいましたが、
このどろろの設定は後世における漫画や小説にも未だに大きな影響を与えています。

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映画、小説、マンガ、ゲームなどあらゆる分野で
リメイクやオマージュされているのは、やはりこの設定が秀逸だからという証明でもあります。

「ベルセルク」「無限の住人」「黒鉄」「魍魎戦記MADARA」
あたりはかなり影響を受けてますね。(まだまだありますよ)

寺澤武一先生も大の手塚ファンですから「コブラ」のサイコガン設定も
似てるっちゃあ似てます。(元アシですもんね)


もうね、マンガ史上最も優れた設定とも言われているくらいですから
そりゃあしょうがないです。

①体にハンデがある

②48体の魔物全てを倒さなければならず、
一体倒すごとに身体の一箇所再生する

③倒せば倒すほど人間に近くなるが
真人間に戻るため弱くなる矛盾をはらんでいる

これどうですか?
創造してみてください。
もしあなたが作家ならこの設定聞いただけで物語が浮かんできますよね。
これ100人中100人が違うストーリーを模索できる模範的テンプレートだと思います。
誰が書いてもどう転んでも面白くなるんじゃないかっていう。
そら受け継がれていきますわって話。

これマジで、マンガ好きと語るなら読んでいないとモグリです。
鉄腕アトムもジャングル大帝も読んでいなくてもいいです。
だけどこの設定は現代において多くの影響を与えているマンガであり
これ知らないなんてあり得ない
そのくらい完成されたテンプレートマンガです。


しかしそんな素晴らしいマンガでありますが…
当時は相当な苦悩があったんですね。
この作品が生まれるちょっと前の1965年

手塚先生は新たな才能の出現に腰を抜かすんです。
その人とは「水木しげる先生」
ゲゲゲのあの人ですよ。

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一躍妖怪ブームを巻き起こした天才に
手塚先生が嫉妬に狂ったという話があります。
衝撃を受けて自宅の階段から転げ落ちたとも…

これに対抗して書かれたのがこの「どろろ」なんですね。
これこそが手塚版妖怪マンガだと言わんばかりの対抗作!

あとがきにも次のように書いています。

「ぼくは人一倍負けん気が強く、たとえば漫画でも、
ある作家が一つのユニークなヒットをとばすと、
おれだっておれなりにかけるんだぞ、という気持ちで同じジャンルのものに手を出す、おかしなくせがあります。」

嫉妬と暴言でおなじみの手塚先生ですから
当然、水木先生に嫉妬しても何ら不思議ではありません。


大友克洋先生にはその凄まじい画力に嫉妬し、
「あなたが描くような絵は僕にも描けるんです」と言っちゃうし
石森章太郎先生には
「石森君、あんなものはマンガじゃないよ」も喰らわしますし
荒木飛呂彦先生には
「東北出身の有名漫画家はいないから是非頑張って」と言っちゃう。

藤子不二雄先生がはじめて手塚先生に会いに手描きの原稿を見せたとき
手塚先生は「へーまあいいんじゃないの」と薄いリアクションをしたそうですが実は内心
「とんでもない奴が現れた」とびびったとか
とにかくとんでもない嫉妬したときに必ず出る必殺ブローが暴言なんです。

まぁこれは非常に有名な話でありますので
むしろこれはマンガの神様に認められたという称号でもあるんですけどね。


一方水木先生は手塚先生をモデルにした「一番病」というマンガを描いて対抗します。

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一番になる事ばかりにあくせくする棺桶職人を描いた作品で
手塚先生を完全にディスってます(笑)
ですが後年、2人の不仲説は否定されていますのでご安心を…
もう水木先生の凄さを語りたいのですが長くなるので止めましょう。
ほんとすごいですからねこの先生


ところで「ゲゲゲの鬼太郎」に嫉妬したとありますが
検証してみると面白い事が浮かび上がります。
「どろろ」の連載が始まったのは「週刊少年サンデー」1967年8月27日
ところがこの時点では、「ゲゲゲの鬼太郎」ではなく
旧タイトル「墓場の鬼太郎」で
実は人気は、それほど高くなかったんです。

鬼太郎ブームは「ゲゲゲの鬼太郎」に改められてからの1967年11月12日と言われていますから妖怪ブームのピークは1968年だったんです

「どろろ」の連載が1967年ですから
つまり世間で言われている妖怪ブームよりも早く、来たるべき妖怪ブームを
手塚先生はいち早く捉えていて嫉妬していたことになります。

この慧眼には驚かされますね。
これこそが誰もついていけない未来を読む能力、
「手塚治虫最強の能力」なんじゃないでしょうか。

そして手塚先生が嫉妬した作家はもれなく全員有名作家になっています。
ここら辺を踏まえるとやはり相当な時代を捉える
神の目を持っていたといえますね。


それでは今回はここまで。

次回第6弾はこちらです


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