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住宅宿泊事業(民泊)について考える

はじめに

 2010年代に訪日外国人が増加し、東京、大阪、京都など主要観光地での宿泊需要が急増し、これにより、個人がマンションや一軒家を貸す違法民泊が普及したが、ゴミや騒音など近隣トラブルが発生し、政府は2018年6月に「住宅宿泊事業法」(いわゆる民泊新法)を施行し適切な運営を義務付けたが、法整備後も違法運営や苦情が続いている 今回は民泊について考えてみたい。

民泊とは

 戸建住宅やマンションなどの共同住宅等の住宅の一部または全てを活用し、旅行者に宿泊サービスを提供することを指す。一定のルールの下、健全な民泊サービスの普及を図るため、2018年6月に「住宅宿泊事業法」が施行され、民泊を営業する際には国土交通省への届出(特区民泊の場合は内閣府の認証)が必要である。(旅館業法の許可ではない) 民泊の増加に伴い、AirbnbやBooking.comなどネットを介した予約サイト(OTA)が世界中に展開しており取扱が増加している。

 民泊は実は簡単には開業できず、住宅にホテル同様の防火適合性や自動火災報知設備の設置、消防署の検査が義務付けられている。近隣住民への事前告知や保健所(または自治体の民泊担当課)との協議や検査も必要で、ほぼホテル・旅館の許可を得るためのステップを踏むことになる。また、運営は原則として住宅宿泊事業管理業者に委託し、ゴミは家庭ゴミではなく事業ゴミとして自治体の回収か回収業者に依頼しなければならない。

民泊に泊まるお客様は

 訪日外国人が民泊に泊まるメリットには、価格以外にグループでプライベートに過ごしたり、自炊して自国の家庭料理を楽しむことできることがあげられる。また、日本の住宅地に滞在して商店街を散策し、日本の住文化を味わうことも魅力の一つである。
 一方、日本人グループは乱暴なパーティーや飲み会での大騒ぎなど、外国人よりトラブルが多い傾向がある。しかしながらTVのバラエティ番組の企画での長期滞在は、良いお客さんであった。

東京都の民泊の現状

 国土交通省によると、東京都の民泊届出住宅数は9,328室で、コロナ禍や東京オリンピックの需要減で廃業が相次いでおり、全体の約4割が廃業している。東京都全体の宿泊施設総室数は約21.7万室で、民泊は全体の約4%に過ぎない。

住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況
2024年5月15日時点

 区ごとに異なる民泊の届出件数は、宿泊需要とは無関係であり、主に地域ごとの追加条例に基づくものだ。例えば、中央区や江東区ではタワーマンションが多く、土日以外の営業を制限している。荒川区も旅館業法や民泊の許可が厳しく、これらは開業が難しい地域とされる。

民泊届出しやすい区としにくい区

 最近話題になった路上の謎のキーボックスは一部は中国人がオーナーまたは運営の国土交通省に未届のヤミ民泊だと思われる。
何故なら中央区、江東区は合法な民泊営業は採算が取れず、事実上不可能であるためである。
そもそも、正規に届出を行ってていたとしても、キーボックスでの鍵の受け渡しは都内の民泊は禁止されてるはず。

 ある中国系民泊運営受託会社の苦情の割合が下の図で、民泊新法施行後も近隣での喫煙・ポイ捨て、騒音、ゴミが6割を占めている。これは宿泊者側のモラルの問題もあるが、運営側もチェックアウト後の清掃時以外スタッフが常駐していないため、管理が行き届いていないことによると思う。

ある住宅宿泊事業管理業者が運営する施設での苦情の割合
(2019年、約20施設、約300室)

今後民泊は儲かるのか?

 民泊ビジネスは儲かると主張する動画が多いが、民泊届出経験者で様々な民泊を見てきた筆者の視点から見ると、法令順守により利益が減少するという現実がある。民泊は年間最大180日しか営業できず、一部の区では土日のみの営業が可能で、経済性が問題となる。さらに、区によって24時間管理者の必要性があり、これにより室数が制限されるため、コストが増加する。多くの届出済み民泊が法令違反で運営されているとの推測もあり、さらに防火や消防設備の整備はホテル並みで初期投資とランニングコストがかかる点も挙げられる。
 最近は国土交通省とAirbnbやbooking.comなど主要OTAはデータ連携して180日ルールを監視してるが、中国人運営の民泊は180日超えた時点でWeChatのミニプログラムでの販売に切替て、国の監視を逃れている。

今後、東京に民泊に需要はあるのか

 以前、筆者が外国人にプレゼンした時の2021年の予測データによると、東京、大阪、京都のホテルや旅館の客室数は急速に建設が進み、需要を上回る供給過剰状態となるとされていた。この予測はコロナ前で東京オリンピックが予定通り開催され、インバウンドがその後伸びる前提のデータである。さらに、現在はこのデータより東京で約7万室供給が増加している。
 私が運営していた京都のホテルでは2019年秋以降、稼働率が大幅に低下し、紅葉シーズンや年末年始にも回復しなかった。

京都、大阪、東京のホテルの需給バランス
筆者作成

 訪日旅行者の宿泊ニーズと新設されるホテルの供給との間にミスマッチがあり、これがホテル不足の誤解を生む原因となっている。
 ほとんどの新設ホテルは15平米以下のレストランを持たないか朝食のみのビジネスホテルであり、訪日外国人は30平米以上の5つ星ホテルやキッチン付きのサービスアパートメントを好む傾向にある。
 これに対し、広々とした部屋やキッチンが付いた民泊スタイルのホテルチェーンが人気を集めている。例えば、コスモスイニシアの「MIMARU」は全客室にキッチンとダイニングスペースを備え、自宅のようにくつろげる環境を提供している。他にも、HIS前社長によって設立されたJHATの「Monday」やSQUEEZEの「Minn」も同様のビジネスモデルで展開しており、全国に数十の施設を運営している。
 こうしたニーズにマッチしたホテルが増加している一方で、民泊業界は過剰な競争や規制の厳格化に直面し、多くの施設が廃業に追い込まれる状況にある。

まとめ

 民泊は当初宿泊施設不足や旅行者と宿泊施設間の需要のミスマッチを補う存在として、政府も後押ししていたが、違法な運営は民泊新法施行後も続き、依然として近隣住民とのトラブルが起こっている。これらの運営またはオーナーは過半が中国資本である。
 近年、いくつかのホテルチェーンは需要のミスマッチを埋めるような民泊スタイルのホテルを運営し始め業績を伸ばし、民泊が東京、大阪、京都において生き抜いていくことは難しいと考える。万が一民泊が新たなマーケットを見つけたとしても遵法営業は不可能であるため、オワコンである。

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