二十歳のころ 第十六章

エクスマウスの滞在は僕の旅の基本となる土台を作ったように思える。バックパッカーズで相部屋のドミトリーを利用する。食事は外食でなく、スーパーで食材を買って、バックパッカーズのキッチンで簡単な調理をする。安く宿泊代や食事代を浮かすという面も大きくあるが同じ旅の仲間と話すには一番適していた。ドミトリーに泊まれば旅行者同士挨拶程度は自然に言葉を交わす。相手が日本人なら言葉が通じる。一人ぼっちにもならないし、また一人で時間を過ごしたい時は一人にもなれる。バックパッカーズで食事をし、ビールでも飲めば会話は弾む。旅を始めたばかりの僕にとってバックパッカーズは居心地のいい空間だった。
エクスマウスで何人かの日本人のバックパッカーと知り合いになった。みなワーキングホリデーの制度を利用していた。彼らはワーキングホリデーの滞在の最後の思い出としてオーストアリアをラウンドしていると話を聞かされた。僕のように一ケ月間オーストラリアに滞在して旅に出てしまったという旅行者は皆無だった。
彼らにはオーストラリアの経験があって僕にはなかった。しかし経験がないことは決してネガティブなことではなかった。それは僕がオーストラリアや旅に対してすれていなかったからだ。だからバックパッカーズで出会うバックパッカーに親切にしてもらったことが決して少なくなかった。テレビもラジオもないエクスマウスのバックパッカーズ。夜になれば旅仲間とビールを飲みながら語り合うことが宝物だった。
僕は彼らに旅の話を聞いてみた。西オーストラリアは自分の持っている知識以上に見どころがあった。
コーラルベイ。珊瑚礁に囲まれたビーチでシュノ―ケリングを楽しむことが出来る。
ポートヘッドランド。ポートヘッドランド自体には観光するものはほとんどないがバックパッカーズのオーナーが個性的であり滞在してみる価値がある。
ブルーム。ケーブルビーチがあり、そこから眺める夕焼けはとてもきれい。時期によっては月の階段といわれる幻想的な景色を見ることが出来る。
カナララ。時期によるがフルーツピッキングの仕事にありつけるらしい
バングルバングル。無数の奇岩を見ることが出来る。
キャサリン渓谷。ガイドブックにも記載されている有名な美しい渓谷。
僕は彼らの話を聞く前はこのような計画を立てていた。モンキーマイアでイルカを見て、エクスマウスで甚平サメを見る。そしてブルームに立ち寄り、ビーチライフを楽しむ。キャサリン渓谷を観光し、ダーウィンに到着する。ざっと大目に見て二週間くらいの旅の予定だった。十分な旅の日程だ。ところが旅に出てみるとその二週間はあっという間に経ってしまう。しかもまだエクスマウスいるという有様だ。
僕は計画を綿密に立て、旅をするタイプでは決してない。だからといって人に流されやすいタイプでもない。人に流されやすいタイプだったらわざわざ大学を休学してオーストラリアまでこない。僕は初めての異国の旅で自分の無知を知った。ガイドブックには載っていない情報は多々あるのだ。そして生の情報を聞くことと旅で起こることを何もかも新鮮に受け止めようと努めた。

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