二十歳のころ 第十九章

パースへ向かうヘイケイと別れ、僕はポートヘッドランドに向かった。車中で一泊すると昼過ぎにはポートヘッドランドに到着した。赤道に近いせいか日差しがとても強い。バス停の周囲にはこれといった目印になるような建物はない。普通の民家に囲まれている。僕のようなバックパッカーはバスから荷物を降ろすとどこかに向けて歩き出した。どこに向かうのだろうか?僕に何処かに行くあてがあるというわけではない。僕は彼らの後をついて行った。
しばらく歩いていると民家を改造したバックパッカーズに到着した。僕はバックパッカーズの中に入り受付に行き数泊するつもりだと告げた。宿泊の手続きを済ましドミトリーの部屋にバックパックを置いた。僕は寛ぐためと情報収集するために旅行者が集まっているラウンジに足を運んだ。
ラウンジにはエクスマウスで出会った日本人のバックパッカーがいる。どちらからというわけでもなくお互いに挨拶をした。僕は彼女らからポートヘッドランドの過ごし方の話を聞きだした。バックパッカーズのオーナーがポートヘッドランドの案内を無料でやっていること。バックパッカーズからスーパーマーケットまで少し距離を歩かないといけないこと。ポートヘッドランドで催されているカリジニナショナルパークのツアーは景観が素晴らしいこと。一通り話を済ますと僕は礼を言い、受付に行った。
僕はポートヘッドランドの無料案内のツアーを申し込んだ。そしてカリジニナショナルパークのツアーについて尋ねてみた。カリジニナショナルパークのツアーは毎日催されているわけではないことを説明された。最短で四日後に催行されるという。四日間もポートヘッドランドで待つのかと僕は思った。しかしこの旅を通して僕は少しずつ待つことに慣れ始めていた。四日間待機することくらいたいしたことではない。僕は四日間待つことを了承し、ツアーを申し込んだ。
僕は夕食の準備をするために、スーパーマーケットに買いだしに行った。ステーキ用の肉、ソーセージ、ハム、卵、インスタントラーメン、食パン、お米、玉ねぎ、バナナ、リンゴ、ティーパック。上記に挙げたものが僕の主な食材である。しっかりした物を食べたい時はステーキと玉ねぎを炒めたものとご飯。軽めな時はインスタントラーメンの上に卵を落としたもの。飲み物は大抵紅茶である。平均すると一食五ドル以内で収まるようにする。朝はパンと紅茶。昼はフードマーケット等で外食をする。夜はバックパッカーズで簡単な調理をする。これが僕の食のパターンである。グルメとは言い難い。食費をケチって少しでも旅を続けようという意思が僕にはあった。身軽な一人旅だ。たかが飯じゃないか。どうしようと僕の勝手である。
しかしバックパッカーズにはバックパッカーズの作法があることを一人のバックパッカーに教えてもらった。僕が食材を買い込み、スーパーの袋を無造作に冷蔵庫に入れると、一人の女性が僕に突然注意をしだしたのだ。
「あなたは何もわかっていないようだから教えてあげます。バックパッカーズでは自分の食料品は自分の名前をスーパーの袋に書いておかないと盗まれます。」
凛とした忠告だった。僕は驚いた。食料品が盗まれるということも少しは驚かされたが彼女の忠告が僕の旅に対しての心構えの甘さをついたものでもあったからだ。僕はどこか旅に対して無防備であった。同じ宿に泊まっている旅人に対してほとんど警戒感を抱いていなかった。僕の周りにはいつもいい人が集まっていると思いこみをしていたのだ。
「え、本当ですか?食料品も盗まれるのですか?」
「そうよ。私も何回も食料品を盗まれたんです。袋に名前を書くのは当たり前です。」
僕は周囲を見回した。ほかのバックパッカーもそうだそうだと頷いている。中には彼女の意見に同調し体験談を話しだす人も出てきている。
「わかりました。気をつけます。」
僕は油性マジックを借り、袋に自分の名前を書いた。また一つ僕は旅の技術を習得したのだ。

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